5、復活する者
刹那、僕達は強大なプレッシャーを感知した。そのプレッシャーを僕とハクアは知っている。
何故なら、この威圧感は・・・
「この威圧感は・・・」
「ああ、原罪の蛇だ・・・・・・」
そう・・・かつてハクアの身体を操り、その腕の一振りで次元すら引き裂いた原罪の蛇。その圧倒的威圧感が遥か彼方から感じられる。世界を覆い尽くして余りある、強大なプレッシャー。
その強大な威圧感に、流石の僕やハクアも冷や汗を流す。それは、かつてハクアの身体を使って顕現した頃よりも強大な力を放っている。余りにも強大過ぎて、もはや単一の宇宙そのものだ。
その途方もないプレッシャーに、ミトロギアは唸り声を上げる。遥か彼方、大陸の南東部を睨み。
「・・・ぬうっ、ついに目覚めたか」
「ミトロギアは、この気配の主を知っているのか?」
僕が聞くと、ミトロギアはうむと頷いた。その表情は何処となく焦っているようにも見えた。
冷や汗と共に、強大なプレッシャーの発生源を睨み付け唸る。
「奴は、我等アークエンシェントの中でも最上位にして最古の女王。エンシェントロードと呼ばれる個体であり原初の蛇神だ・・・」
「原初の・・・蛇神・・・・・・」
ハクアが冷や汗と共に呟く。その言葉は、今も尚感じる威圧感と相まって空気を緊張させる。
世界全体が、その威圧感により緊張し空気が張り詰める。まるで、世界が怯えているようだ。
原初の蛇神。その名は僕も知っていた。それは僕も決して無関係ではない。何故なら、僕の母はその原初の蛇神を崇拝する巫女の一族だからだ。原初の蛇神を崇拝し、魔女の烙印を押された巫女の末裔。
即ち、僕はその蛇神を祀る巫女の末裔に当たるだろう。
「原初の蛇神・・・。神の座から堕とされ、竜種の始祖となった者。即ち、全ての竜種は原初の蛇神の血を引いている事になるだろう。しかし、そんな事は今は関係ない。奴は、自身を神の座から竜へと堕とした神王と古の神々を深く恨んでいるのだ・・・・・・」
「神王・・・、神王デウスか・・・・・・」
僕の言葉に、ミトロギアは頷く。神王デウスと竜種の間にまさか、そんな因縁があったとはな。
全ての竜種は古き地母神である原初の蛇神の血を引く。即ち、星天魔法の正体はそれだ。
竜種とは、即ち大自然の化身だ。つまり、星の生命力に直結するエネルギーを宿す。恐らく、それが星天魔法の原理に直結しているのだろう。大自然の化身、即ち星の化身だ。
・・・しかし、だ。
しかし、だとすれば神王は何故そんな真似をしたのだろうか?今の神王を見ても、そんな事をするような存在には到底思えないが。それとも、今と昔では何か事情が異なるのか?
だとすれば、その事情とは一体何だ?
「神の座から堕とされたエンシェントロードは、千体の竜種を率いて神王に戦争を仕掛けた。その戦争で私とソリエスは早々にエンシェントロードに見切りをつけて裏切ったのだ」
当時、エンシェントロードを裏切った竜種は十体にも満たない極少数だったという。しかし、その裏切りの効果は絶大だったらしい。戦争は、エンシェントロードの敗北で終わった。
内部からの裏切りにより、内側から崩された竜種の軍勢は一気に神々により蹂躙されたという。
そして、ソリエスは竜王を名乗り神王の創った世界に仲間を引き連れて移住した。ミトロギアだけはそれに付いて行かず、そのままこの世界に残ったらしい。
そして、竜王ソリエスは幻想大陸の王となったと・・・そういう事らしい。
しかし、それにしても解せないな・・・
「・・・・・・お前達は、当時どうして裏切ったんだ?」
「エンシェントロードは、生まれた全ての竜種から自由意思を奪っていた。俺達はその中で自由意思を何とか取り戻した極一部の例外だよ・・・」
「何故、お前達だけ自由意思を取り戻せたんだ?」
「・・・それは、解らない。しかし、もしかしたら奴の支配も完璧ではなかったのかもしれない」
「・・・・・・・・・・・・」
———そう、エンシェントロードの支配も決して完璧ではなかった。即ち、綻びがあった。
つまり、当時エンシェントロードの支配から逃れた一部の竜種が反逆し、神王に味方した。
その支配というのも完璧ではない、エンシェントロード単一で全ての竜種を管理する以上は何処かで必ず綻びが生じるものだ。つまり、支配の目をかいくぐった一部の竜種が居たという事だ。
エンシェントロード単一では、種全体を管理するにも限界がある。神だった頃ならまだしも、神の座から堕とされた身ではその支配体系にも限界があるのだろう。その結果、裏切る個体が出来たと。
しかし、だとしたら何故そんな非効率的ともいえる支配をエンシェントロードはしたのだろう?
———或いは、何か事情があったのかも知れない。しかし、それは?
考え込む僕。しかし、どうやら考え込んでいる時間もなくなったらしい・・・
王都の方角から、飛んでくる竜の影があった。真っ直ぐ、此方に向かって飛んでくる。
・・・それは、竜騎士だった。




