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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
神域決戦編
151/168

番外、僕と君

 ハクアとの決戦が終結(しゅうけつ)して、一体どれくらいの時が過ぎただろうか?少なくとも、異世界に渡りはや一週間ほどの時が流れた。まだ、僕の力は戻ってはいない・・・


 僕とハクアはとある農村で世話になる代わり、家畜を喰う魔物の駆除(くじょ)を請け負っている。まあ、僕とハクアの二人なら大抵の魔物は相手にならないだろう。と、いうかそもそも過剰戦力が過ぎる。


 僕もハクアも、固有宇宙に覚醒(かくせい)した者。僕の方は力の大半を一時的に喪失したとはいえ、明らかに固有宇宙の領域を逸脱した力を保有している。並の魔物に負ける道理など、早々に無い。


 そんな僕とハクアの二人に、農村の人達は皆感心しきりだった。皆良い人ばかりだ。


 少なくとも、僕はそう思っている。そうでなければ、怪しい二人組など村に()めはしないだろう。


 まあ、そのお陰で助かってはいるのだが・・・


 ・・・しかし、最近ハクアの様子がおかしい。どうも、何か(なや)んでいる節があるのだ。


 魔物を倒す度、後悔と苦悩の混じった表情を浮かべる。それは、ある種焦燥(しょうそう)とも呼べるだろう。そんなハクアの事を泊めてくれている農家の人は大層心配していた。やはり、良い人だと思う。


 まあ、その焦燥の正体を僕は察しがついていた。恐らく、ハクアは・・・


「なあ、ハクア・・・。お前、(あせ)っていないか?」


「・・・・・・何の事だ?」


 ハクアは視線を逸らしてとぼける。しかし、その表情は焦りの色が濃く浮かんでいた。やはり、ハクアは焦りを覚えている。それも、恐らく後々に響きかねない程の特大の焦燥だ。


 僕は静かに溜息を吐くと、ハクアを睨み付けた。かなりの威圧(いあつ)を籠めている。恐らく、今のハクアにはかなりの効果があるだろう。事実、ハクアは冷や汗を流しながら一歩後退した。


 僕は、僅かに声のトーンを落として話し掛ける。


「とぼけるな。ハクア、お前は罪を(つぐな)う事に必死で周囲が見えていないんだよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ハクアは黙り込む。その表情は、俯いていて解らない。しかし、少しだけ寂しそうに見えるのは恐らく気のせいではないだろう。ハクアは今、罪を償う事に必死で焦っている。焦って周囲が見えてない。


 ・・・少なくとも、僕にはそう見えた。そして、それは恐らく間違ってはいない筈だ。


「・・・なあ、ハクア。僕達には時間がそれこそ幾らでもある。固有宇宙に覚醒した僕達は、寿命なんて無いに等しいんだから。ゆっくり償っていけば良いんだ。違うか?」


 そう、僕達に時間は無限にある。それこそ、償うならゆっくりと永遠(えいえん)に償っていけば良い筈だ。そんなに焦る必要性など、何処にも無い筈。だが、どうやらハクアにとってはそうではないらしい・・・


「・・・・・・・・・・・・それは、違う」


「?」


 ハクアは、ゆっくりと首を横に振った。それは、少しだけ悲しそうな顔だった。


 ・・・何か、少しだけ諦念(ていねん)が入ったような。そんな表情だった。何か、僕は思い違いをしている?


 ハクアは少し、悲しそうな笑みを浮かべて言った。それは、ハクアが覚醒した切っ掛けの話だ。


「・・・確かに、僕達には時間が幾らでもあるだろう。それでも、世界にはもう時間が無い」


「それは・・・・・・」


 その言葉の意味を、僕はようやく理解した。確かに、僕達に時間はあっても世界には無いだろう。


 それは、純粋に世界の寿命の問題なんだろう。純粋な、終末論(しゅうまつろん)だ。


 終末論・・・即ち、世界の限界であり世界の終わりだ。世界の、終端(しゅうたん)。人類の歴史の最果て。


「お前だって解っている筈だ。俺達は例え、世界が滅びても生きていられるだろう。しかし、世界の方はもう永くは()たない事を・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 僕は、何も言えなかった。いや、言葉だけなら返す事も出来ただろう。しかし、此処で僕は無責任な言葉を掛ける事などしたくはなかった。少なくとも、それが僕の誠意(せいい)だからだ。


 ・・・しかし、果たして僕はハクアに何と声を掛けるべきか?僅かに思案(しあん)する。


 ようやく落ち着いてきたらしく、ハクアはふぅっと息を吐くと僕を真っ直ぐ見た。


「僕が罪を償うのに必死な理由は、つまりそういう事だ。だから、どうか僕を止めないでくれ」


「・・・・・・いや、それは出来ないな」


「っ!!?」


 その言葉に、ハクアはその目を大きく見開いた。そして、僕を強く(にら)み付ける。その瞳は、僕を邪魔者と見做した目だろうか?とりあえず、どうやら怒らせたらしい。


 しかし、僕はそれでも気にせずに話し続ける。残念ながら、此処で退()く訳にはいかない。


 無粋だろうが、誠意が無かろうが、それでも僕は言わねばならない。


「つまりだ、僕が言っているのは別にそういう事じゃないんだよ・・・。僕はな、只周囲にも少しは目を向けろとそう言っているんだが?」


「・・・・・・・・・・・・」


 それでも、ハクアは不服(ふふく)そうに僕を見ている。だが、僕はそれでも話を続ける。


 真っ直ぐ、視線を()らさずにハクアに伝える。


「お前が焦っているのは周囲に筒抜けなんだよ。皆、お前の事を心配しているんだ。なのに、お前はそれを全て無視して無理を重ねるのか?」


「・・・・・・しかし、それでも」


「・・・お前が急ぐ理由も(わか)る。しかし、世界に時間が無いなら(つく)れば良い。ゆっくりとで良い、世界を救う事でお前は罪を償えば良いんだ」


「っ!!!」


 ハクアは、僕を強く睨み付けた。お前がそれを言うなと、自分の計画を邪魔したお前がと。


 しかし、僕は意にも介さない。


「・・・言っておくが、前回のように世界を一度滅ぼしての再創造は無しだ。それでは誰も幸せになれないし誰も喜ばないだろうが」


「・・・・・・それは」


 一度世界を滅ぼしての再創造。それは残念ながら許容出来ない。それは、認めない。


 もし、そんな事を再びしようものなら。僕はハクアを全力で止めねばならないだろう・・・


 僕は、少しだけ表情を(ゆる)めた。出来る限り優しく(さと)すように言う。


「僕も、可能な限りお前を手伝うから。だからもう少しだけ考えようか?」


 ———今度こそ、(まも)るべきモノの為に。真に大切なモノの為に。


「・・・・・・そう、だな」


 そう言って、今度こそハクアは笑った。清々(すがすが)しい笑顔だった。心の底からの笑顔だった。


 その笑顔に、僕も笑った。心の底からの、本心からの笑みだ。


 今度こそ、正しい形で世界を(すく)おう。その為に、僕達は全力を()くす・・・

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