2、大戦争勃発
神大陸。神国アトラス———神王デウスの神殿。
「何か、未開の大陸に動きはあったか?」
「いえ、未だ敵方に動きはありません。不自然な程に静かです・・・」
神王デウスは部下である情報を司る神と話していた。現在、朝の九時過ぎだ。そろそろ敵方に動きが出ても良い頃合いである。しかし、未開の大陸では不自然な程に静かだ。
どう考えてもこれはおかしい。デウスは顎に手を当てて深く考え込む。しかし、考えている時間は既にほとんど無いだろう。決断の時は迫っている。
デウスは勢いよく立ち上がると、配下に向かい命令を下した。
「何はともあれ、敵の宣言した刻限は迫っている‼兵を集めよ!!!」
「「「「「はっ!!!!!!」」」」」
神王の命令の下、神々と天使達は一斉に動き出した。
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魔大陸、魔国ソドム———魔王の居城。天を衝く巨大な摩天楼。
魔国は全体的に科学技術の発展した科学都市であり、最も文明の発展した大都市だ。故に、この国を堕とされる事は世界的に大打撃だと魔王ライオネルは考えている。そして、恐らくそれは正しい。
故に、魔国は戦争に当たり第一級警戒態勢を発令し、民間人を地下シェルターに避難させた。更に最重要機密である魔国の科学技術のデータを、魔族の科学者数名と共に避難させた。
そして、魔王の居城である魔国の中枢では・・・
大広間には魔王ライオネルと部下の魔族二百名が居た。今は戦争に備えて最終調整の状態だ。
「衛星天宮から送られてきた映像から調べた結果、未開の大陸に今の所動きはありません」
「そうか・・・。なら、監視は続行して兵を集めろ。出来る限り兵を集め、民間人をシェルターに避難させる時間を可能な限り稼げ」
「はっ‼」
ライオネルの命令の下、部下達は一斉に動き出す。
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幻想大陸、竜王の巣———竜王ソリエスの聖域。
幻想大陸は幻想種達の楽園だ。野生の楽園である為、文明と呼べる者は存在しない。しかし、知恵ある生物として当然のルールは存在している。そして、その楽園を統べる王こそ竜王ソリエスだ。
竜種達の棲む幻想大陸の中央。その更に中枢である竜王の巣。その中心地に竜王ソリエスの聖域たる石造りの神殿が存在している。それは、古いギリシャの神殿のような荘厳な建築物である。
竜王ソリエスは配下の竜種を集め、高らかに宣言した。
「我が配下の竜種達よ、戦争の時は近い‼我等、幻想種を統べる竜種の誇りを敵に見せ付けよ!!!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!」」」」」
天地を震わせる雄叫びが幻想大陸を震わせた。そして、その雄叫びは幻想種全体に力を与える。
幻想種達は竜王ソリエスに命を捧げ、最後まで戦い抜く事を約束した。
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焔大陸、火山地帯———中枢、大火山スルト。
炎の巨人達が棲む集落は普通の生物が住むには過酷過ぎる環境となっている。何故なら炎の巨人が住む集落とは即ち火山の内部だからだ。普通の人間なら、一瞬で骨まで溶ける高温となっている。
しかし、そんな過酷な環境も炎の巨人達にとっては至極快適な環境となっている。故に、この火山地帯こそが炎の巨人にとっての天然の要塞として機能しているのだ。
そして、それ故に炎巨人の王であるスルトは最大限に慢心していた。
「がははははははっ!!!この火山地帯において我が炎の巨人は無敵であるぞ!!!」
「「「「「然り然りっ!!!」」」」」
「故に、この戦争で我が炎巨人の力を氷の巨人達に見せ付けてくれようぞっ!!!!!!」
「「「「「おうっ!!!!!!」」」」」
炎の巨人達は最大限に慢心していた。この火山地帯で炎巨人と戦える者が居ないと過信していた。
その為、炎の巨人達は戦争に備えるという事を怠っていた。それが、後に戦争に響いてゆく。
