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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
少年編
13/168

10、修行の始まり

 僕は現在、神山の洞窟(どうくつ)の中を歩いていた。僕の前を、ミコトは歩いている。


 その洞窟は深く深く、何処までも続いているような錯覚(さっかく)を抱いた。何処まで続くんだ?


「なあ、僕達は何処に向かっているんだ?」


「まあ、付いてくれば解る・・・」


 そう言って、詳しく教えてくれないのだ。僕は思わず、怪訝な顔をした。それにしても、さっきからこの洞窟は熱くなってきてないか?


 まるで、火山の中枢(ちゅうすう)に通じているような・・・。まさか。


「まさか、この洞窟は・・・」


「・・・・・・気付いたようだな。そう、この洞窟はマグマに通じている」


 ・・・・・・いや、一体僕を何処に連れて行こうとしているんだよ。マグマってお前・・・。


 まさか、僕をマグマにでも突き落とそうって言うんじゃないだろうな?軽く疑心暗鬼に陥った。


 と、その瞬間目の前に開けた場所が見えて来た。其処に、何かある。・・・一体何だ?


「見えてきたぞ?あれが、戦士達の聖地。大神殿だ」


 確かに、其処には神殿があった。白い石造りの立派な神殿だ。神殿の背後にはマグマが煮えたぎっているのが見える。かなり剣呑(けんのん)な場所に建っている神殿だな。


「何故、こんな所に神殿を?」


「その方がかっこいいだろう?」


「・・・・・・え~っ」


 山の神ミコトの発言に、僕は呆れた声を上げた。かっこいいって、お前・・・。


 え~っ。・・・流石に、その理由は無いだろう。いくら僕でも引くぞ?ドン引きするぞ?


 僕がじとっとした目で見ると、ミコトは気まずそうにこほんっと咳払いした。


「まあ、流石に冗談だ。本当はこの活火山を(しず)める為の役割がこの神殿にある」


「・・・・・・はあ」


 今の、半分以上本気だったな。僕はそう思った。


 ・・・まあ、ともかくこの神殿は神山の火山噴火を鎮める為の封印という事か?その為に、この場所に神殿を建てたと?


 とりあえず、僕はそう納得した。細かい所は解らん。


「まあ、今はそれは良い。少年、入れ」


「・・・ああ」


 (うなが)され、僕は神殿の中に入っていく。瞬間、其処は広大な世界が広がっていた。


 空には数多の星々(ほしぼし)が輝いている。大地には緑の草原が広がっている。


 そして、遥か彼方には天を衝く巨大な光の柱が天と地を繋いでいる。


 僕は、開いた口が塞がらなかった。何だ、これは・・・。


「ふふんっ、驚いているな?此処が本当の神域(しんいき)だ」


「本当の神域?」


「ああ、お前は勘違いしていたようだが、あの神山は本当の神域ではない」


「・・・・・・・・・・・・は?」


 ・・・・・・はい?


 えーっと、つまりどういう事だ?あの神山は本当の神域じゃないのか?


 混乱する僕を見て、ミコトは苦笑した。


「あー、つまりだな。要はあの神山はこの神域のほんの一部なんだよ。つまり、神域から切り離された神域の一部分という事だな」


「・・・は、はぁ」


 僕は話の内容に付いていけず、曖昧に返事した。頭の中が軽く混乱している。


「まあ、つまりだ。お前は今日から此処で修行してもらう」


「はあ・・・。え?」


 ・・・・・・・・・・・・はい???


 一瞬、意味が理解出来ずに呆けた顔をした。え?つまりどういう事だ?


