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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
神域決戦編
143/168

6、極悪宇宙

 その頃、未開の大陸・・・世界樹(せかいじゅ)の神殿。最奥の玉座。


 玉座に静かに座しているのは、終末王ことハクアだ。いや、しかし・・・


 其処に座している者は、果たしてかつての終末王ハクアなのだろうか?それとも、もはや別物と呼べる何かなのだろうか?それは、もはや何者にも解らない。例え、本人ですら解らないだろう。


 その身から迸る気配は既に邪悪そのもの。善性(ぜんせい)など欠片も持ち合わせておらず、必要もない。もはやこの男には悪という言葉以外、表現のしようがないだろう。


 そう、彼こそがこの世全ての悪意(あくい)を司る究極の悪性存在であろう。正しく、悪意以外の何物も持ち合わせてはいないのである。善性などという物は、既に捨て去り消し去った。


 邪神のヤミを取り込んだ際に、善性などという物は必要ない物として斬り捨ててしまった。故、今此処にいるハクアは本当にかつてのハクアなのか。それは本人すらも解らないのだ。


「しかし、よもやそのような事は気にするべくもあるまい?」


 ハクアは誰にともなく独り言を呟く。その表情は、醜悪(しゅうあく)な笑みを形成している。


 暗い、何処までも暗い笑みだった。その場に誰か居たなら、恐らくは恐怖のあまり自殺しているだろうそんな何処までも暗い・・・闇のような笑みだった。


 そう、まさしくこれは暗い闇のような、黒く濃縮したような悪意だ。


 何処までも黒く、何処までも暗い笑み。それをたたえてハクアは玉座の間の入口へ瞳を向ける。


 ・・・其処には。


「なあ、そうは思わんか?無銘(むめい)の少年」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 無銘ことシリウス=エルピスと、リーナ=レイニーが居た。ハクアは更に笑みを深める。


 その何処までも悪意的で、何処までも暗い笑みにリーナが(おび)える。その笑みの向こうに、例えようもない底なしの闇を見た気がしたのだ。底なしの、暗闇だ。暗黒の、深淵(しんえん)だ。


 もはや、彼にとって善性など欠片もない。以前まで持ち合わせていた理念など、もはや不要な物として斬り捨ててしまっている。故に、今のハクアに力を振るう理由など欠片も無い。


 理由なく振るわれる圧倒的暴力。圧倒的な力で他者を威圧し支配(しはい)する。まさしく、その在り方は巨悪そのものと言えるだろう。そう、ハクアはついに果てへと行き付いたのだ。


 ・・・しかし。


 無銘はそれをさもどうでもよさそうに見た。いや、無銘はじっとハクアを真っ直ぐに見ている。それは恐らく彼を見定めているのだろう。本当に、本当に彼が以前までのハクアとは違うのか?と。


 無銘は真っ直ぐ、疑問をハクアにぶつける。


「お前、何者だよ?」


「ふむ、事此処に至っては終末王ハクアと名乗るのも少しばかり違う気がするな。ならば、我は極悪宇宙とでも名乗ろうかな?極悪(ごくあく)の固有宇宙だ」


 極悪宇宙。そう名乗った彼は、凄絶に嗤った。その笑みは、何処までも暗い悪意を宿している。その何処までも暗く冷たい悪意に、リーナはびくっと震える。ああ、確かにこの男は。今のこの男は悪だ。


 そう、巫女(みこ)であるリーナは理解した。


 それを見た無銘は目を鋭く細める。その瞳は、凄烈な(あお)に輝いている。澄んだ、凄烈な青だ。


「そういうお前は何者か?正義か?それとも、我と同じ悪か?」


「どちらでもないよ。僕は僕だ。それ以上でも、以下でもない」


 そう言って、無銘はその手に白銀のブロードソードを構えた。決戦(けっせん)が、始まった。


          ・・・・・・・・・


 刹那、僕はハクアに向けて一気に駆け出した。白銀の剣を構え、そのまま斬り掛かる。しかし、ハクアはそれでも余裕の笑みを崩さない。どころか、驚いた事に素手で白銀に輝く刃を(つか)んだ。


 刃を握り締めるその手に傷一つ無い。通常なら、ありえない事だ。


 だが、彼は固有宇宙覚醒者。その保有する質量は単一の宇宙に匹敵する。故に、並の武具は通じないだろう事は考えてしかるべきだろう。その圧倒的質量は脅威(きょうい)の一言だ。


「っ!!?」


「そら、こんな物か?その程度なら(つぶ)してしまうぞ?」


 瞬間、ハクアを中心に膨大なエネルギーと闇が渦巻いた。それは自然と幾何学模様を形作り、暗黒の召喚門を形成した。その門の内側から獰猛(どうもう)な瞳と、鋭い牙を備えた顎が垣間見える。


 その姿を見た瞬間、僕の背筋がぞわっと泡立った。こいつはまずいっ。


 慌てて僕はハクアの手を振り払い、距離を取った。その直後・・・


「っ、取り込んだ邪神を再召喚する気か!!!」


召喚(きたれ)、邪神ヤミ!!!」


 ・・・瞬間、絶叫と共に邪神が呼び起こされた。


「ギイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」


 その絶叫によって世界樹の神殿が大きく震え、あやうく崩壊しかける。黒い、何処までも黒い暗黒の精神生命体たるドラゴン。邪神、ヤミが降臨(こうりん)した。


 ヤミは僕とリーナを睨み付けると、その顎を大きく開き口内に膨大なエネルギーを溜め始めた。


 そのエネルギーは、軽く超新星(ちょうしんせい)にすら匹敵するだろう。


「っ、拙い!!!」


 刹那の判断で、僕はリーナを庇うように覆い被さる。同時に、自身の固有宇宙を最大限に解放して防御能力を底上げしておく。その直後・・・


 閃光が周囲を満たした。神殿が崩壊し、一条の閃光が宇宙の彼方まで伸びてゆく。その直線上にある数多の星がその閃光に()ち抜かれて滅び去った。一体、今の閃光で幾つの星々が滅びたのだろう?


