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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
神域決戦編
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10、固有宇宙・虚無

 刹那、僕を幾億の怨嗟(えんさ)の念が襲い掛かった。悪意、憎悪、憤怒、嫉妬、様々な負の感情が嵐となり怨念となり僕に殺到する。しかし、それがどうしたというんだ?


 僕は、手にした太刀を一薙ぎする。その瞬間、視界を埋め尽くす怨念の嵐が断ち切れ(はら)われた。それは浄化の概念の究極であり、無の究極だ。即ち、概念(がいねん)そのものを斬った訳だ。


 星の聖剣、虚空。その剣が宿す権能は即ち、概念宇宙を断ち切る(はら)えの太刀だ。つまり、それは無への浄化と言えるだろう。浄の究極と言える儀礼剣、概念宇宙を断つ概念を宿した宝剣だ。


 この剣の前には、あらゆる概念や質量など関係ない。もろともに断ち切るのみだ。


 それを目にした蛇は僅かに瞠目(どうもく)したが、しかし次の瞬間には悪意的な笑みを浮かべた。


「面白い、ならば我も剣を抜こうではないか・・・」


 次の瞬間、蛇は黄金(おうごん)に輝く刀身の十字剣を抜き放った。それは、かつて僕に敗北を与えた魔剣。


 その十字剣を抜いた瞬間、蛇の力がおよそ四桁ほど倍に膨れ上がった。恐ろしいまでに異常な力。


 しかし、それでも僕は決して怯まない。臆さない。静かに、聖剣を蛇に突き付ける。ああ、充分に理解しているともさ。あの魔剣、蛇の事を(あるじ)と認めてはいない。


 外法の魔剣、ハクアの事を主と認めはしても蛇の事は認めないらしい。即ち、今現在蛇は魔剣を無理矢理従えている状態に他ならないだろう。恐らく、本来の魔剣の性能を十全に引き出せないだろう。


 それは、或いは半分以下の出力に過ぎないのだろう。本来の魔剣の権能なら、恐らく無限の次元を一撃で断ち切るだけの出力は出せるだろう。それでこその星の聖剣の対だ。


 ・・・そう、あの魔剣こそ星の聖剣の対となる儀礼剣。外法(げほう)の魔剣だろう。


 刹那、一瞬の間もなく蛇の姿が消えた。しかし、僕は決して慌てる事無く、背後に回り込んでいた蛇の必断の斬撃を受け止めた。次元が、その余波で断ち切れる。


「ふはっ、よくぞ我が一撃を受け止めた!!!」


「・・・・・・・・・・・・」


 蛇は嗤い、僕は笑わない。剣を交わし、切り結ぶ毎に次元が断ち切れる。それは、まるで神話の光景を見ているかのようだ。それほどまでに激しく、また()せ付けられる。


 嗤う、嗤う、蛇は嗤う。まるで玩具を前にした子供のように、そして小虫を踏み潰す子供のように無邪気に残酷に嗤う。それは、まさしく純粋無垢な悪意だろう。


 ある種、狂気すらも振り切っている。度し難いまでの悪意の純度だ。


 ・・・しかし。だからこそ。


「ああ、だからこそ・・・」


「?」


「だからこそ、お前は倒さねばならない。その悪意(あくい)は危険すぎる!!!」


 故に・・・。僕は原罪の蛇を認めない。こいつの中の悪意を、僕は認めない。だから・・・


 だから、お前も・・・


「だから・・・お前もさっさと目を()ませよ、ハクア!!!」


「っ!!?」


 ドクンッと、蛇の中で何かが脈打つ。何かが、ゆらぐ。


 何をしたのか?決まっている。只、言葉に力を()めてハクアに語り掛けただけだ。


 そう、ハクアにだ・・・


 蛇が目を大きく見開く。そして、僕の目論見を察しその表情を初めて不快げに(ゆが)めた。そう、初めて蛇が不愉快に表情を歪めた。なら、其処に突破口がある筈だ。


 そう感じ、僕は剣を交わしながらハクアに語り掛け続ける。


「お前、一体何の為に此処まで来た?本当は何の為に此処までやってきたんだよっ!!!」


「不愉快だぞ?貴様、その口を二度と聞けぬようにしてくれようか・・・」


 地獄の底から(ひび)くような、低い怨嗟の声だった。しかし、僕には欠片も怖くはなかった。何故ならこいつの怒りは心に響くモノが欠片程もないからだ。故に、恐怖を感じない。


 だからこそ、僕は不敵に鼻で笑った。鼻で笑い、蛇を上から見下してやる。


「はっ、やれるものならやって見ろ‼蛇野郎っ!!!」


「・・・っ、おおおあああああああああああああっっ!!!!!!」


 咆哮(ほうこう)。蛇は黄金の十字剣を何十、何百、何千と振るう。その度に、次元に大きな損傷が生まれる。


 しかし、それを僕は一切の恐怖を感じない。それに、何の脅威にも感じない。容易く受け止め、防いで軽く受け流してゆく。それは、完全に蛇の太刀筋を見切っているが故にだ。


 流石の蛇も、これには(あせ)りを覚えたらしい。声を荒げて叫ぶ。


「何故だっ!!?何故、先程まで一方的にやられる側だった筈の貴様が此処までの力をっ!!!」


「・・・・・・そんな事」


 簡単な話だ。僕は、蛇を真っ直ぐ見据えて答えた。


「勘違いをしていた。僕の固有宇宙、その能力は概念創造能力ではなかった・・・」


「・・・・・・・・・・・・な、あっ」


 蛇が、愕然とした様子で声を漏らす。目を大きく見開いて、ただ呆然と立ち尽くす。


 そう、僕の能力は概念創造能力ではない。それも、出来る事に変わりはない。しかし、それはあくまでも僕の力のほんの上澄(うわず)みでしかないのだ。それを、僕は自身の能力の全てと勘違いしていた。


