4、妹との再会
「じゃ、じゃあ・・・デートの続きでもしようか・・・・・・?」
「・・・・・・ああ、そうだな」
リーナの提案に、僕は素直に頷く。そっと、どちらからともなく手を差し出した。
僕とリーナはそっと手を繋ぐ。何だか、少し照れ臭い。リーナもそうだろうか?そっと彼女の方を見ると顔を赤く染めてそっぽを向いている。可愛い・・・
思わず僕はリーナを抱き締めたい衝動に駆られるが、其処は深く自制する。その代わり、リーナの手を強く握り締める。すると、リーナもそっと僕の手を握り返してきた。柔らかくて、暖かい。
想いが通じ合っている。そう感じた。それを理解した。それがとても嬉しい。素直にそう思えた。
・・・と、その時。
「っ、お兄ちゃん!!!」
「「!!?」」
突然の声に、僕達は二人揃って振り返る。其処には、本来此処には居ない筈の人物が居た。
「・・・・・・ミ、ミィ?もしかして、ミィか?」
「お兄ちゃんっ!!!」
僕の妹、ミィが其処には居た。ばっと僕の胸に飛び付き、勢いよく抱き付いてくる。ずいぶんと成長して大人びた姿になっている。しかし、その涙ぐんだ顔はまだ幼さを残し、昔の面影を残している。
当の僕は驚きに硬直して、愕然とした表情のまま動けずにいる。そんな僕達を見て、リーナは戸惑うばかりで何も出来ない。しばらく、そのままの状態が続くと思った・・・しかしその瞬間。
・・・傍に馬車が止まった。あの家紋は―――エルピス伯爵家の家紋だ。
「シリウス!!!そこに居たかっ!!!」
「と、父さん⁉」
父、ハワード=エルピスが其処に居た。その表情は焦っている。何かあったのか?
父は僕達に近付くと、ぐいっと僕の腕を引っ張った。その力は中々強い。勢い引っ張られる。
「急いで馬車に乗るんだ!!!」
「え?父さん、一体何が⁉」
「事情は馬車の中で話すっ、だから早くっ!!!」
そして、僕とリーナはそのまま事情も知らないまま馬車の中に乗り込んだ。まあ、リーナは僕に同行しただけなのだけれど。まあ、それは良い・・・
僕は改めて、父さんに事情を聞いた。
「父さん、一体何があったんですか?」
「マーヤーが倒れたそうだ・・・」
「っ!!?」
父さんが、簡潔に答える。しかし、その声はかなり焦っているように聞こえる。
・・・事実、かなり焦っているのだろう。
その言葉に、僕は我が耳を疑った。母さんが、倒れた・・・?僕の意識が、一瞬遠くなった。
・・・・・・・・・
そして、馬車の中・・・。其処では奇妙な空間が出来ていた。奇妙というか、珍妙な空間だった。
・・・リーナとミィがじっと見詰め合っていた。
「お兄ちゃん、このお姉さんは誰?」
「ムメイ、この娘は誰なの?」
「・・・・・・・・・・・・はぁっ」
互いに指差して、不穏な空気を放っている。何となく、ぴりぴりした空気だ。思わず、僕は大きな溜息を吐いて脱力した。この二人、何で会って早々に剣呑な空気になっているんだ?
父さんも、苦笑を浮かべて僕達を見ているし・・・はぁっ。
まあ、良いや。僕は簡単に二人を互いに紹介する。
「リーナ、この娘は僕の妹のミィだ。ミィ、このお姉さんはリーナ=レイニーだ」
ミィとリーナは互いに頭を下げて挨拶をする。しかし、リーナは微妙に不服そう。まあ、恐らく理由はあれだろうけどな。僕はそっと溜息を吐いた。
全く、可愛い事だよ。本当に・・・
「ミィ、このお姉さんは一応僕の婚約者だ・・・」
「えっ!!?」
「・・・・・・っ」
僕の紹介に、ミィは愕然とした表情をした。そして、リーナは顔を真っ赤に染める。うん、思った以上にこれは恥ずかしいな。別に、良いんだけどさ・・・
見ると、父さんが驚いた顔で僕達を見ている。特に、僕とリーナを見ている。何だ?
