表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
つかの間の日常編
127/168

7、門番再び

 ・・・僕とリーナは鳥居の行列を次々と潜っていった。鳥居を潜る度、空気が純化(じゅんか)されていく。それを肌で直接感じ取っていた。神聖な空気が徐々に増していくのが解る。


 僕でこれなのだから、巫女(みこ)のリーナはもっと強く感じているだろう。実際、リーナは神聖な空気に気圧されたような冷や汗を流している。神山とは、神域に最も近い場所の一つ。疑似的な神域となる。


 恐らく、並の者ならその空気だけで倒れてしまうだろう。それ程の神々しい雰囲気だ。


「ムメイは、此処(ここ)で修行をしていたの?」


「・・・ん?いや、僕は山の神が開いた神域(しんいき)に入って其処で修行していたよ」


「っ!!?し、神域!!!」


 リーナが驚いたように声を(あら)らげる。うん?何を今更?


「うん・・・。言ってなかったっけ?」


「聞いてないよ!!!」


 そうだったっけ?まあ、良いや。いや、本当は良くないかもしれないけど、別に僕にとってはどうでも良い事だと思う。要は、その程度の事だ。


 リーナはそんな僕を見て、呆然としているようだ。其処までの事か?


「よく神域に入って無事だったね・・・」


「うん?いや、普通に入るだけなら問題ないけど・・・?山の神が開いてくれたし」


「いや、神域って神代(しんだい)の法則に支配されているから。確か普通の人間には有害だって聞いたけど?」


 そうなのか?いや、でも・・・


 それこそ今更だろうに?


「そうは言っても、普通に神大陸にも行ったじゃないか?それに、僕は一応古の魔女(まじょ)の血筋だし」


「・・・・・・それも、そうだけど。う~っ」


 リーナはそれでも納得出来ない顔をしている。けど、要するにそういう事なんだよ。


 僕の母さんは古の魔女の血筋だ。古の魔女とは、即ち原始宗教の地母神を(まつ)る巫女の事。即ち、魔女とは言えどその特性は自然宗教の巫女、或いはシャーマンに近い。


 その本業は霊と交信し、自然(しぜん)と密接に関わり合う事にある。


 確か、母さんは原初の蛇神(へびがみ)を祀る巫女の一族だと言っていたか。要するに、僕にはその一族の血が身体に流れている訳だ。故に、神域に入る資格を持つ。


 ・・・原初の蛇神。全ての竜種(りゅうしゅ)の始祖。


 まあ、それは今は良い。もうそろそろ、鳥居の行列が終わる頃だ。


「見えて来たぞ、神山の入口の門だ・・・」


「うん・・・」


 そうして、僕とリーナは神山の入口に着いた。


          ・・・・・・・・・


 神山の入口に着いた僕達は、呆然と立ち尽くしていた。それもその筈だ。何故(なぜ)なら・・・


 門番のオーガがぐっすり居眠りしていたからだ。それも、熟睡(じゅくすい)してらっしゃる。


 神山の門に寄り掛かり、腕を組んでぐっすりと()ている。何とも器用な事だ。


「zzzzzz~」


「おい・・・」


「ん~っ、あと一時間・・・」


 ・・・その瞬間、僕の中で何かが()れた。


「待てるか馬鹿野郎っっ!!!!!!」


「ぐぼはぁっっ!!!???」


 思いっきり、オーガの腹部に正拳を食らわせた。呑気に居眠りをしている彼に腹が立ったから。しかし本当に良く寝ていたよな。全く、呆れて物も言えねえよ。


 対するオーガは、寝ている所を無理矢理起こされてご立腹だ。額に青筋(あおすじ)を立てている。


「何をしやがるっ!!!」


「よう、おはようさん。寝坊助が・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 そんなオーガに、僕は冷ややかな視線で挨拶をする。若干オーガがたじろいだ。全く、オーガともあろう者が何とも(なさ)けない・・・


 僕は思わず(あき)れ返った。本当に、やれやれだ。


「まあ、それはともかくとして門を開けてくれ。神山に入る」


「・・・お前はともかく、其処の娘は大丈夫なのか?」


 オーガが訝しげな顔で、リーナを見てくる。しかし、それは杞憂(きゆう)だろう。


 リーナは強い巫女の資質を持つ。神山の空気にも問題無く適応出来る筈だ。それに・・・


「問題無い。例え、神山の死霊が襲ってきても僕が(まも)るから・・・」


「ふむ、そうか・・・。お前にもついにそういう相手が出来たか」


「・・・・・・・・・・・・」


 オーガがにやにやと笑みを浮かべる。


 いや、お前は一体何を言っているんだ?それに、リーナも何を頬を赤らめている?全く、僕は呆れ果てて思わず溜息を吐いた。まあ、別に良いけどさ。


 で、だ・・・それよりもだ・・・


「何故、剣を構えるんだ?」


「いや、久々にお前と戦いたいと思ってな・・・」


 オーガは腰の長剣を抜き、獰猛(どうもう)に笑った。いや、そんな事を言われてもなあ?