 ・・・一瞬の静寂。それを破ったのは、リーナの震える声だった。


「ム、ムメイ・・・・・・?」


「・・・大丈夫だ。リーナ。この程度、すぐに全快(ぜんかい)する」


 しかし、僕の背中からは鋭く焼けるような痛みが襲っている。恐らく軽傷では済まないだろう。だがそれでも問題は無い。皆無だ。今の僕はほとんど不死身だ。この程度、すぐに治る。


 ・・・と、いうよりも既に治っている。しかし、それでもリーナは不安そうに僕を見ている。そんな彼女に僕は苦笑を浮かべながら、その頭を()でた。大丈夫だと、そう可能な限りの笑顔で伝える。


「ムメイ・・・・・・」


「大丈夫だ、僕は大丈夫・・・。リーナを置いて何処にも行かないから」


 そう言うと、リーナはぎこちない笑みを浮かべて笑った。僕も、それに対して笑みを返した。


「もう、この状況でその言葉は不吉(ふきつ)すぎるよ・・・」


「そうか?けど、僕は死ぬつもりは一切無いぞ?」


「もう・・・・・・」


 リーナは苦笑を浮かべた。ぎこちない、とてもつたない笑みだ。それでも、不安な顔をしているよりはマシだろうと僕は思う。そう、不安な顔よりもずっとマシだ。


 だから・・・


「さあ、さくっと終わらせるぞ‼」


「うん、さっさと終わらせて帰ろう。皆の(もと)に」


 さあ、そろそろ本気を出そうか・・・


 僕は口端を大きく歪めて獰猛(どうもう)に笑う。こんな戦い、さっさと終わらせるぞ。さっさと終わらせ、彼女と共に家族の許に帰るんだ。リーナと一緒に帰るんだ。自分の帰るべき家に。


 その為に、僕は自身の固有宇宙の能力を真に解放する。


概念創造(がいねんそうぞう)・・・”律する者”!!!」


 瞬間、周囲一帯の空間から白銀に輝く鎖が飛び出した。数多の鎖がヤミの身体を縛り付ける。


 ヤミはそれを破壊しようと必死にもがく。しかし、それは(かな)わない。これは普通の鎖ではない。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!」


「無駄だ、その鎖は拘束(こうそく)するという概念を宿した物。もがけばもがくほど拘束力を増すぞ」


 概念創造。虚無(きょむ)の固有宇宙に許された特異能力。


 様々な概念を創造する能力。原初の虚無である虚数宇宙であるからこそ許された力だ。この能力により僕は敵を拘束するという概念を宿した鎖を創造した。鎖そのものが概念の塊と言えるだろう。


 ちらりと、ハクアの方を見る。しかし、ハクアは余裕(よゆう)の笑みを崩さない。静かに嗤うのみだ。


 ・・・もちろん、僕もこのまま終わらせるつもりは無い。


「概念創造・・・。来たれ、其はソラ砕く雷霆(らいてい)


「・・・むっ?」


 一瞬、ハクアの表情に変化があった。それは訝しむような。それとも何かしらの脅威(きょうい)を感じたか。


 どちらにせよ、僕が手を止めるつもりは一切無い。そんな隙など一切見せない。


 その手を天に掲げる。その手に、神々(こうごう)しくも激しい轟雷が宿った。これこそ、神の雷だ。神話に息づく星の海を焼き尽くすとされる、神の雷。其は・・・


「”ケラウノス”!!!」


 星々を砕く神話の雷霆が顕現(けんげん)し、空間すらも焼き尽くす。そして、更に雷霆は収束し、圧縮されて槍の形へと形成されてゆく。まさしく、それは神話の主神の振るう雷霆に相応しいだろう。


 ・・・其は、全知全能(ぜんちぜんのう)たる主神にのみ振るう事を許された雷霆。


 だが、それを振るうのは人間である僕だ。当然、星々(ほしぼし)すらも焼き尽くし砕き尽くす雷霆は僕の腕も焼き尽くそうとするだろう。僕の腕から激しい痛みが襲ってくる。


 しかし、そんな事はどうでも良い。その雷の威力の頼もしさに、思わず獰猛な笑みが(こぼ)れる。


 ヤミはその雷霆の脅威を悟ったのか、鎖を引きちぎろうと必死にもがく。だが、千切(ちぎ)れない。


 むしろ、もがけばもがくほどその拘束力は()してゆく。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!」


(ほろ)びろッッッ!!!!!!」


 投擲(とうてき)。閃光と共に雷霆が弾け飛び、邪神を呑み込んだ。

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