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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
神域決戦編
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7、神域へ

「ふんっ、下らん・・・」


 刹那、炸裂(さくれつ)する筈のエネルギーは一人の男の()に収束していき、やがて呑み込まれていった。一体何が起きたのだろうか?恐らく、リーナには理解出来なかっただろう。しかし、僕には見えた。


 ヤミが雷霆(らいてい)に呑み込まれる刹那、その間にハクアが割って入ったのだ。そして、掌を雷霆に向けそれを破壊の概念ごと吸収した。いや、丸ごと喰らったのか。


 炸裂する筈のエネルギーの全ては、ハクアの掌に取り込まれて吸収されていった。


 ・・・どちらにせよ、恐るべき事だ。


「よくやった、後は我の中でゆっくり休むと良い」


「ぐるううううううううっ・・・・・・」


 ヤミが、弱々しい声で頷いた。その瞳を静かに閉じる。ハクアが、ヤミにそっと()れる。


 邪神ヤミが、ハクアによって吸収されて取り込まれてゆく。一瞬で、邪神は最初から居なかったかのように其処から消え去る。ヤミが、邪神がハクアに喰われて取り込まれたのだ。


 よくやったとねぎらいの言葉をかけてはいるが、ハクアのそれに(いた)わりの感情は一切無い。只、上から傲慢に見下した視線で言っている。もはや、ハクアに善性など本当に残ってはいないのか?


 ———果たして、本当にそうか?


 ———本当に、もう(わか)り合えないのか?


 びりびりと、刺すように感じる悪意の波動に諦観(ていかん)の念が押し寄せてくる。と、その直後・・・


 僕の背後からリーナの力強い声が聞こえた。


「ムメイっ、準備が終わったよ!!!」


「っ、解った。(たの)む!!!」


 その瞬間、リーナが祈るように両手を組み、目を閉じる。直後、空気が変わった・・・


 先程まで、周囲を満たしていた悪意の波動を押し流して余りある神聖なる清浄な空気。それが、周囲の空間を満たして(ゆが)めてゆく。それは、神域へ至る為の門にして鍵だ。世界が、門が開く・・・


 神域の世界が、開く・・・


 それを感じたハクアは、怪訝そうに表情を歪める。だが、もう遅い。


「お前等、何を———」


開門(かいもん)っ!!!」


 刹那、空間が反転した。景色が別の世界へと切り替わる。世界が入れ替わる。


 空には数多の星々(ほしぼし)、大地には緑の草原が広がっている。そして、遥か彼方には天と地を繋ぐ巨大な光の柱が伸びていた。かつて見た、神域の世界が其処(そこ)に広がっていた。


「っ、此処は何処だ・・・・・・」


「此処は神域。神々の領域たる上位世界だ・・・」


 世界の変貌(へんぼう)に愕然とするハクアに、僕は淡々と答えた。混乱する気持ちも解らなくもない。以前僕自身も体験した事だ。だからこそ、僕はハクアを前に言う。


 真っ直ぐ奴を見詰め、僕は言った。


「ハクア・・・此処(ここ)なら、僕とお前が全力で戦っても問題無いだろう」


 ———来いよ、今度こそ全力で戦おう。僕が全て、受け止めてやる。


「っ、ふん‼ずいぶんと()めてくれる・・・。ならば、その増上慢(ぞうじょうまん)を絶望へと変えてくれる」


 その瞬間、ハクアの身体から膨大なエネルギーと共に、暗黒の(やみ)が漏れ出した。そして、その闇から這い出るかのように数多の魔物達が出てくる。その一体一体が、神々に等しい気配を感じさせる。


 恐らく、一体一体が上位の神霊(しんれい)に匹敵する力を持つだろう。びりびりと、威圧感が肌を刺す。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」


 響く絶叫。咆哮(ほうこう)。相手は神々にすら匹敵する魔物の群れ。


 そんな魔物が、優に何万にもなる大軍勢で僕に襲い掛かる。しかし、僕は決して焦らない。むしろ余裕すら感じているくらいだ。そして、そのまま厳かに言の葉を紡ぐ。


 口から漏れ出る言葉が、言霊(ことだま)となって霊的な力を宿す。そして、新概念と共に創造する・・・


「概念創造・・・来たれ、其は荒ぶる水流と嵐を司る者」


「っ!!?」


 ハクアが息を呑む。空気が、一瞬にして変わった。


 空間がスパークを起こし、嵐が起こる。荒ぶる大自然の猛威(もうい)・・・そんな中、空の割れ目からとぐろを巻いて巨大な何かが姿を現した。それは・・・


「”龍を()べる者”!!!」


「ギイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」


 天地を揺るがす絶叫と共に現れたそれは、荒ぶる水流と嵐を司る者。大自然の化身(アバター)


