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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
無銘の世界編
155/168

2、洞窟の中に潜む者《ドラゴン》

 ある日の朝の事・・・僕の力も大分戻ってきた頃。


「アークエンシェント?」


 僕は、首を(かし)げながら問い返した・・・


 突然家に押しかけてきた二人の子供が、口々に(さわ)ぎ立てた。どうやら、農村のほど近くにある大きな洞窟にドラゴンが居たらしい。それが、どうもアークエンシェントだったとか。


 子供達が酷く興奮(こうふん)している。それもそうだろう。アークエンシェントとは、エンシェントの中でも最上位に位置する最上位竜だ。その力はおろか、蓄えた知恵も比較にならない。


 強大な力を持つエンシェントの中でも、更に強大な力と深淵な知恵(ちえ)を持つ種だ。


 ・・・下手をすれば、神々すらも超越する程の真の最強生物だ。その知恵は、星天(せいてん)すら操る。


 そも、エンシェントとは永い年月を生きる事により知恵を蓄え、宇宙(ソラ)の理を操る術を手にした最上位の竜種の事で古竜とも呼ばれる。即ち、世界の法から外れた存在だ。


 神々の法を超えて、自らの法に生きる。その点で言えば、固有宇宙と同格と言えるかもしれない。


 子供達は、興奮しながら話す。その興奮ときたら、まさしく伝説上の存在を目前にしたようだ。


 事実、その通りなのだが・・・


「そうなんだよっ‼洞窟にでっかいドラゴンが居て、自分の事をアークエンシェントだって!!!」


「自分から、そう名乗ったのか?」


「うんっ‼とても強そうだった!!!」


「とても綺麗(きれい)だった!!!」


 そう言って、子供達は口々にそのドラゴンの特徴を言う。黒い鱗に覆われた、光り輝く竜。頭には二本の巨大な角が生えており、黒い鱗に覆われた身体から黄金の燐光(りんこう)が放出されていたという。


 その瞳は青く輝き、何処か神々(こうごう)しい雰囲気を漂わせているとか・・・


 ・・・ドラゴンの特徴を聞いた僕とハクアは、子供達に問う。


「で、何故それを僕達に話したんだ?」


「うんっ、そのドラゴンが村で一番強い者を此処に連れて来いと言ったんだ!」


「二人に会いたいって言ってたよ?」


 ・・・どうやら、ドラゴンの方から僕達に接触を望んだらしい。僕は、ハクアと視線を交わす。ハクアは静かに頷いた。ふむ、是非(ぜひ)もなしか。


「じゃあ、僕達はそのアークエンシェントに会ってくるよ」


「うんっ‼じゃあね!!!」


 子供達は、眩いばかりの笑顔で頷いた。どうやら、子供達にとってそのアークエンシェントはかなり夢のような存在らしいな。僕達は思わず苦笑を()らした。


 しかし、まあ事実そうなのだろう。アークエンシェントとは、半ば伝説上の存在なのだ。


 そんな存在が、ある日突然目の前に出現した。しかも、話し掛けてきたのだ。


 ・・・子供にとって、遭遇(そうぐう)しただけで自慢話には充分すぎるのだろう。内心興奮するのも、ある種仕方がないのかもしれない。そういう物なのだろう。


 僕とハクアは立ち上がり、部屋を出た。部屋の外には、ルカさんが心配そうな顔で立っていた。傍にはドラコさんも居る。まあ、聞き耳を立てている事は気配で感じていたが・・・


「ドラコさん、ルカさん、では行ってきます・・・」


「お、おうっ・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 ドラコさんは歯切れの悪い返事を返し、ルカさんは黙り込んでいる。僕とハクアは苦笑し、そのまま家の外に出ようとした・・・その瞬間、ルカさんが勢いよく顔を上げた。


「あのっ、ハクアさん!!!」


「っ、はい」


 一瞬、びくっとハクアは肩を(ふる)わすとルカさんの方を見た。其処には、少し涙目のルカさんが。しかしその涙に濡れた瞳は、強い視線をハクアに向けている。その瞳に、ハクアは思わず目を見開いた。


 しかし、次の瞬間ルカさんは少しだけ(やわ)らかい笑みを浮かべると、しっかりと頭を下げて言った。


「必ず、帰ってきて下さい。待ってますから・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 その言葉に、ハクアは一瞬目を丸くする。そして、そのまま何も言わずに家を出ていった。