しかし、直後父さんは妙に納得した顔で僕とリーナを見た。
「いや驚いた。お前が認めるとはな・・・。何か、心境に変化でもあったのか?」
「・・・・・・・・・・・・ええ、まあはい」
ああうん・・・。ソウデスネ。
僕は、こっぱずかしくて思わずそっぽを向いた。それがどう映ったのか、ミィは頬を膨らませる。
けど、リーナを睨み付ける以外何もしない。基本ミィは家族以外には中々懐かないけど、人畜無害な性格をしているのである。要は、何も出来ない訳だ。
まあ、其処が妹の可愛い所なんだがな・・・
「むぅ~っ、お兄ちゃんが知らないお姉さんに取られた・・・」
「いや、取られたって・・・」
ずいぶんと可愛い事を言うな、妹よ・・・
僕は思わず、呆れた溜息を吐く。見ると、リーナが苦笑を浮かべていた。父さんも、苦笑を浮かべて見ているのが解る。何だか、和やかな空気だ。一気に空気が弛緩した。
ミィは唐突に僕の方を見ると、不服そうに聞いてきた。
「お兄ちゃん、このお姉さんの何処が良いの?」
「いや、何処って言われても・・・・・・」
「むぅ~~~っ!!!」
いや、何処って言われてもなあ・・・
しかし、その問いに対してリーナが期待したような視線を向けてくる。ああうん、解ったよ。正直に言えば良いんだろう?言いますともさ。全く・・・
はぁっ・・・
「・・・・・・・・・・・・」
解ったから、そう期待した目で僕を見るなよ。リーナ・・・
本当に、可愛い事だ。やれやれ。
「強いて言うなら、僕の良い所も悪い所も全部受け入れて一緒に居てくれた所か。ずっと、めげずに僕の傍に寄り添い共に居てくれた所かな・・・・・・」
言ってしまえばそういう事だ。リーナは僕の良い所も悪い所も、全部含めて僕として受け入れた。
・・・僕は、何時だってリーナをぞんざいに扱って突っぱねた筈なのに。それなのにだ。それが純粋に嬉しいとそう思った。嬉しいと感じたのだ。
・・・まあ、つまりだ。
「僕はリーナの事が大好きだ。愛している」
きっと、そういう事なんだろうな。それが全てだ。
それが、僕の偽らざる本音だ。少なくとも、今はそう本気で思っている。そう、声を大にして言い張る事が出来るんだと思うから。要は、そういう事だ。
それを聞いて、父さんは嬉しそうに笑っていた。ミィは、何処か悔しそうだ。
「うわーっ、何だか負けたああああああっ!!!」
「いや、お前は一体何と戦っているんだよ?」
馬鹿な事を言ってるんじゃ無いよ。ほら、リーナも身体をくねらせて嬉しそうに笑うな。
・・・全く、僕は思わず頭を抱えたくなった。本当にもうっ・・・・・・
・・・・・・・・・
馬車に揺られながら、僕は父さんに尋ねた。
「・・・ところで父さん。母さんが倒れた原因は何でしょうか?」
「うむ、ミィの言う事によれば過労と謎の熱病らしい・・・」
「・・・謎の熱病?」
何だか不穏な言葉に、思わず聞き返す。父さんは静かに頷いた。その表情は険しい。
「うむ、過労で倒れた所を更に未知の熱病が襲ったらしい」
「・・・・・・っ」
僕は思わず息を呑んだ。あの母が、病に伏しているのだ。気にならない筈がない。本当はずっと心の中で気に掛けていた。ずっと、家族の事が心配だったのだ。
ずっと、目を背け続けていた・・・
居心地が悪い。此処は僕の居場所ではない。そう言って出ていった。けど、本当は・・・
そっと、僕の手に誰かの手が重ねられる。リーナの手だ。暖かく、柔らかい掌。
「大丈夫だよ・・・」
「リーナ?」
「大丈夫、きっと大丈夫だから・・・」
実際は何の根拠もない安易な言葉だ。けど、今はその言葉が嬉しかった。そっと、リーナの手に僕も自分の手を重ね合わせる。リーナが優しく微笑む。自然、僕も笑みを零す。
そんな僕達を、微妙そうな顔でミィが見ていた。何処か不服そうだ。
・・・そんな僕達を、父さんが苦笑しながら見ていた。
再会は突然に・・・