 その姿は、余りにも神々(こうごう)しく。そして余りにも恐ろしかった。それは、東洋龍だった。


 その威容は、まさしく荒ぶる水と嵐を司る神として崇められていた龍に相応しい。


 龍を統べる者。即ち、数多の龍を統べる王として君臨する龍王を創造し、召喚する術だ。その荒ぶる力は戦闘能力だけを取れば、或いは神王にすら匹敵するかもしれない。


 そんな龍王の姿に、魔物達も(おび)えを見せる。しかし、龍王はそんな魔物達にも容赦しない。


 荒れ狂う大自然は、容赦なく牙を()く。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!」


 龍王の咆哮と共に、大自然がその牙を剝く。大地は揺れ動き、砕け、天を覆う程の大竜巻が幾つも発生し天を轟く雷が地を穿(うが)つ。そして、砕けた大地からマグマが噴き出し、大洪水も発生する。


 天変地異。そう、まさしく此れは天変地異と呼ぶに相応しい光景に違いない。さしもの神々に等しい魔物の大軍勢もこれにはたまった物ではないだろう。悲鳴を上げる間もなく呑み込まれる。


 その様は、さながら嵐に呑まれる小さな虫のようだ———


 世界終末級の天変地異が牙を剝く。それに耐えられるのは、今この場に居る中では僕とハクアの二名のみしか居ないだろう。それ程の、規格外の天災(てんさい)だ。


 ハクアはそれを実につまらなそうな瞳で見ていた。指先を龍王に向ける。その瞬間———


「ふんっ」


 一条の閃光(せんこう)が、閃いた。音もなく龍王を()ち抜く。


 龍王の胴体に、巨大な風穴が開いた。龍王は血を吐きそのまま崩れ落ちる。そして、そのまま静かに一陣の風と共に身体が(ほど)けて消え去った。役目を終え、消滅したのだ。


 その姿を、ハクアは実につまらなそうなそうに見ている。実際、面白くないのかもしれない。


 そんな彼を真っ直ぐに見据え、僕は鼻を鳴らした。面白くないのは、僕だって同じだ。


「どうした?存外(ぞんがい)つまらなそうだな・・・」


「・・・・・・ああ、実際につまらないさ。もう、遊びは終わりだ」


 そう言い、ハクアはその力を解放した。直後、再び終末級の天変地異が世界を覆う。それも、先程までの天変地異とは比べるまでもない大規模な災厄だ。惑星(ほし)の、大爆発・・・


 大地が砕け、世界が緩やかに崩壊してゆく。その様はまさしく世界の終焉(おわり)だ。


 外界で起きれば、それこそ恐らくは幾つもの星々が滅びるであろう規模の天災だ。しかし、それでも僕は一切焦りはしない。この程度、焦るには値しない。


 ・・・そう、この程度は———


 しかし、次の瞬間予想外の事態が発生した。空間が、ぴしいっと緊張(きんちょう)する。


「・・・っ!!?」


「っ、が!!?おごおおおおおおおおっ!!!」


 空気が一変した。


 ハクアがその表情を苦悶に歪め、もだえ苦しみだす。ハクアの身体から漆黒の闇が噴き出し、その闇が周囲を覆い隠してゆく。まるで、漆黒の(たまご)のようだ。


 ・・・だが、それだけではない。その卵を形成する闇の向こうに、ぎょろりと(うごめ)く何かが。


 それは、幾つもの蠢く眼球(がんきゅう)だった。幾つもの瞳が、ぎょろぎょろと蠢いている。


 その様は、余りにもおぞましい。余りにも恐ろしい。


「っ!!?」


 その異様な姿に、僕は絶句して言葉を発せないでいる。それが、致命的な(すき)を生んだ。


 ぴしいっ・・・


 何かが割れる致命的な音が響く。それは、闇の卵が割れる音だ。次の瞬間、漆黒色の卵の(から)を破り純白の腕が飛び出した。その腕には黒く鋭い爪が生えており、明らかに人間のそれではない。


 そして、ついに卵からそれは誕生(たんじょう)した・・・

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