「・・・・・・僕、今は武器を持っていないんだが?」


「ふむ、そうなのか?・・・なら、俺の剣を一本貸してやろう」


 そう言って、何処からともなくオーガは長剣を取り出して僕に(さや)ごと放り投げた。僕は溜息混じりにその長剣を受け取り、鞘から抜き放った。僕の意識が、戦闘用のそれに切り替わる。


 オーガも笑みを浮かべたまま、剣を構える。全く、強引な事だ。


「・・・・・・ムメイ」


「大丈夫だ、リーナ。僕は()けない」


 少しだけ、僕はリーナの方を向き笑みを浮かべた。大丈夫だ、負けはしないさ。必ず勝つ。


 そうして、僕はオーガに獰猛な笑みを向ける。それは、戦士としての顔だ。


「じゃあ・・・()くぞ!!!」


 そうして、僕はオーガに向けて疾駆(しっく)した。初速から最高速度で駆け抜ける。そして、一閃———


 振るった剣閃は大気すら両断するほどの威力がある。例え、オーガと言えども当たれば只では済まないだろう威力と呼べるだろう。しかし・・・


 オーガはそれを、長剣で容易く防いで見せた。なるほど?しかし、それがどうした・・・


 僕は、それでも獰猛に笑う。伊達にこのオーガは神山の門番をやっている訳ではない。この程度の強さは保有してしかるべきだろう。だからこそ、僕はそれでも笑う。


 オーガは力ずくで長剣を振るった。オーガの斬撃を、僕は(やわ)らかく流した。流した斬撃が、あらぬ方へと飛んでゆきそのまま一本の大木を両断した。恐らく、樹齢千年は軽く超えるであろう大木がだ。


 恐るべき斬撃の威力。しかし、それでも僕は笑う。獰猛に、僕達は笑う。


「「さあ、どんどん上げていくぞっ!!!」」


 僕とオーガは再びぶつかり合った。その余波で、周囲の大木が軒並み()ぎ倒される。


 戦闘は、まだまだ続く・・・


 ・・・事は無かった。一気に(かた)を付ける!!!


「悪いが、此処で終わらせるぞっ!!!」


「ちょ、待っ———」


「待たないっ!!!」


 僕は、一気に身体に力を入れる。固有宇宙覚醒者(かくせいしゃ)としての力を発揮する。


 オーガの長剣を半ばからへし()り、そのままの勢いでオーガを殴り付けた。そう、拳でオーガを殴り付けて神山の門に叩き付ける。そのあまりの威力に、門が僅かに開いた。おお?


「ぐほうっ!!!ちょ・・・少しは・・・待てと」


「待ってる(ひま)などこれっぽっちも無い」


 そう言って、僕はオーガを置いて神山の門を開いた。そう、神山の門を勝手に開いたのである。実に罰当たりな行為にオーガもリーナも唖然(あぜん)とする。いや、まあな・・・


 僕だって罰当たりだって解ってはいるが、リーナは急ぐ理由を知っているだろうに?


 ・・・まあ良いや。


「ほら、行くぞ。リーナ・・・」


「あ、うんっ」


 僕達はそうして、神山に入山した。


          ・・・・・・・・・


 そして、無銘とリーナ=レイニーが神山に入山した後。オーガの戦士は門の側に横たわったまま静かに空を見上げていた。空を(なが)め、ぼそりと呟く。


「やれやれ、あの小僧が随分とまあ成長した物だな。・・・まあ、まだ荒々(あらあら)しい部分もあるが」


 まさか、寝ている所を腹部に拳で(なぐ)られるとは。流石に思いもしなかった。


 オーガの戦士は清々しいまでに笑った。その笑みは、とても晴れやかな物だった。


 実に清々しい気分だった。オーガは、空を見上げて今は()き兄の姿を想う。


「兄さん、あんたが守った小僧は立派に成長したぞ?」


 そう言って、オーガの戦士は空に向けて腕を()ばした。

神山の門番は無銘が幼少期に出会ったオーガの弟です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