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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
神域決戦編
149/168

エピローグ

 次元の狭間(はざま)・・・其処を漂うように僕とハクアは居た。


「んっ、んぅっ・・・・・・」


「目を()ましたか?ハクア・・・」


 ハクアが、薄っすらとその目を開く。その瞳は何処かぼんやりとしていて、以前までのどす黒い悪意は一切感じられない。何処か、()き物が落ちたようだ。


 周囲を確認すると、ハクアは状況を把握(はあく)したらしく苦笑を浮かべた。その顔は、何処か自嘲を含んだ笑みのように感じられた。それでいて、何処か寂しそうな笑みだった。


 まるで、迷子の子供のように見えたのは恐らく気のせいではないだろう。


「此処は・・・そうか、僕は負けたんだな」


「ああ、そうだな・・・・・・」


 敗北した。そう、ハクアは敗北したのだ。それを悟ったハクアは、静かに俯く。


 言葉が続かない。沈黙(ちんもく)が支配する・・・


 僕も、何を言った物かが全く解らない。果たして、一体こんな時はどうすれば良いのだろうか?それが全く解らないのだ。沈黙が痛い・・・


 しかし、何か言わなければ。そう思い、口を開きかける。そんな時・・・


「ふむ、何とも辛気臭(しんきくさ)いのお・・・・・・」


「っ!!?」


「・・・!!?」


 突然聞こえた声に、僕とハクアは愕然とする。果たして、何時から其処に居たのか?いや、或いは最初から其処に居たのかもしれない。何故なら、その男は途方もなく巨大(きょだい)だったからだ。


 まるで、超超高層ビルのような。いや、その例えすらも相応しくない。まるで、世界のようだ。


 その身一つで世界を体現(たいげん)するかのように、巨大な巨人だった。


 途方もなく巨大な、そして筋肉質な戦士が其処に居た。それは、まさしく神話の巨人だった。僕とハクアの前には一体の巨人が居た。とても筋肉質で、自らの尾を喰らう(へび)を背に負う巨人だった。


 背後の蛇が、まるで後光(ごこう)のように光り輝いている。その姿は、あまりにも神々しかった。


 思わず、僕とハクアは絶句した。


「貴方は、一体・・・・・・?」


「わしの名はウロボロス。世界巨人(せかいきょじん)、ウロボロスよ・・・」


「「っっ!!?」」


 世界巨人ウロボロス・・・。その名は知っている。世界の(もと)となったはじまりの巨人だ。


 その巨人が、何故こんな場所に?疑問が湧いてくる。


「何故、世界巨人がこんな場所に?」


「まあ、巨人とは言ってもわしは霊体(れいたい)じゃからのう・・・。今はこう、引退した身じゃし?」


 そう言って、ウロボロスはカカと笑う。何とも食えない性格をした巨人だった。しかし、実に愉しそうに笑う巨人だと僕は感じた。そう、実に愉しそうだ。


 思わず、僕達は毒気(どくけ)を抜かれた気分だった。まあ、良い。


「・・・で?何でその引退した巨人が次元の狭間を漂っているんだ?」


「ふむ、わしは一度死んだ身じゃし?此処でこうしてあらゆる世界を(なが)めているのじゃよ」


 ・・・引退後の無聊(ぶりょう)の慰めじゃな。そう、ウロボロスは答えた。


 どうやら、それは本当の事らしい。ウロボロスはカカッと笑った。笑って、その目を愉快そうに細めるとハクアを見て静かに()げた。


「しかし、ふむ・・・お主はどうやらヤミを取り込みおったな?」


「っ!!?」


 びくっとハクアは(おび)えたように震える。目を伏せ、怒られた子供のように硬直した。


 しかし、ウロボロスはそれでも愉快そうに笑うだけだった。愉快そうに、そして孫を見る祖父のような目でハクアを見ていた。それは、何処までも優しい瞳だった。


「良い良い、其処まで気にするでないわ。誰にだって失敗や間違いはあるからの・・・」


「っ、けど・・・」


「そんな気持ちで、お主の恋人(こいびと)は一体どうすれば良いのか?」


「っ、え・・・・・・?」


 驚き、ハクアは思わず顔を上げた。其処には・・・


 其処には、一人の少女が居た。長い黒髪に黒い瞳、笑顔が可愛い少女だった。その少女を見て、ハクアは思わず泣きそうな顔になった。泣きそうになって、それでも必死に涙を(こら)えた。


 恐らく、彼女がハクアの恋人だろう。僕は、ふとそんな気がした。


 何故なら、彼女はハクアを見て笑っていたから。嬉しそうに笑っていたから。


 その笑顔が、まるで恋人と再会出来て喜んでいるように見えたから・・・


「ハクア・・・・・・」


御月(みづき)・・・。ごめん、僕・・・・・・」


 泣きそうな顔で、ハクアは恋人の御月に謝る。それはさながら、自分のやった事を後になって後悔する子供のようでもある。しかし、御月は嬉しそうに笑うだけだ。


 笑って、ハクアをそっと()き締める。


「大丈夫・・・大丈夫だよ、ハクア・・・・・・」


「でも、僕は御月を・・・家族を・・・」


 御月はそれでも笑顔で首を横に振る。まるで、罪悪感に圧し潰されそうな彼を(さと)すかのように。まるでそんな彼の事をそれでも愛していると言うかのように・・・


「大丈夫、それでも私は・・・私達はハクアの事を愛しているから・・・・・・」


「っ、御月っ!!!」


 御月の姿が、徐々に薄くなって消えてゆく。まるで、心残りが消えてゆくかのようだ。


 心残りが消えてゆき、そのまま成仏(じょうぶつ)していくかのようだ。事実、その表情はとても晴れやかで、とても嬉しそうな笑顔だった。晴れやかな笑顔だった。


 そんな笑顔のまま、御月はゆっくりと()けてゆくかのように消えていった。


 ———何時までも、ハクアの事を見守っているよ。


 そんな、言葉を残して消えていった。その言葉は、ハクアの心に深く()み渡ったようで・・・


「・・・僕こそ、御月の事を愛してるよ」


 そう言って、ハクアは静かに笑った。それは、不格好(ぶかっこう)ながら晴れやかな笑みだった。


          ・・・・・・・・・


「もう、()いか?」


「ああ、ありがとうよ。ウロボロス」


「カカッ良いって事よ」


 ウロボロスは快活に笑う。実に愉しそうだ。久しぶりに、人間と話せて楽しかったのだろう。その表情は嬉しそうでもある。心底からの笑顔だった。


 そして、どうやらウロボロスは僕達を何処か近くの世界に転移(てんい)させてくれるようだ。ウロボロスの世界に転移させる事は、距離の問題で不可能だった。しかし、この近くの何処かの世界は可能らしい。


 其処で、僕とハクアはしばらくその世界で滞在(たいざい)する事に決めた。僕の力が戻り、ウロボロスの世界に戻る事が出来るまでの、少しばかりの寄り道だ。


 ・・・そして、僕とハクアを(まばゆ)い光が包み込んだ。


「じゃあな、ウロボロス。元気でな」


「おうっ、久方ぶりに楽しかったぞ?」


 そう言って、ウロボロスは笑った。僕とハクアも、笑った。そして、景色(けしき)が一変した・・・

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