エピローグ
その日、村では小さな騒ぎになった。領主の伯爵がわざわざその村まで来たのだ。
「こ、これは伯爵様‼本日は何の御用でしょうか?」
「うむ、今日は人に会いに来ただけだ」
「何と⁉」
驚く村長を尻目に、伯爵はある家に入っていく。その家は女魔術師とその娘が住んでいる家だった。
・・・・・・・・・
「マーヤー‼」
「・・・っ、ハワード⁉」
突然の伯爵の登場に、マーヤーと娘のミィは驚きに硬直した。しかし、マーヤーのその反応は、まるで伯爵と親しい関係を感じさせる物がある。
マーヤーは戸惑いながらも、ちらちらと横目でハワード伯爵を見る。母のその様子に、娘のミィは小首を傾げて二人を交互に見た。
「もしかして、貴方が私のお父さん?」
「ああ、そうだよ・・・。俺がお前の父親だ」
ハワード伯爵は穏やかに微笑んで、ミィの頭を撫でた。ミィはくすぐったそうにしながらも、それでも嫌そうな顔をしない。父親を嫌ってはいないらしい。
そんな伯爵に、マーヤーは戸惑うような表情で問う。
「今更、何の用ですか・・・?」
「・・・今日はそれ所では無いんだ。先日、俺の元にある貴族から報せが届いた・・・」
「・・・報せ、ですか?」
きゅっと表情を引き締め、ハワード伯爵は頷いた。そして、しばし葛藤した後話し始める。
「近くの山道で、貴族の娘が山賊に襲われている所を黒髪に青い瞳の少年が助けたそうだ」
「「!!?」」
マーヤーとミィの二人が驚愕に目を見開く。
黒髪に青い瞳の少年。それは、つい最近家出した我が子の事だった。
「そ、それで・・・。あの子は、××××は無事なのですか?」
その質問に、ハワード伯爵は黙って首を横に振る。
「・・・・・・・・・・・・その子は、自ら囮になってその貴族の娘を逃がしたそうだ」
「・・・そんな、そんなっ。うぅ・・・っ」
「お兄ちゃん・・・そんな、うわあああああああああああああああ!!!」
泣き崩れるマーヤー。娘のミィも、その事実を受け入れられず、泣きじゃくる。
そんな二人に、険しいままの顔で伯爵は告げる。
「しかし、まだ死んだと決まった訳では無い。あの後、その山道に私兵を送ってみたんだ。そしたら、其処には山賊の物と思われる死体しか見付からなかった」
「・・・・・・え?」
マーヤーは思わず、聞き返す。ハワード伯爵は静かに頷いた。
「それと、もう一つ。その貴族の娘にある神から神託が降りたそうだ。少年は生きていると」
「っ、本当ですか⁉」
ハワード伯爵はまた、頷く。その言葉に安堵したのか、マーヤーとミィの二人はへたり込んだ。
マーヤーは何度も良かったと呟いている。ミィも嬉しそうに笑みを浮かべて泣いている。
しかし、ハワード伯爵は険しい表情のままだった。
実は、話にはまだ続きがある。私兵の調査の結果、その黒髪青目の少年が東方の神山に向かって行くのを見た人が居たそうだ。
あの神山は死者の国と繋がっている禁足地。その山に向かったと言うなら・・・。
恐らく、その後の生存はかなり難しいと思われる。そう考えたハワード伯爵は唇を噛み締め、只俯く事しか出来なかった。




