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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
無銘の世界編
156/168

3、ミトロギア

 結果、僕とハクアは洞窟(どうくつ)の中からはじき出された。既に僕達の手には聖剣と魔剣が握られている。


 一瞬で臨戦態勢を取ったお陰で、僕達は何とか一命を取り止めた。流石に、洞窟内でのドラゴンブレスは危険に過ぎるだろう。事実、今のブレスで洞窟が崩壊(ほうかい)しかけた。


 ブレス自体は断ち切ったが、その余波により僕達は洞窟からはじき出された訳だ。すぐさま、僕とハクアは姿勢を立て直し、洞窟を(にら)む。すると、中から勢いよく一匹の竜が飛び出した。ミトロギアだ。


 その姿は、とても雄々しく美しい。まるで、神話の世界から飛び出したかのような威容だ。その圧倒的な威圧感に僕とハクアは思わず息を呑んだ。一瞬、その威風に呑まれかけた。


 しかし、それでも何とか意識を立て直して剣を構える。ミトロギアは口元を獰猛(どうもう)に歪める。


「ふはっ、実に良いっ!それでこそ真の勇者(ゆうしゃ)に相応しいものよ‼」


 言って、次の瞬間ミトロギアは天に向かって()えた。瞬間、天に巨大な魔法円が浮かび上がる。それは古き竜種が行使する星天魔法の魔法円だ。真にエンシェントに到達した竜種のみ行使可能な魔法。


 ・・・エンシェントの固有魔法だ。


 星天魔法とは、星や宇宙の法に干渉して操作する魔法の事だ。真に星天の理を操る魔法である。


 ・・・僕とハクアは魔法円に膨大なエネルギーが収束してゆくのを見て、冷や汗を流す。それはまるで空にもう一つの太陽(たいよう)が誕生したかのような光景だった。天に、巨大な光球が出現する。


 ・・・遥か上空に存在している筈のその光球から、膨大な熱量を感じる事が出来る。それは、まさしく第二の太陽に相応しい極熱(きょくねつ)だった。此処に居るだけで、干からびそうだ。


「・・・おい、あれはまずいぞ」


「・・・・・・・・・・・・」


 僕の言葉に、ハクアは何も言えずにただそれを見据える。否、無様にも硬直をさらす。


 その硬直が、致命的な(すき)を生んだ。


「ギイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」


 瞬間、天と地を光の柱が繋いだ。その太陽にも等しい極熱が、大地をぐつぐつと煮えたぎる灼熱のマグマへと変異させる。それは、まさしく原初の地獄(じごく)に相違なかった。


 そんな地獄に立ち尽くす僕とハクア。身体の至る所に火傷(やけど)を負ってはいるが、何とか無事だ。


 無事ではあるが、それでも重傷に違いはない。流石に、かなりの深手を負った。まあ、この程度の手傷などすぐに治るのだが。今はそれは関係がない。


 ・・・恐るべきその威力。固有宇宙に覚醒(かくせい)していなければ死んでいただろう。そして———


「全く、ようやく力が(もど)ってきたか・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 ようやく、僕の力が完全に戻った。そうでなければ、今の一撃で死んでいただろう。それ程の、恐るべき威力を秘めた一撃だった。これが、星天魔法の威力か。


 ・・・竜王ソリエスが、かつて危険すぎると神王との間で封印を契約(けいやく)したという神代の力。原初の理にも通じる竜種の真の力か。確かに、これはかなり危険な威力だ。


 しかし、今の一撃を以ってしてもミトロギアに疲弊(ひへい)した様子は一切ない。恐らく、今の攻撃は大して本気ではないのだろうと思われる。それも、恐らくは小手先程度の力なのだろう。


 その事実に、僕達は思わず震えた。乾いた笑いが()れる。アークエンシェント、果たして一体どれ程の存在だというのだろうか?もはや考える事すらも恐ろしい。


 ・・・しかし。気付けば、僕とハクアの口元には笑みが浮かんでいた。自然と、口角が(ゆが)む。


「・・・くくっ」


「・・・・・・ははっ」


 それは、自分自身でも理解出来ない感情。しかし、それでもこれだけは理解出来た。


 ・・・感情が昂る。気分が昂揚(こうよう)する。何故か、恐ろしい筈なのに同時に楽しくもある。圧倒的強者に嬉しく感じる心を否定できない。それは、一体どういう感情なのか?解らない。


