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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
エルピス領編
18/168

プロローグ

 ・・・時が過ぎ、あの日の少女は少しだけ大きくなった。


 かつて、少女だった彼女はもう18歳だ。


 レイニー伯爵家の一人娘、リーナ=レイニーは森の中を走っていた。(けわ)しい山道を、彼女は息を切らせて必死に走り続ける。必死に逃げ続ける。


 リーナは必死に走る。息を切らせ、土に(まみ)れようと、それでも足を止める訳にはいかなかった。


 足を止めれば、瞬く間に追手に追い付かれてしまうだろう。・・・そう、リーナは追われていた。


 一体誰に?リーナを追っているのは何者か?・・・それは。


「ぐるあああああああああああああああっ!!!」


 獣の絶叫が、森の中を響く。そう、リーナは魔物に追われているのだ。


 それも只の魔物では無い。猟犬(りょうけん)の姿をした、黒い魔物だ。それも、アンデッド。屍の魔物だ。


「はあっ・・・はあっ・・・」


 走る。走る。リーナは必死に走り続ける。追い付かれないように、足を止めない。


 足を止めれば、瞬く間に追い付かれるだろう。そうなれば、リーナは魔物に食われるだろう。魔物の餌となりその糧となるだろう。


 そうなれば、リーナを逃がした父と母の苦労が水の泡となる。それだけは避けねばならない。


 それだけは、絶対に(いや)だった。


 それに、リーナはまだ死にたくない。まだ生きたい。こんな所で朽ち果てたくなかった。


 だから、必死で逃げる。必死に逃げ続ける。まだ、死にたくない。こんな所で死ぬ訳にはいかない。


 足がもつれようと、悲鳴を上げようと、それでも走り続ける。逃げ続ける。


 ・・・そして、必死に逃げ続ける中、リーナは目の前に一人の青年の背中を見た。


 何故、こんな所に人間が⁉リーナは目を見開いて、驚く。


 早く、青年に逃げるよう言わなければ。青年を巻き込んではいけない。そう、思った・・・。


 ・・・しかし、何故だろう?リーナの心の中で何かが引っ掛かった。この感覚は、懐かしさ?


 ふと、頭に浮かぶのはかつて自分が初めて恋した少年の姿。その、後ろ姿と青年が重なる。


 何故、こんな時に彼の姿が浮かぶのか?何故、彼と目の前の青年が重なるのか?


 不思議と胸が高鳴った。心臓が鼓動(こどう)を速める。


「・・・あっ。あの、其処(そこ)に居たら危ないですよ!!!」


 気付いたら、リーナは青年に声を掛けていた。はやる鼓動を抑え、その青年に声を掛けたのだ。


 息を切らしながらの、(かす)れた声だった。しかし、それでもリーナは何とか声を掛けた。


 声を掛けずに居られなかった。


「・・・あ?僕か?」


 怪訝そうな声。その声は、この状況に余りにも似つかわしくない軽い物だった。


 青年が振り返る。その姿を見て、リーナは愕然と目を見開いた。思わぬ運命のイタズラに、思わず彼女は卒倒しそうになるのを必死にこらえた。


 見間違えようも無い。その顔、その雰囲気。そして、何よりもその黒髪に青い瞳。


 リーナの中で、一瞬時間が止まる。彼女の心臓が早鐘(はやがね)を打つ。


 そう、彼こそリーナの初恋の人。無銘の少年と再会した瞬間だった。

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