 ・・・僕は苦笑を浮かべてそれに付いていった。最後、見えていたハクアの顔は赤かった。


          ・・・・・・・・・


 農村を出て半時間ほど。洞窟が見えてきた・・・


 農村の人達が聖域(せいいき)として祀っていた泉のある洞窟。メサイア洞窟という名のその洞窟は、最奥までほぼ一本道で迷う事など滅多に無い。それ故、子供達でも簡単に行き来出来る。


 ・・・確かに、この洞窟の奥から強大な気配がピリピリと感じられる。どうやら、この洞窟の奥に件のドラゴンが居るようだ。アークエンシェントが。


 僕は、静かにハクアに目を向ける・・・


「なあ、ハクア・・・」


「何だ?」


「アークエンシェントの話だが、僕達に何の用があると思う・・・?」


「・・・・・・・・・・・・」


 ハクアが考え込むように黙る。しかし、答えは出ないらしい。やがて、静かに首を横に振った。


 僕とハクアは黙って洞窟を見る・・・。洞窟は、岩山に自然に出来た横穴となっている。その最奥に聖域である泉が()いているという。恐らく、その泉にアークエンシェントは居るのだろう。


「・・・・・・まあ、考えても仕方がない。そろそろ行こうか」


「まあ、そうだな・・・。行こう」


 そう言い、僕とハクアは洞窟の中へと入っていった。洞窟は(ゆる)やかな坂道となっており、真っ直ぐと地下へと続いているようだ。洞窟の壁にはほのかに光る(こけ)が生えており、ぼんやりと奥が見える。


 この苔のお陰で、暗い洞窟の中でも視界が確保出来る。薄緑色の光が、洞窟内を()らしている。


 洞窟は地下へ地下へとゆっくりと下ってゆく。その途中に、祭壇(さいだん)と共に石碑があった。


 ———この奥より聖域あり。邪な者は今すぐに立ち去れ。


 そう書かれていた。僕はハクアの方を見る。ハクアは、静かに頷き返した。


 どうやら準備は万端(ばんたん)らしい・・・


 前に進む。しばらく行くと、眩く光り輝く空間に辿り着いた。眩く輝く燐光が立ち上る泉、其処にそのドラゴンは存在していた。そう、アークエンシェントだ。


「よく来たな、異邦(いほう)の者よ・・・」


 ドラゴンが低く(うな)るように語り掛けてきた。どうやら、僕達に用があるのは間違いないらしい。


 真っ直ぐと、僕とハクアを見詰めていた。心なしか、笑みを浮かべている気さえする。


「・・・お前が、アークエンシェントだな?」


「そうだ・・・。だが、俺にも俺の()がある。ミトロギアと呼ぶがいい」


「ミトロギア・・・・・・?それが、お前の名か?」


「うむ、そうだ。異邦の者よ」


「・・・・・・僕の名はシリウスだ。シリウス=エルピス」


「僕の名は、ハクアだ・・・・・・」


 ミトロギアと名乗ったその竜は、うむと頷いた。心なしか、満足そうに笑っている気がする。


 若干、楽しそうな雰囲気を感じる。いや、これは・・・僕の中に何かを()ている?何を?誰を?


「やはり、お前から奴の気配を感じるな・・・。ソリエスは元気か?」


「・・・・・・ミトロギア。お前、竜王ソリエスを知っているのか?」


 僕の言葉に、ミトロギアは楽しげに笑った。何処となく(なつ)かしそうだ。何処か、昔を懐かしむようなそんな雰囲気を感じるが。気のせいではないな・・・


「うむ、ソリエスは俺と同時期に産まれたエンシェントでな。お前から奴の気配を感じたのだ」


 なるほど?つまり、ソリエスの気配を僕から感じたから興味(きょうみ)を持ったという訳か。


 竜王ソリエス。ウロボロスの世界にある七つの大陸の一つ、幻想大陸を()べる王。


 ・・・しかし、どうも用事はそれだけではなさそうだ。何だか好戦的な気配を感じる。どうも僕と戦いたいとそう目が(かた)っている気がする。それも、やはり気のせいではないだろう。


「・・・・・・で?ソリエスの気配を(ただよ)わせる僕と戦いたいと?そう言いたいのか?」


「話が早くて助かる。では、早速戦おうぞ!!!」


 その瞬間、ミトロギアの顎が大きく開き、眩い閃光が星を(くだ)く熱量をともない僕達を襲った。


 その余波は、遥か彼方まで吹き荒れ飛んでいった。それは、まさしく竜王の息吹(いぶき)だった。

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