「あー・・・、まあつまりだな。お前は此処で修行をするんだ」


「は、はあ・・・・・・。いや、どうして此処で?」


 僕が問うと、ミコトはにやりと黒い笑みを浮かべた。思わず、僕はたじろぐ。


 ・・・少し、嫌な予感がする。


「神域はあの世界と比べて、世界の強度や密度が違う。故に、この世界なら俺が全力で暴れても問題は全く無いという訳だ。実に素晴らしいだろ?」


「・・・・・・あー、なるほど」


 つまり、こいつもとことん暴れたいと。そういう事か。


 ・・・・・・はぁっ。やれやれだ。僕は呆れた溜息を吐いた。


          ・・・・・・・・・


 ・・・まあ、それはともかくとして。


「で?僕の修行って厳密(げんみつ)にどうするんだ?」


「うん?こうするのさ」


 そう言うと、ミコトはぱちんっと指を鳴らした。瞬間、神域に数万程の英霊達が出現した。


 鍛え上げられた身体に鎧や兜を着込み、剣や槍を装備している。


 その一人一人が一騎当千の実力を有している。僕にもそれが理解出来た。


 恐らく、今の僕では一人を相手にするのもキツイだろう。それが、約数万。


 僕の頬を、自然と冷や汗が伝う。やっべえ、震えてきた。自然と口角が吊り上がる。


 今、僕は震えながらも笑っている。目の前の脅威(きょうい)に震えながらも、僕は笑っている。


 ・・・なるほど、面白くなってきた。


「やれやれ、面倒臭え」


「そう言いながらも笑っているけどな」


 まあ、それが僕だからな・・・。どうしようもねえな、僕。


 僕は、英霊達に向けて駆け出した。敗北を悟りながら、それでも僕は駆け出す。


「あああああああああああああああっ!!!」


 短剣を構え、僕は英霊達に向かっていった。


 ・・・数十分後、僕は神域の草原にボロボロの姿で倒れていた。まるでボロ雑巾(ぞうきん)だ。


「いやはや。あの英霊達を相手に十分以上持つなんてな」


「うるさい・・・」


 終始一方的だっただろうが。全く・・・。


 流石に疲れたのか、僕自身驚く程か細い声だった。うん、疲れたし身体中が痛い。


 流石に、今日はもう動けない。そんな所に限界を感じる。


 これも、何れ超えなければな・・・。はぁっ。


「とりあえず今日はよく頑張ったな」


 ミコトはそう言うと、僕に一つの袋を投げ渡す。中には袋一杯の豆が入っていた。


「・・・・・・・・・・・・」


「食え。栄養補給には充分だ」


 僕は頷くと、豆を一粒食べた。少し、腹が(ふく)れた気がした。


 それに、意外と美味(うま)い。


「・・・・・・美味い」


「そうだろう?神山にのみ育つ豆だ。他にも神山には様々な薬草(やくそう)が生える」


 ・・・・・・豆をもう一粒食べた。もう、腹が一杯になった。すごいな、この豆。


 たった二粒で満腹になったぞ。


「あと、これも食べとけ」


 そう言って、ミコトは何かの草を僕に渡す。・・・何だ、これ?


 僕は怪訝に思いながら、その草を食べる。うん、苦い。


 ・・・しばらく草をむしゃむしゃと咀嚼(そしゃく)していると、身体がぽかぽかと温まってきた。


「・・・これは」


「薬草だ。あの回復薬の原料の一つでもある」


 ・・・なるほど、あの回復薬の原料か。なるほど、苦い。


 その日、僕は神域の草原で星を見ながら眠りについた。思ったよりもぐっすり眠れた。


          ・・・・・・・・・


 夢を見ていた。捨て去った世界の夢を。最悪の過去を。


 僕は誰も信じられなかった。信じたくなかった。僕にとって、周囲の全てが敵だった。


 様々な罵倒(ばとう)を受けた。陰湿な嫌がらせを受けた。更に深まる人間不信。


 味方など居なかった。僕に味方してくれる人など、何処にも———


 本当に?本当に味方が居なかったのか?無条件で僕の味方で居てくれる人が、本当に居なかったか?


 いや、二人だけ居た。僕の両親だ。


 何時も二人は僕の味方で居てくれた。何時も二人は僕を(なぐさ)めてくれた。


 そんな二人の事すら、僕は信じる事が出来なかった。心の底では二人の事を信じていなかった。結局僕は誰も信じる事が出来なかった。


 けど、それでも両親が罵倒の対象になるのは我慢出来なかった。


 お前の両親は一体どんな育て方をしたんだ‼お前の両親は育て方を間違えた‼


 ふざけるな!!!


 お前達は僕が気に入らないんだろう⁉なら、どうして直接言わない‼何故、親に矛先を向ける‼


 僕の親は無関係の筈だ‼それなのに・・・。それなのに・・・。


「貴方を最後まで守れなくて、ごめんなさいね・・・」


 母の最期の言葉だ。


 僕の為に身を粉にして働いていた母だったが、無理が(たた)って倒れた。最後は病院のベッドでそう僕に伝えて亡くなった。


 その後、間もなく父が精神を病んで首を吊った。全部、僕のせいだ。


 両親は何も悪くない。両親が死んだのは全部、僕のせいだ。


 ・・・ああ、それなのに。結局、僕は誰も信じられないまま。


 失意の内に自殺した。

ちょっとした設定。

主人公の人間不信は幼少の頃から。小学生の頃には既に自覚していました。

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