 解らないけど、それでも僕達は笑っていた。獰猛(どうもう)に笑みを浮かべていた。ああ、きっとそれは僕達の魂の根源から湧いてくる感情なのだろう。そう、理解した。


 ・・・そして、それはきっと間違いではない。今は、それに身を(まか)せよう。そう思えた。


「「ははははははははははははははははははははははははははあっ!!!!!!」」


 狂ったように笑いながら、僕とハクアはミトロギアに向かっていく。


 楽しい。ああ、実に愉しい。気分が昂揚する。


 ・・・そんな僕達の姿に、ミトロギアも口元に笑みを浮かべた。それは、とても獰猛な笑みだ。恐らくは並の人間ならば有無も言わさずに(ひる)ませるだろう、凶暴な笑み。そんな笑みに、僕達も牙を剝く。


「素晴らしいっ‼ならば、この俺もそれに(こた)えねばなるまいっ!!!」


 そう言うと、ミトロギアは再び天に吼えた。瞬間、天が鳴動し再び魔法円が浮かび上がる。そして直後に生まれる闇のように黒い天体。それは、まさしく全てを喰らい尽くす死の星。無限密度の恒星だ。


「っ⁉」


「あれはっ‼」


 思わず、僕とハクアは愕然と目を見開いた。その天体を、僕達は知識の中で知っていたからだ。


 ・・・そう、その名は。


創造(そうぞう)、ブラックホール!!!」


 ブラックホール。寿命を迎えた恒星が、自らの重力に()し潰されてその密度を無限にまで高めた結果生まれる無限重力の天体。文字通り、光すらも呑み込み喰らう漆黒の天体であり、重力特異点。


 ・・・直後、地上に吹き荒れる暴食の嵐。全てが、黒い天体に呑み込まれていく。僕は、思わず舌打ちをしてそのまま天に駆けてゆく。空間そのものを足場に、天に駆け(のぼ)る。


「っ、シリウス!!!」


 ハクアの驚いた声が聞こえるが、僕はそれを一切無視して天に駆け上がってゆく。


 ———大丈夫だ、私が付いている。


 ふと、そんな声が聞こえてきた。その声に、僕は(たの)もしさすら感じた。僕は、笑みを浮かべる。


 ・・・僕は、一切恐れる事なく重力特異点に突っ込む。それは、余りにも無謀(むぼう)な行為だ。


 しかし・・・


「せあっっ!!!!!!」


 ・・・そして、漆黒の天体に向けて星の聖剣を振るう。一瞬の静寂(せいじゃく)、その直後ブラックホールは意図も容易く断ち切れて消し飛んだ。その光景は、まさしくありえざる光景だった。


 ・・・そう、まさしくそれはありえざる力の発現だ。密度無限にして重力無限の恒星(ほし)を断ち切る。


 それは、理屈で説明が不可能な力だろう。しかし、星の聖剣にはそれが可能なのだ。何故ならこの聖剣はあらゆる概念宇宙を断ち切る力を持つ故に。あらゆる道理や理屈など、それこそ通じない。


 ・・・その光景に、呆然と立ち尽くす者が一人居た。ハクアだ。思わず、僕は溜息を一つ吐いた。


「・・・・・・・・・・・・っ」


「・・・ハクア、お前は村に戻って結界(けっかい)でも張ってこい」


 絶句し、愕然と目を見開くハクアに、僕は視線だけ向けてそう言った。その言葉に、ハクアが更に目を大きく見開いて驚いた。まるで、その言葉が予想外であったかのようだ。


 ・・・しかし、だ。流石にこれだけは(ゆず)るつもりはない。


「考えてみろ。これ以上此処で僕達が暴れたら、周囲の被害が計り知れないだろう?」


「むうっ・・・」


「それに、此処から一番近くにある農村はどうする?ドラコさんやルカさんは?」


「・・・・・・・・・・・・解ったよ。すぐに戻ってくる」


 そう言うとハクアはその場から消えた。空間転移だ。僕はそれを見送ると、星の聖剣を仕舞った。


 ・・・まあ、本音を言うとハクアに邪魔されたくないというのもあるけどな。心の中でそう呟く。


 それに、少しだけわがままを言ってみたくもあったし。


 粒子化して、僕の体内に収納される聖剣。それを見て、ミトロギアは怪訝そうに僕を見た。今、この状況下で星の聖剣を仕舞う理由が解らなかったのだろう。まあ、それも当然の話だ。


 ・・・しかし、これは僕なりの流儀(りゅうぎ)という物だ。此処は、僕の意地を押し通させてもらう。


「何故、武器を仕舞う・・・?」


「簡単な話だよ。お前とは、この拳で(じか)に語り合いたいと思ってな」


 僕は、拳を握り締めてそう言った。口元は、笑みに歪んでいる。


 その一言に、ミトロギアは一瞬(ほう)けた表情になった。しかし、次の瞬間真剣な顔で問う。


「・・・それは、この俺を()めた発言か?」


「それは違うよ。僕は只、お前と友達になりたいだけさ・・・」


 そう、僕は()げた。

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