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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
つかの間の日常編
133/168

番外、甘い日常

 王都(おうと)、エルピスの屋敷・・・朝、7:00頃。


「う、んんぅっ・・・・・・」


 僅かな声を上げて、僕は覚醒(かくせい)した。


 王都に戻ってきた僕は、朝目を覚ますと、身体に違和感を覚えた。何か、身体をしっかりと拘束されているようなそんな感覚。いや、どちらかというと何者かに強く抱き締められているような・・・


 其処まで考えて、僕はなるほどと納得(なっとく)した。いや、この感覚は彼女に抱き付かれている感触だ。つまり今僕に抱き付いているのは彼女しかいないだろう。その彼女は誰なのか、考えるまでもない。


 其処まで考えて、僕はそっと首を横に向けた。其処(そこ)には果たして・・・


「んみゅうっ・・・・・・すぅっ・・・・・・・・・・・・」


 リーナ=レイニー。彼女が僕にほぼ全裸(ぜんら)に近い姿で抱き付いている。ぎゅっと抱き付いた拍子にその身体の(やわ)らかい部分が僕に押し付けられる。うん、気持ちいい。


 彼女の身体には、申し訳程度に下着が着用されている程度。それも、僅かに肌けており扇情的だ。


 僕はそっと溜息を吐くと、彼女に毛布を掛け直した。その際、リーナがぎゅっと強く抱き付いてくるが一切気にしない事にする。もう、この状況には()れた。


「やれやれ、また僕の布団に(もぐ)り込んだな?」


「んんぅっ・・・。ムメイ・・・・・・っ」


 そっと彼女の口から()れた言葉に、僕は思わず苦笑した。彼女から愛されている、それを感じる事が出来て僕は胸の奥が暖かい気持ちに包まれた。ああ、これはもうどうしょうもないな。


 僕はきっと、もう駄目(だめ)なんだろう。そう自覚した・・・


 自覚したら、自然と頬が(ゆる)んだ。もう、どうしようもないな。僕は自分自身に呆れた。


「愛してるよ、リーナ・・・・・・」


 そう言って、僕はリーナの頬にキスを落とす。彼女の顔がへにゃっと笑った。うん、可愛い。


 僕はリーナをぎゅっと抱き締める。彼女の身体は柔らかく、暖かい。人の(ぬく)もりを感じる。それが今はとても幸せだと感じる。ああ、僕は今、幸福を感じているんだ・・・


 幸福。幸せ・・・


 今まで僕は、幸せなどどうでも良いと思っていた。幸せになりたいと思った事すらなかった。それは僕からすれば掛け値の無い本音(ほんね)だ。それは、今でも本気でそう思っている。


 周囲の人が聞けば、もしかしたら強がりに聞こえるかもしれない。けど、それが僕の本音だ。


 そう、僕の掛け値のない本音だったんだ。


 しかし、それでも実際にそれを体験してみれば存外悪くないと思う。ああ、僕は幸せだ。


「ん、んぅっ・・・・・・」


「リーナ、目を()ましたか?」


 ふと、リーナが目を薄く開いた。どうやら目を覚ましたらしい。


 リーナは僕の方を真っ直ぐ見て、ぼんやりとしている。まだ思考が(さだ)まっていないらしい。


「・・・・・・ムメイ?」


「ああ、何だ?」


 リーナは僕に真っ直ぐ視線を向けながら、やがてにへらっと柔らかく笑った。その表情が、何とも可愛らしくて何とも儚くて、思わず僕も微笑を()らした。


「ムメイ、愛してるよ・・・・・・大好き」


「ああ、僕もリーナの事を愛してる。大好きだ」


 そう言って、僕とリーナはそっとキスを交わした。


 そっと唇を重ねるだけの軽い物。しかし、それは何だかとても甘い気がした。とても甘くて、とても満ち足りた気分だと感じた。そして、それはきっと気のせいでは無かった。


 ああ、僕は本当に彼女の事を愛してるんだな。そう改めて実感(じっかん)した。


          ・・・・・・・・・


 さて、そんな甘ったるい朝を過ごした後。僕はリーナと共に外に出た。場所は南の商業区、大通りの露店が広がる通りだ。リーナはデートだと喜んでいる。僕の腕を引っ張り(うれ)しそうに通りを駆ける。


