表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
無銘の世界編
163/168

9、固有宇宙樹

 ゆらゆらと、ふわふわと、僕は意識の海を(ただよ)っていた・・・


 只、意識のみがゆらゆらふわふわと漂っている。それを、僕は只認識している。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 僕はどうして此処にいるのだろう?確か、僕はナハッシュの黒炎(こくえん)に焼かれて消滅した筈。だが、実際にこうして僕は意識を保っている。だとすると、恐らく完全な消滅はしていないのだろう。


 意識の海を漂いながら、僕は思考に没入(ぼつにゅう)する。何故、僕は完全な消滅を免れたのだろうか?固有宇宙に覚醒した事が何か関係があるのか?それとも、何か別の要因(よういん)があるのか?


「・・・・・・・・・・・・」


 そもそも、固有宇宙(こゆううちゅう)とは一体何なのか?それを最初から考えてみよう・・・


 固有宇宙、神域に至る程の意思(いし)の力により自己を固有の宇宙と化す。単一の異界法則。


 己を単一の宇宙に変異させ、宇宙の法則から外れた存在となる人類の極奧。宇宙の法から外れ、自己の法にのみ従う為、全知全能の神王ですら予知出来ない。人の形をした宇宙法則だ。


 神王は意思の力を魂の熱量(エネルギー)だと言い換えていた。つまり、意思とは魂が発するエネルギーだ。しかしもしそうだとすれば、人類は意思の力で自己進化を可能としている事になる。


 ・・・しかし、それは現段階では半ば不可能だ。それはこれまでの歴史上、覚醒した人物が三名しか存在しない事からも理解出来るだろう。自己を単一の宇宙(ソラ)へと変異させるほどの意思の力など、それはもう神の領域に等しい奇跡だ。しかし、それを成し遂げた者が三名は存在する。


 即ち、恐らくは抜け穴が存在するのだろう。それも、本来は見落とす筈の小さな抜け穴が。


 ・・・それは一体何なのか?そもそも、固有宇宙に覚醒する為の要素は一体?彼と我の違いは?


 考える。僕は深く、思考の海に没入する。


 ミコトは固有宇宙を完全な自己観測宇宙と称した。自分で自分を観測(かんそく)すると。そして、観測こそが世界を構成する為の第一要素だと言っていた。つまり、其処が(かぎ)だろう。


 ・・・其処で、僕は一つの仮説を立ててみた。もしかしたら、人間には固有宇宙に覚醒するまでもなく固有の世界観を保有しているのでは?と・・・


 つまり、人間は本来観測する能力と共に固有の世界を構築(こうちく)する能力があるのではと考えたのだ。


 世界を構成する第一要素が観測なら、その観測に観測者の主観(しゅかん)が入ってもおかしくはない。ならばその観測者の視点で見た世界こそ、固有の世界ではないかと考えた。


 その独自の主観で見た固有の世界。それが他者に観測される事により互いに干渉(かんしょう)しあう。つまり固有の世界が互いに干渉しあう事により、この世界は構築されているのかもしれない。


 ———だとすれば、固有宇宙とは・・・


 神域に至る程、強すぎる意思により自己観測した固有の世界なのではないか?そう僕は考えた。


 ともすれば、全ての人類を覚醒させる為の方法とは・・・其処に思い至った時、僕の視界(しかい)はクリアに開けたような気がした。視界一杯に光が()ちる。


          ・・・・・・・・・


 次の瞬間、僕の目前には途方もなく巨大な大樹(たいじゅ)と、途方もなく広大な草原が広がっていた。そして僕の目前に一人立つ少年が居た。僕は、何故かその少年に懐かしい感覚を覚える。


 見た目は只の少年にしか見えない。しかし、その(まと)う気配は人外(じんがい)そのものだろう。そう、その少年はまさしく人外の者だ。人外としか言いようが無い。


 ・・・しかし。僕はその人外に何処か懐かしい感覚を覚えている。


 ———ああ、なるほど?