 しかし違った。それは、あくまでも僕の能力のほんの表層部分でしかなかった。


 僕の本当の能力、それは・・・


「僕の固有宇宙、それは虚無(きょむ)。それは即ち、虚数宇宙であり原初の虚無だ。つまり、僕の固有宇宙の真の能力とは常にゆらぎ続ける宇宙創世の場だ」


「っ、な!!?」


 それは、つまりだ。要約(ようやく)すると僕の真の能力は単に概念を創造する能力ではなく、概念宇宙を常に創造し続ける事を可能とする無限創造の場である・・・という事だ。


 それは単に創造するだけの能力ではなく、あらゆる固有宇宙・・・その在り方を創造可能であるという事に他ならないだろう。それは即ち、僕は一つの固有宇宙を宿しながら可能(かのう)な全ての固有宇宙を宿しているという事になるのだから。全は一、一は全なりだ。


 あらゆる質量、あらゆる概念を創造し宇宙を創造可能とする原初の虚無。それが、僕の固有宇宙。


 それはつまり、事実上こういう事も可能という事になる・・・


「終わらせよう、概念宇宙・・・(つるぎ)


 世界が一変した。それは、剣の概念を内包した概念宇宙。僕は、それを創造したのだ。


 周囲が、黄金一色に変わる。大地から、空から、星のあらゆる場所から、宇宙のあらゆる場所から数多の剣が生えてくる。黄金に輝く、聖剣(せいけん)


 ———其は、剣の概念を宿した宇宙。


 その剣の一つ一つが、惑星(ほし)に匹敵する質量と森羅万象を宿す。


 刹那の内に、次元の狭間は剣の概念を宿した宇宙そのものと化した。


 その光景を目にし、蛇は完全に我を失って叫び散らす。


「馬鹿なっ、そんな馬鹿なっ‼それが可能なら、固有宇宙の領域を遥かに逸脱(いつだつ)している!!!」


 事実、その通りだ。もし、固有宇宙を宿しながら、新たに概念宇宙を創造出来るのだとすれば。それは即ち固有で単一の宇宙を宿す者とは言えないだろう。それは、もはや神の領域を超えている。


 それは、神の領域ではなくもはや真理(しんり)だ。あらゆる宇宙の根源に存在する真理の領域だろう。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 もはや、僕は何も言わない。こいつに掛ける言葉など無い。故に、僕は数多の黄金の剣をかざし原罪の蛇に向けてそれを振るう。宇宙を構成する数多の黄金剣を振るう。


 (きら)めく黄金。数多の剣が、流星の如く降り注ぐ。


「おっ、おおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」


 必死に抵抗する蛇。だが無駄だ。例え、如何に霊的(れいてき)ビッグバンに匹敵する力を持っていようともこの剣の概念宇宙はそれすら断ち切る。この剣の一つ一つが、星の聖剣のレプリカだ。


 例え、全てを一つに集めてもオリジナルに届かなくとも。それでも真に近付く事は可能だ。


 即ち、当然この黄金の剣の一つ一つが概念宇宙を断ち切る力を有する。そんな聖剣が、数多と降り注ぐのはある種恐怖すら感じるだろう。しかし、そんな事知った事ではない。


 原罪の蛇、そいつを一切の容赦(ようしゃ)なく断ち切ってゆく。


 ・・・やがて、景色が晴れると其処には傷一つなく眠るハクアの姿が。もう、蛇の気配は無い。それもまあ当然の話だろう。僕が断ち切ったのは、ハクアではなく原罪の蛇そのものだからだ。


 概念宇宙を断ち切る剣。それは、つまりは逆説的に概念(がいねん)のみを断ち切る事も可能という事だ。


「・・・・・・ふぅっ。さて、帰るか」


 そう誰ともなしに呟き、ハクアを抱えようとした・・・その瞬間。次元の狭間全体が()れ動いた。


「っ、何だ!!?」


 見ると、次元全体に亀裂(きれつ)が入り、周囲一帯が崩壊していく。僕はようやく納得した。どうやら、少しばかり暴れすぎたらしい。次元の狭間が崩壊しかけている。


 僕は冷や汗を流した。これでは、連鎖的に多元宇宙が全て崩壊しかねないだろう。


 これを何とかする手立てはある。しかし、その代償(だいしょう)にしばらく僕は力の大半を失うだろうが。


 そうなれば、如何に僕であろうと帰れる保障(ほしょう)はない。もしかすれば、永遠に帰れない事も。


 ・・・考え、悩み、やがて。


「・・・・・・はぁっ」


 そっと、溜息を吐く。


 是非(ぜひ)もあるまい。僕は、思わず苦笑した。


 すまない、リーナ。帰るのは少し遅くなりそうだ。そう、僕は心の中で謝罪を()げる。


 そして———刹那、眩い光が次元の狭間を満たす。その光は全ての多次元並行宇宙で観測(かんそく)された。


 何処までも、何処までも、光は(まばゆ)く強く輝いた。

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