 くるくると、ステップを踏むように通りを駆けるリーナはとても無邪気で綺麗(きれい)だ。


「ほら、ムメイ。こっちこっち‼」


「解ってるよ。そんなに急がなくても・・・・・・」


 苦笑を浮かべながらも、僕はリーナに付いて行く。何だかんだで、僕も楽しんでいるのだろう。やはり彼女と一緒に過ごす日常(にちじょう)は楽しい。そう、素直に思う。きっと、これも彼女のお陰だ。


 昔はそう素直に思う事なんて出来なかったから・・・。だから、きっと僕も変わったのだろう。


 僕は、リーナ=レイニーの事を愛している。彼女の事が大好きだ。


 ふと、僕は立ち止る。視線の先には、ある店が建っている。古い、小洒落た雰囲気の店。


 その店を見て、僕はある事を思い付いた。ふっと、口元に笑みを浮かべる。


「リーナ、少しだけ待っててくれないか?」


「え?うん。良いけど・・・・・・何処(どこ)に行くの?」


 僕はリーナを置いて少し先にある店に入っていった。其処は、宝石商だった。


 看板にはブリリアントカットの宝石が描かれている。古い小洒落た店だ。


 その宝石店の中で、僕はしばらくある物を選ぶ。


 ・・・しばらくして、僕は宝石店から出てきた。リーナは僕を見て小首を(かし)げている。


「ムメイ、何を買ったの?」


「まあ、今は気にするな・・・」


「あ、待ってよっ!!!」


 僕はリーナを置いてすたすたとその場を去る。リーナが慌てて付いてくる。今は何を買ったのかは秘密にしておく必要がある。お楽しみは先に取っておくさ。


 ・・・その後、僕達は王都の外側、人通りの少ない裏手に来ていた。此処(ここ)なら目立たないだろう。


「此処なら良いかな?」


「あの、ムメイ?一体何を・・・。まさか?」


 リーナが妙にそわそわしている。僕は(あき)れた顔になった。


「別に、リーナが考えているような事はしないぞ?」


「そ、そう・・・・・・」


 リーナは少し残念そうに言った。うん、そういうのはまた何れな?やれやれだ。僕は呆れた表情で彼女の頭を優しく()でた。リーナは嬉しそうに目を細める。


 全く、どれだけおさかんな奴だと思われているのか。流石の僕でも呆れるぞ?


「じゃ、まあそろそろ行こうか・・・」


「・・・?何処に?」


「それは着いてからのお楽しみだ」


 そう言って、僕は転移(てんい)の術を発動した。瞬間、景色が一転して別の場所に空間が切り替わる。其処は少し大きな湖のほとりだった。昔、僕とミィが母さんと一緒に来た場所だ。


 空は青く()んでいて、湖の水は底まで綺麗に透き通っている。その幻想的な光景に、リーナはしばらく黙り込んで呆然と湖を見ていた。


綺麗(きれい)・・・・・・」


「そうか、それは良かった」


 僕は薄く微笑む。それは良かった・・・


 それでこそ連れてきたかいがあった物だ。僕は静かに笑った。楽しそうにはしゃぐリーナを見ているとそれだけで心が洗われるような気分になる。僕まで楽しい気分になる。


 と、その時・・・リーナが僕の方を見て無邪気な笑顔を浮かべた。って、え?