 僕は納得した。この少年は、僕の魂の根源(こんげん)なのだと・・・


 僕の魂は、この少年を根源にして(わか)れた存在なのだと。そう納得した。


 納得して、思わず乾いた笑みが(こぼ)れる。


「よう、無事に此処まで成長(せいちょう)して嬉しい限りだ。我が子よ」


「・・・そうか、貴方が僕の魂の根源。全ての始まりなんですね?」


 僕の言葉に、少年は頷いた。その表情はとても(うれ)しそうだ。とても嬉しそうに笑っている。それはまるで我が子が成長した事を喜ぶ親のようだ。まさしく、その通りなのだろうけど・・・


「我が子、無銘(むめい)。我が名はシークレット・チーフ。俺はこの時をずっと待っていた。お前がこうしてこの領域まで到達する日を。ずっと待っていた」


「・・・この領域?」


 僕は、改めて周囲を確認する。すると、さっきまで途方もなく巨大に見えた大樹が実際は遥か膨大な数の宇宙の集合体だと理解した。そう、此処は多次元並行宇宙の真の外側(そとがわ)だ。


 大樹に見えているのは、過去から未来へと宇宙が可能性により分岐(ぶんき)していく。その様を樹形図として現しているのだろうとそう理解した。


 その事実に気付き、僕は愕然とした。そして、同時に僕は気付いた。目の前に見える途方もなく巨大な宇宙樹とほぼ同一の存在が、僕の中に存在していると。似て非なるモノが、僕の中に存在すると。


 ・・それは、まさしく。


「・・・宇宙の系統樹(けいとうじゅ)?」


「そう、お前は既に虚無の固有宇宙では無い。固有宇宙樹とも呼ぶべき存在へ昇華(しょうか)している」


「固有・・・宇宙樹・・・・・・?」


 チーフは頷いた。そう、僕の存在は既に固有宇宙の領域を遥かに逸脱(いつだつ)している。それはまさしく固有宇宙樹とも呼ぶべき存在なのだろう。可能な全ての可能性と宇宙観を網羅(もうら)した、宇宙の系統樹だ。


 恐らく、僕はその系統樹から無限に概念や質量を引き出す事が可能だろう。そして、その可能な宇宙観から選択し組み合わせる事で、新概念(しんがいねん)を創造する事も可能だ。それは例え理論上ありえざる力、説明が不可能な力すらも構築(こうちく)して出力可能という事になる。まさしく規格外な能力だ。


 あらゆる物理法則も、物理定数も、質量も、生命も、この系統樹の中に一つに存在している。


 ・・・そして、恐らく僕の力はそれだけではない。


「そう、お前の固有宇宙樹は宇宙の系統樹。そして、固有宇宙樹には更なる権限(けんげん)も含まれている」


「それが、真なる霊長権(れいちょうけん)か・・・」


 僕の口から、自然とその名が零れて落ちた。真なる霊長権。或いは、真なる霊長王。全ての生命の長である霊長の最上位個体。霊長種の王。


 ・・・それが、固有宇宙樹には付随(ふずい)しているのだろう。


 僕の言葉を聞き、チーフは静かに頷いた。


「・・・かつて、俺が接触した魔術師は人類の歴史を三つの時代(アイオーン)に分けた」


「三つの時代(じだい)・・・?」


「そうだ。まず、原始宗教の支配する始まりの時代。次に単一宗教により支配された停滞の時代、そして最後に全ての人類が固有宇宙に覚醒した覚醒の時代だ」


 始まりの時代、停滞の時代、覚醒の時代。それ等三つの時代の・・・最後の時代。


 それが———


「覚醒の時代・・・」


「そう・・・人類を覚醒の時代に導き、覚醒した人類の頂点(ちょうてん)に立つ存在。それが真なる霊長だ」


「・・・・・・・・・・・・」


「そして、真なる霊長には最上位の権限がある。全人類を覚醒へと導く権限と、全宇宙の許容量を軽く逸脱した無尽蔵のエネルギーが・・・」


 全人類の覚醒権と、宇宙の許容量(キャパシティ)を逸脱した無尽蔵のエネルギー。


 ・・・物は言いようだな。僕は思わず苦笑した。


「それは、つまりは全人類を覚醒に導く為に必要(ひつよう)な権限だろう?」


「そうだな。全宇宙の、全人類を覚醒に導くにはそれだけの権限(エネルギー)が必要という事だ」


 そう言って、チーフは肩を(すく)めた。全宇宙の全人類を覚醒に導く、それには単純計算でそれ程の権限と無尽蔵のエネルギーが必要になるだろう。故に、霊長の王足りえる。


 ・・・まあ、それはともかくとしてだ。


 僕は表情(かお)を引き締める。チーフも、そんな僕に笑みを向けた。


「それよりも、そろそろお前は戻らなければならないのではないか?」


「・・・そうだな。そろそろ僕も戻るよ」


 そう言って、僕は笑みを浮かべる。僕にも戻るべき場所(ばしょ)がある。だから・・・


 僕は、意識を元居た宇宙(ソラ)に向けた。元居た宇宙の、元居た場所に———


 瞬間、僕は世界を超越(ちょうえつ)した・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