表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
少年編
16/168

番外、戦いと修行の日々

 神域に入って修行を始めて、一体どれくらい過ぎただろうか?僕は今、ミコトと組手(くみて)をしていた。


 組手と言ってもほぼ決闘に近い。僕もミコトも木剣を手に打ち合っている。・・・組手?


 ・・・・・・まあ、良いか。別にどうでも良いや。


 ミコトは三つの化身(けしん)に変化して、変幻自在に攻めてくる。戦神としての姿である少年の化身。山の神としての猪の化身。・・・そして、死神としての姿である黒いボロ布を纏った骸骨の化身だ。


 現在、ミコトは少年の化身の姿で僕と打ち合っている。ようやく僕も、まともにミコトと戦えるまでに強くなったらしい。その動きに付いてこれるようになった。


 僕もミコトも、もはや人間の限界を遥かに超越した動きをしている。


 ミコトの少年の化身が持つ権能は神域の剣技を操る、只それだけの力だ。しかし、それでもかなり厄介である事に変わりはない。それはつまり、剣一本で神々の権能に匹敵するという意味だ。


 それは即ち、剣技だけで神の権能と認められる力があるという事でもある。


「ははっ、良いぞ‼よくぞ此処まで研鑽(けんさん)し、磨き上げた!!!」


「ああ、そうかよ!!!」


 ミコトの称賛(しょうさん)に、僕は軽口で返す。軽口を叩きながら、木剣を打ち合う。


 しかし、まだだ。まだ足りない。もっとだ、もっともっと強くなりたい。強くならなければ!!!


 こんな物じゃない。僕はまだ、もっと強くなりたいんだ!!!


 斬って、結んで、払って、薙いで、激しく打ち込んでいく。


 もっとだ。もっともっと上へ、高みへ。僕はまだ往ける‼まだ僕はやれる‼更に更に更に・・・。


 ・・・しかし。限界は無情にも(おとず)れる。


「・・・・・・っ、ごふっ!!!」


 唐突に、僕は血を吐いた。訳も解らないまま、僕は膝を着く。


 何だ、これは⁉身体が動かない‼


「ふむ、もう限界か・・・」


「・・・何だって?」


 僕は意味が理解出来ず、問い返した。しかし、ミコトはそれを無情に告げる。


「限界だよ。お前の身体が、激しい運動に付いていけずに悲鳴を上げているんだ」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 僕は衝撃を受けた。こんな所で、限界に突き当たるなんて。僕自身思いもしなかった。僕の心を絶望感が満ちていくのが理解出来る。


 しかし嫌だ、僕は認めない。こんな限界など、僕は断じて認めない。こんな所で終わってたまるか‼


 僕は必死に木剣を地面に突き立て、杖代わりにして立ち上がった。まだだ、僕はまだ終わらない。


 もはや、意地だけで僕は立っているような物だ。ああ、そうさ。こんな限界など僕は認めない。


「・・・・・・ほう?まだやるのか?」


「・・・・・・・・・・・・当然だ。僕は、まだやれる」


 そう言って、僕は木剣を構えた。そうだ、僕はまだやれる。こんな所で終わってたまるか!!!


「・・・ふむ、ならば是非(ぜひ)もないな。此処で終わらせる」


「馬鹿を言うな。僕はまだ終わらない。終わってたまるか・・・」


 そう言い、僕は木剣を構えて駆け出した。しかし、その瞬間ミコトは猪の化身に姿を変えた。


 純白の、巨大な猪。その猪が、天に向かって()える。


 まずい、あの化身は・・・。そう思った直後、僕の視界を白い光が(おお)った。


 猪の化身が持つ、山の神としての権能は天候操作。即ち、局地的な天候を操る権能だ。天気が崩れやすい山の神だからこその権能だとか。


 雷に打たれ、僕の意識は刹那と持たずに暗転した。


「安心しろ。手加減はした・・・」


 最後に、そんな声が聞こえた。いや、雷落として手加減とか無くねえか?