「ムメイ、一緒に(およ)ごう!!!」


「ちょ、待っ・・・・・・」


 静止の声を上げようとするも、無理だった。既に何もかもが(おそ)かった。


 一瞬だった。一瞬で僕はリーナに腕を(つか)まれてそのまま湖に引っ張り込まれた。服のまま。一緒に水の中に飛び込む羽目になった。一瞬で僕の視界が水の中に切り替わる。


 水の中、急に引きずり込まれた僕は目を白黒させてリーナを見る。彼女は相変わらず笑っている。


 慌てて、僕は湖の中から顔を出した。同時に、リーナも顔を出した。


「っ、ぶはっ!!?」


「ぷはあっ、あははっ!!!」


 満面(まんめん)の笑顔だ。


 リーナはとても楽しそうだ。楽しそうに、満面の笑顔で笑っている。その笑顔に僕は毒気を抜かれたように静かに溜息を吐いた。全く、やれやれだ。


 本当に、リーナが楽しそうで何よりだよ。そう、こっそりと思った。


 リーナがぎゅっと、僕の腕を(にぎ)る。本当に、楽しそうな笑顔で。


「楽しいね、ムメイ!!!」


「ああ、そりゃ良かった」


 思わず僕は苦笑を()らす。リーナは本当に楽しそうだ。まあ、彼女が楽しければそれで良いか。そう僕は苦笑を浮かべつつ思った。そうして、しばらく僕とリーナは湖で泳いで遊んだ。服を着たまま。


 楽しそうに笑うリーナ。そんなリーナの笑顔に、僕も自然と笑顔になった。きっと、僕も何だかんだで楽しいと感じていたのだろうと思うから。だから、きっと僕は幸せだったんだと思う。


 本当に。心の底から・・・


 そして、やがて遊び疲れた僕達は湖から上がった。もう、服はびしょ()れだ。リーナは相変わらず楽しそうに嬉しそうに笑っていた。それが、とても(うれ)しく思う。


「くしゅんっ」


「ああ、ほら。服のまま湖に入るから・・・それに季節もそろそろ(ふゆ)だし」


 ちなみに季節的にもう既に寒い時期だ。こんな季節に湖に入るのはある種自殺物だと思う。


 というか、普通に死ねるんじゃないか。これ?


 僕は溜息を漏らし、ぱちんっと指を鳴らした。すると、瞬時に僕とリーナの服が(かわ)いた。全く、つくづく反則的で何でもありだと思う。この固有宇宙の力は・・・


 まあ、服を乾かす前にリーナの透けた服から覗く肌がしっかり見えたけど・・・。思わずドキリとしたのは秘密という事で。秘密は秘密だ。


 リーナは顔を真っ赤にして(うつむ)いている。何を今更?


「あ、ありがとう・・・」


「うん、良いよ。それよりリーナ、少し良いか?」


「うん、何?」


 リーナは小首を傾げて僕の方を見る。少しタイミングを逃したけど、まあ良い。僕は懐から一つの指輪を取り出しリーナにそっと差し出した。静かに跪く。


 先程、宝石商で購入した青い宝石の(はま)った指輪だ。リーナに良く似合うと思う。


 突然の事に、リーナは一瞬硬直する。しかし、それに(かま)う事なく僕は言った。


「リーナ=レイニー。どうか僕と結婚(けっこん)して下さい」


「え?う・・・あうっ・・・・・・」


「君の事を愛してる。ずっと、永遠に愛し続ける事を(ちか)う。だから・・・」


 ———どうか、僕と結婚して下さい。


 僕はリーナにそう告白した。真っ直ぐ、彼女の瞳を見据えて真剣な瞳で()げる。


 リーナの顔は真っ赤だ。しばらく瞳を泳がせた後、花が咲き乱れたような満面の笑みを浮かべた。


「うんっ、私の方こそどうかよろしく結婚して下さい!!!」


 その瞳から、涙が(にじ)んでいた。僕は、そっとリーナを抱き寄せてその唇に口付けした。


 今日はとても甘くて(やさ)しい日だと、ふとそう思った・・・。とても良い日だと思った。

甘ったるいっっっ!!!!!!

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