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氷大陸、永久凍土———氷の宮殿。
極寒の地であるこの永久凍土は自然の要塞となっている。故に、この氷大陸において氷の巨人達は自身が敗北する事を到底予測する事が出来なかった。要するに、慢心していた。
「ふはーーーはははははははははははははははあっ!!!この戦争で炎巨人の馬鹿どもに我が氷巨人の力を見せ付けてくれるぞ!!!準備は良いか、我が同胞達よ!!!」
「「「「「おうっ!!!」」」」」
「ふっふっふぅ~♪我が氷巨人の前にスルトの馬鹿が跪く姿が思い浮かぶぞ・・・」
「「「「「ぐふふふふっ」」」」」
氷巨人も、最大限に慢心していた。基本的に炎巨人も氷巨人も同レベルだった・・・
炎巨人も氷巨人も、基本的に前提が間違っている。確かに、焔大陸や氷大陸は魔物が住むにはあまりにも過酷すぎる環境だろう。しかし、終末王ハクアは新種の魔物すらも創造出来る力を持つ。
即ち、自然の要塞といえる過酷な環境など、ハクアには一切関係が無いのだ。
それを忘れて、炎巨人と氷巨人は慢心していた。
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人大陸、王国オーフィス———王都。オーフィスの王城。
其処に三人の人王が集まっていた。彼らの目的はもちろん、戦争に備える為だ。既に多くの民間人の非難は済ませている。残りは、自らも故郷を守ると戦争に志願した者達のみだ。
戦争に参戦する者達は国の騎士や兵士、冒険者を全て動員して既に十万にも達するだろう。恐らく民間人から志願した者達を含めれば、軽くその倍近くにも達するであろう大軍勢だ。
三人の王は最後まで民間人を戦争に巻き込む事を渋ったが、しかしそれでも大切な人を守りたいという熱意は確かだろう。故に、最後には王達が折れた。
守りたい者が居る事は皆一緒だったのだ。故に、こうして自分も戦いたいと集まったのである。
戦争の時刻は刻一刻と近付いている。もはや、僅かばかりの猶予も無いだろう。
「シリウス=エルピスは上手くやると思うか?オーフィスよ」
メサイアの王の問いに、イリオ=ネロ=オーフィスは静かに首を横に振る。
「解らん。しかし、私はあの少年に賭けた。なら、最後まで信じるのみだ・・・」
「そうか、お前はどう思う?ウルトよ」
「俺は正直、今でも戦争には反対なのだがな?」
「・・・・・・それは俺も同じだ」
「だが、もはや民を守る為には戦うしかないのだという事は理解している」
そう言うと、ウルトの王は覚悟を決めた瞳で告げた。
「なら、最後まで戦うのみだ。守る為にな・・・・・・」
「ああ、そうだな・・・・・・俺も最後まで戦うさ」
そう言うと、三人の王は静かに決意を固めた。
・・・・・・・・・
・・・そして、ついにその時刻はやってきた。
『召喚、魔軍氾濫』
世界の全てに、終末王ハクアの声が響いた。その声は、まるで世界の全てに宣言するようだった。
その瞬間、六つの大陸に一斉に魔物が溢れ出した。それは、まさしく魔物の大軍勢だ。六つの大陸の八つの国に一斉に現れた魔物達は、規格外の数と質で全てを蹂躙していく。
それはまさしく、恐るべき魔軍だった。
その魔軍の圧倒的な群れに、人々は成す術もなく呑み込まれるのみだ。しかし、それでもまだ負ける訳にはいかないだろう。自分達には守るべき人が居る。その事実が、人々を奮い立たせる。
「おおおおおおおっ!!!負けて堪るかああああああああああああああああっ!!!!!!」
「家族を守って見せるんだあああああああああああっ!!!!!!」
「人類の誇りを見せてやるうううううううううっ!!!!!!」
戦う理由はそれぞれ様々だが、それでも負けられないのは皆一緒だ。故に、此処で引く訳にはいかないと全員が果敢に魔物達に挑んでいく。この戦場に敵前逃亡するような者は一人たりとも居ない。
そう、全員の意思が此処に一致した。戦う意思だ。
ついに、大戦争が始まった・・・




