表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
エルピス領編
19/168

1、旅立ち

 ・・・時は過ぎ、僕は少しだけ大きくなった。背も伸び、体格もそこそこ引き締まっている。


 あれから一体、何年が過ぎただろうか?神域に居ると時間の感覚が解らなくなってくる。


 神域はずっと夜だ。空には常に、星々(ほしぼし)が輝いている。現在の時刻も良く解らない。


 恐らく、18歳かそれくらいにはなっただろうか・・・。まあ、今は良い。


 現在、僕とミコトは神域で本気の決闘をしている。空間を縦横無尽に駆け、僕達は戦う。


 僕とミコトの手には、それぞれ神木で作られた木剣が握られている。神域にのみ生える貴重な神木で作られた木剣だ。その硬度はかなりの物だ。


 もはや、僕もミコトも人間の限界を大きく超越した動きをしている。常人なら、僕達の動きすら捕らえられないだろう。目視すら不可能な超高速の戦闘を行っている。


 僕はあまりにも強くなった。それこそ、ミコトすら圧倒する程にだ。神域の空間が(ふる)える。


 剣の技量も力も以前とは比べ物にならない。それこそ、赤子と大人どころの話では無い。


 人間の赤子と神程の差があるだろう。余りに圧倒的だ。


「は、ははははははっ!!!」


「・・・・・・・・・・・・」


 ミコトは笑う。もはや自分が追い詰められて尚、それでも笑う。楽しげに、嬉しそうに。まるで、自分の事のように笑う。


 その気持ちが、理解出来ない。したくない。


「はははっ、よくぞ、其処までの高みに辿り着いた!!!その境地に(いた)った!!!」


「ああ、そうかよ!!!」


 ミコトは少年の姿から死神の化身へと変わる。溢れ出る、禍々(まがまが)しい死の気配。


 死の瘴気(しょうき)が、溢れ出る。


 黒いボロ布を纏った骸骨の化身が姿を現す。


 死神の化身が持つ権能は、死。あらゆる生命に死を与える純粋にして単純、そして恐るべき権能だ。


 その木剣に触れれば、例え何者であろうと死は免れない。今の彼が持つ木剣はまさしく死神の鎌。


 触れただけで死を与える死神の鎌だ。


「・・・・・・・・・・・・」


 ・・・しかし、それでも僕は恐れない。今の僕にはその程度、蚊が刺す程度でしか無い。


 僕はミコトの木剣を(やわ)らかく受け流し、そのままかち上げた。空中を()う木剣。


「ぬうっ⁉」


 ミコトは次に猪の化身に変化し、巨大な大嵐を起こした。巨大な大竜巻と幾つもの神雷が荒れ狂う。


 (おけ)をひっくり返したような集中豪雨も同時に発生する。


 それは、もはや常人など到底太刀打ち出来ない次元の災厄だ。恐らく並の奴なら一瞬で死ぬ。


 まさしく神の成す所業。それ程の大災厄だ。しかし・・・。


 しかし、それでも今の僕には通じない!!!


「・・・ふっ!!!」


 一閃(いっせん)。僕が木剣を振るう、それだけで局地的な大嵐は一瞬で断ち切れた。


 まさしく、それは次元を超えた剣技と呼べるだろう。僕が木剣を振るった。それだけで、巨大な大嵐が断ち切れた訳だ。いや、壮観(そうかん)だな。


 ・・・本当に強くなり過ぎた。後悔も反省もしていないがな。


 ミコトは猪から少年の化身に姿を変える。しかし、僕の方がよっぽど速い。一瞬で距離を詰める。


 木剣を振るい、鋭い一閃でミコトを断つ。


          ・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 地面に横たわるミコトと、それを見下ろす僕。僕とミコトの視線が交差(こうさ)する。


 ミコトはもう、既に手遅れだ。もはや助かるまい。神という存在そのものを斬ったから。


 僕が斬った。僕が、ミコトを斬ったんだ。


「ふっ、俺を斬った事を後悔するか・・・。少年・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 それは違う。僕が不服に感じている事があるなら、それはミコトを斬った事では無い。ミコトを斬る事に全く躊躇いを覚えなかった僕の心にだ・・・。


