番外、終末王の世界
未開の大陸、世界樹の神殿———最奥の玉座。
其処に、終末王ことハクアが居た。彼の周囲に暗黒のエネルギーが渦を巻き、次元や空間を大きく歪めているのである。その力の渦は、もはや並の者では近寄る事すら不可能。
もし、不用意に近寄れば次元の歪みに身体を引き裂かれるだろう。それ程の大きな歪みだ。
現在、ハクアは邪神ヤミとの同化。即ち融合の最中である。その膨大な力の掌握は、かなりの集中力と精密性と精神力が居る。即ち、強大な意思の力が必要不可欠だ。
その傍に控えるのは、悪魔Ωのみ。逆に言えば、この悪魔のみしか傍に控える事は不可能である。
この膨大なエネルギーの圧の中で平然としていられるのは、この悪魔のみだ。故、この悪魔こそが最強の悪魔であると言えるだろう。最強にして、最悪の悪魔だ。
悪魔は嗤う。ある意味、この膨大な暗黒のエネルギーですら漏れ出る力のほんの一部でしか無い。
それ故に、悪魔は嗤う。この力をもし、完全に制御した上で尚暴虐を振るう者が居たなら、それは人類が一丸となり戦うべき巨悪であると。そう、それはまごう事なき悪徳の宇宙だ。
無限の可能性を内包しながらも、その全てが悪意によって収束する固有宇宙。その宇宙は邪神を取り込んだ事で更に高位の何かに変質しようとしているのだ。更に高位で、邪悪な何かへと。
もちろん、そんな強大な力にハクアの魂が耐えられるとは限らないだろう。むしろ、今現在それに耐えきれずに身体の至る部分が崩壊しかけている。しかし、それでもハクアは止まらない。
むしろ、此処で止まるようなら最初からこんな事は始めなかったのだろう。
止まらない。止められない。こんな所で終わらない・・・
意思の力が高まるごとに、それに比例して高まる暗黒のエネルギー。それを見て、嗤う悪魔。
悪魔は嗤う。邪悪に、暗い愉悦を宿しながら嗤う。
「ああ、そうだ。それでこそお前だ。やはり俺の見立ては間違っていなかった」
———お前こそが、最強の固有宇宙覚醒者に違いない。
そう言って、悪魔Ωは愉しそうに嗤う。心底愉しそうに嗤う。
固有宇宙に覚醒する者は、神域を超える程の強い自我を持つ。それは即ち、強すぎる個の意思。固有宇宙の覚醒者はその性質上、自分の力しか頼れない者が多い。或いは自己に強い自負を持つ者。
即ち、自己主義者が覚醒する傾向にある。
自己を以って宇宙と成す。それは即ち、そういう事なのだ。そして、ハクアの場合もそうだ。
彼は愛すべき家族が居た。愛すべき恋人も居た。しかし、根本的に彼は己の力しか信じていない。
元来、彼は強い自我を持っていたのだ。そして、それは固有宇宙に覚醒する為の資格だ。
その資格を持たなければ、例えどれほど強く願おうとも固有宇宙には至れない。強い個の意思が無ければ固有宇宙に覚醒する事は不可能だ。故に、固有宇宙に覚醒する者は今まで数えて三名のみだった。
そして、その固有宇宙の壁をハクアは自ら越えようとしている。限界を自ら超えようとしている。
果たして、ハクアはその膨大な力に耐えられるのか?それは解らないが・・・