          ・・・・・・・・・


 更に、僕の修行は続く。今日も僕は、英霊達を相手に木剣を振るう。


 英霊の数は何十万も居る。その一人一人が、一騎当千の猛者(もさ)だ。数も質も申し分ない。


 ・・・しかし、僕には足りない。


 もはや、英霊クラスの猛者でも僕の相手は通じなくなってきた。高位の英霊の大軍勢を相手に、僕は無双をしていく。しかし、それでも僕には足りない。まだまだ物足りない。


 僕は、弱い僕を許せない。僕はもっと強くなりたい。だから、もっともっと駆け上がる。


 限界など知らない。果てなど認めない。僕はもっと先を目指す。


 もっと先へ。もっともっと最果てを越えて先へ。僕は駆け上がってゆく。


 まだまだ、僕はこんな物じゃ無い。此処では終わらない。もっとだ、僕はまだ往ける。


 英霊が復活する度に斬る。英霊が復活するより速く斬る。更に速く、もっと強く、まだまだ往ける。


 最初は何十万も居た英霊の大軍勢。それがやがて十万に、八万に、一万、やがて千人にまで減った。


「まだまだ、もっともっとだ!!!」


 僕が吼える。


 僕はまだ往ける。まだ先へ往ける。もっと先へ・・・。限界など知った事か!!!


 しかし、英霊の数がやがて十人をきった頃・・・。ついに、それは来た。


「・・・・・・ぐっ、がはっ!!!」


 僕はまた血を吐き、膝を着きそうになった。しかし、それを根性で食い止め僕は木剣を振るう。


 その瞬間、一瞬僕の中で何かが覚醒(かくせい)しかけた。それが何だったのか。今の僕には理解出来ない。


 しかし、今はそんな事はどうでも良い。


 僕は、残りの英霊を切り伏せ、そのまま意識を手放した。暗転。


          ・・・・・・・・・


 ・・・僕が仮眠(かみん)を取っていた時、不意にミコトが話し掛けてきた。


「いやはや、正直お前の執念を()めていた」


「・・・あ?」


 僕は片目を開け、ミコトを見る。ミコトは楽しげに笑っている。・・・何だよ?


 て言うか、その手に持った酒瓶と酒杯は何だ?思わず、僕は呆れた視線を向ける。


 しかし、ミコトは意に介さない。楽しげに笑う。


「いやいや、お前の執念は軽く異常だよ。異質(いしつ)と言っても良い」


「・・・・・・何が言いたい?」


「そう睨むな。俺は只、お前に聞いておきたい事があるだけだ」


 ミコトはそう言って、手にした酒杯を(あお)る。こいつ、酒を飲んでやがる・・・。


 僕は溜息を一つ吐き、再び目を閉じた。


「・・・・・・で?僕に何が聞きたいんだよ?」


「少年、お前は強くなって何がしたい?お前は強さの先に何を(もと)める?」


「・・・・・・・・・・・・」


 僕は黙り込んだ。別に、答えられない訳じゃない。その回答は明白だ。それは、以前にも話した。


 ・・・僕が強くなりたい理由。それは。


「お前が強くなりたい理由、それは?」


「・・・僕は只、もう何も失いたくないだけだ。もう二度と、失わない為の力が欲しい」


 そう、僕はもう失いたくないだけだ。何も失いたくない。二度と、失わせない。


 覆水(ふくすい)は盆に返らない。故に、失った物は取り戻せない。


 だから、もう二度と失わない。失わせない。失ってたまるか。


 それが例え妄執(もうしゅう)と言われようとも、僕はもう二度と失いたくない。だから、その為の強さが欲しい。


「・・・・・・お前は以前、独りでも生きていける力が欲しいと言ったよな?それはつまり、もうそれ以上失う物が何も無いという事では無いのか?」


「それは、違う・・・」


 僕は即答した。それは断じて違う。僕が失いたくない物は、そんな物では断じてない。


「僕が二度と失いたくない物。それは、自分自身だよ・・・」


「自分自身?」


「ああ・・・。あんな、自分の世界が壊れるような思いは二度とごめんだ。だからこそ、もう二度と失いたくないんだよ。もう、断じて失ってたまるか・・・」


 自分が不甲斐ない為に、弱かったばかりに、自分すら守れない。そんなのはもう、ごめんだ。


 だからこそ、僕は強くなる。独りでも生きていける強さを身に付ける。


「その為に、お前は孤独になっても良いと言うのか?」


「ああ」


「それが、例え独りよがりな強さでもか?」


「それでも構わない。僕は強くなりたいんだ」


「・・・・・・・・・・・・そうか。ならば、もう良い」


 ミコトは溜息を漏らすと、最後にそう言った。僕は今度こそ、仮眠に入った。


「・・・・・・やれやれ、まさか固有宇宙(こゆううちゅう)に覚醒する間際にまでいくとはな」


 最後に、そんな言葉が聞こえてきた。しかし、その言葉の意味を僕はついぞ知らなかった。

最後にミコトが口にした、固有宇宙とは一体何なのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