 僕はこんな時でも何も感じていない。ミコトを斬っても、それでも僕は何も感じない。


 それが、嫌だ・・・。たまらなく不快だ。まるで、世界の色が失われていくようだ・・・。


「ふふっ、案ずるな。俺が死ぬ訳では無い。お前との決闘の際、事前に手を回しておいたのだ。また何れお前とは会う事になるだろう」


「・・・・・・そうかよ」


 (うそ)だ。こいつは、ミコトはもう死ぬ。もう何をやっても手遅れだ。それくらい解る。


 ・・・ミコトはもう死ぬんだ。そう思うと、余計気分が(くら)くなった。


 何も感じない。誰かを殺しておいて、何も感じない。それが、不快だ。


 心が痛まない。胸が痛まない。何も感じない・・・。


 ・・・そんな僕を見て、ミコトは軽く溜息を吐いた。その顔は、苦笑を浮かべていた。


「まあ、良いさ。この神域を出たらお前は神山を出ろ。旅をしていく内に何か思う事もあるだろうさ」


「・・・何かあるとも思えないけどな、僕は」


 それこそ無駄(むだ)だろうに。僕は、きっと何も感じる事は無い。きっと、これからも。


「・・・・・・なら、何故お前は生きている?」


「?」


 ミコトは笑って僕を見ていた。何故、そんなに笑えるんだろうか?僕には解らない。


「お前は生きている。そんなに世界が生きにくいなら、何故お前は生きている?」


「・・・・・・それは」


「お前は生きている。生きる事を()めていない。なら、きっとお前はまだ希望がある筈だ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 解らない。僕には解らない。結局、僕は何故生きているのだろう?考えても理解出来なかった。


 結局、何も解らないまま僕は神域から出た。


 ・・・神域を出た後、僕はすぐに神山を下りる準備をした。回復薬や神山の豆を袋に入れる。


 準備は全て整った。腰に短剣を差し、木剣を手に神山を(くだ)る。


 神山を下りながら、僕は思う。神域での修行の日々を。


 始めは英霊一人にすら敵わず、思うように戦えなかった。只、必死に食らい付くしか出来なかった。


 しかし、僕は必死に食らい付いた。必死にあがき続けた。それは何故か?何故、僕は最後まで決して諦める事をしなかったのか?


 ・・・簡単な話だ。只、僕は強くなりたかったから。二度と自分の世界を失いたくないからだ。


 アイデンティティー・クライシス。自己同一性の危機を乗り越えて、初めて僕は僕になれる。


 僕はそれを、強さに求めただけだ。誰よりも強くなりたい。もう、二度と自分の世界を失うような事がないように強くなりたい。僕は、無双の強さが欲しい。


 ああ、何だ。僕はようやく理解する。僕は只、まだ生きる事を諦め切れないだけだ。


 結局、僕も只生きたかっただけだ。自殺をして尚、それでもきっと、来世こそはきっとと。


 生きる事を諦めきれなかった。あれだけの絶望を経験して尚、それでも諦めきれなかったんだ。


 来世は、来世こそはきっとと。僕は希望だけは捨てきれなかった。


 ・・・・・・何て、無様(ぶざま)な。心からそう思う。本当に無様だと。


 僕は只、生きぎたないだけだ。自殺して尚、自殺する程の絶望を経験して尚、それでも諦められない。


 諦めきれない。


 ・・・ああ、何て無様。僕の心をぽっかりと穴が開いたような気分になる。


 心の穴を、冷たい風が吹きすさぶ。寒い。心の底から冷える。


 神山を下山していると、目の前にオーガの戦士が見えた。


「ふむ、どうやら生きて帰ってこれたらしいな」


「・・・・・・何故、門番が此処に?」


「事前に山の神から頼まれたのさ。要は(むか)えだよ」


 どうやら、最初から根回しされていたらしい。何とも抜け目の無い。僕は呆れて溜息を吐いた。


「ああ、そうかよ・・・」


「そうだな」


 ・・・僕とオーガの戦士は再び、歩き出した。神山を下山する。


 もう、神山の門もそろそろ見えてくる筈だ。だから、僕は何となくオーガに話を振った。


 本当に、何となく。


「所で、あれから何年の時が過ぎた?」


「・・・そうだな、あれから8年くらいは過ぎたな」


 やはり。僕はもう、18歳になるらしい。時間の流れを感じる。


 ・・・妹は、母は、今はどうしているのだろうか?そんな考えが、不意に(よぎ)った。


 過って、その思考を振り払った。もう二度と会う事の無い人達だ。考えてもしょうがない。


 目の前に、門が見えてきた。僕は、ついに神山を下りた。


 此処から僕の本当の旅が始まるんだ。そう感じたのだった。

ちょっとした設定。人間の持つ異能と神々の権能について。

異能とは即ち、何かしらの理屈で、或いは何かしらの法則に則って行使される能力の事だ。

つまり、その世界の物理法則に則って行使される能力の事だ。

対する権能は神の持つ権限、権利を差す。

つまり、その能力を行使する権利の事だ。

故に、その様な権利があるから例え、物理法則に反していても能力を行使できる。

要は、理屈や法則など関係ないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