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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
つかの間の日常編
123/168

4、妹との再会

「じゃ、じゃあ・・・デートの続きでもしようか・・・・・・?」


「・・・・・・ああ、そうだな」


 リーナの提案に、僕は素直に(うなず)く。そっと、どちらからともなく手を差し出した。


 僕とリーナはそっと手を(つな)ぐ。何だか、少し照れ臭い。リーナもそうだろうか?そっと彼女の方を見ると顔を赤く染めてそっぽを向いている。可愛い・・・


 思わず僕はリーナを抱き締めたい衝動に駆られるが、其処は深く自制する。その代わり、リーナの手を強く握り締める。すると、リーナもそっと僕の手を握り返してきた。(やわ)らかくて、暖かい。


 想いが(つう)じ合っている。そう感じた。それを理解した。それがとても嬉しい。素直にそう思えた。


 ・・・と、その時。


「っ、お(にい)ちゃん!!!」


「「!!?」」


 突然の声に、僕達は二人(そろ)って振り返る。其処には、本来此処には居ない筈の人物が居た。


「・・・・・・ミ、ミィ?もしかして、ミィか?」


「お兄ちゃんっ!!!」


 僕の妹、ミィが其処には居た。ばっと僕の胸に飛び付き、勢いよく抱き付いてくる。ずいぶんと成長して大人びた姿になっている。しかし、その涙ぐんだ顔はまだ幼さを残し、昔の面影(おもかげ)を残している。


 当の僕は驚きに硬直して、愕然とした表情のまま動けずにいる。そんな僕達を見て、リーナは戸惑うばかりで何も出来ない。しばらく、そのままの状態が続くと思った・・・しかしその瞬間。


 ・・・傍に馬車が止まった。あの家紋(かもん)は―――エルピス伯爵家の家紋だ。


「シリウス!!!そこに居たかっ!!!」


「と、父さん⁉」


 父、ハワード=エルピスが其処に居た。その表情は(あせ)っている。何かあったのか?


 父は僕達に近付くと、ぐいっと僕の腕を引っ張った。その力は中々強い。勢い引っ張られる。


「急いで馬車に()るんだ!!!」


「え?父さん、一体何が⁉」


「事情は馬車の中で話すっ、だから早くっ!!!」


 そして、僕とリーナはそのまま事情も知らないまま馬車の中に乗り込んだ。まあ、リーナは僕に同行しただけなのだけれど。まあ、それは良い・・・


 僕は改めて、父さんに事情(じじょう)を聞いた。


「父さん、一体何があったんですか?」


「マーヤーが(たお)れたそうだ・・・」


「っ!!?」


 父さんが、簡潔(かんけつ)に答える。しかし、その声はかなり焦っているように聞こえる。


 ・・・事実、かなり焦っているのだろう。


 その言葉に、僕は我が耳を疑った。母さんが、倒れた・・・?僕の意識が、一瞬遠くなった。


          ・・・・・・・・・


 そして、馬車の中・・・。其処では奇妙な空間が出来ていた。奇妙というか、珍妙(ちんみょう)な空間だった。


 ・・・リーナとミィがじっと見詰め合っていた。


「お兄ちゃん、このお姉さんは誰?」


「ムメイ、この()は誰なの?」


「・・・・・・・・・・・・はぁっ」


 互いに指差して、不穏な空気を放っている。何となく、ぴりぴりした空気だ。思わず、僕は大きな溜息を吐いて脱力した。この二人、何で会って早々に剣呑(けんのん)な空気になっているんだ?


 父さんも、苦笑を浮かべて僕達を見ているし・・・はぁっ。


 まあ、良いや。僕は簡単に二人を互いに紹介(しょうかい)する。


「リーナ、この娘は僕の妹のミィだ。ミィ、このお姉さんはリーナ=レイニーだ」


 ミィとリーナは互いに頭を下げて挨拶をする。しかし、リーナは微妙に不服そう。まあ、恐らく理由はあれだろうけどな。僕はそっと溜息を吐いた。


 全く、可愛い事だよ。本当に・・・


「ミィ、このお姉さんは一応僕の婚約者(こんやくしゃ)だ・・・」


「えっ!!?」


「・・・・・・っ」


 僕の紹介に、ミィは愕然とした表情(かお)をした。そして、リーナは顔を真っ赤に染める。うん、思った以上にこれは恥ずかしいな。別に、良いんだけどさ・・・


 見ると、父さんが驚いた顔で僕達を見ている。特に、僕とリーナを見ている。何だ?


 しかし、直後父さんは妙に納得した顔で僕とリーナを見た。


「いや驚いた。お前が(みと)めるとはな・・・。何か、心境に変化でもあったのか?」


「・・・・・・・・・・・・ええ、まあはい」


 ああうん・・・。ソウデスネ。


 僕は、こっぱずかしくて思わずそっぽを向いた。それがどう映ったのか、ミィは頬を膨らませる。


 けど、リーナを睨み付ける以外何もしない。基本ミィは家族以外には中々懐かないけど、人畜無害な性格をしているのである。要は、何も出来ない訳だ。


 まあ、其処が妹の可愛い所なんだがな・・・


「むぅ~っ、お兄ちゃんが知らないお姉さんに()られた・・・」


「いや、取られたって・・・」


 ずいぶんと可愛い事を言うな、妹よ・・・


 僕は思わず、呆れた溜息を吐く。見ると、リーナが苦笑を浮かべていた。父さんも、苦笑を浮かべて見ているのが解る。何だか、和やかな空気だ。一気に空気が弛緩(しかん)した。


 ミィは唐突に僕の方を見ると、不服そうに聞いてきた。


「お兄ちゃん、このお姉さんの何処(どこ)が良いの?」


「いや、何処って言われても・・・・・・」


「むぅ~~~っ!!!」


 いや、何処って言われてもなあ・・・


 しかし、その問いに対してリーナが期待したような視線を向けてくる。ああうん、解ったよ。正直に言えば良いんだろう?言いますともさ。全く・・・


 はぁっ・・・


「・・・・・・・・・・・・」


 解ったから、そう期待(きたい)した目で僕を見るなよ。リーナ・・・


 本当に、可愛い事だ。やれやれ。


「強いて言うなら、僕の良い所も悪い所も全部受け入れて一緒に居てくれた所か。ずっと、めげずに僕の傍に寄り添い共に居てくれた所かな・・・・・・」


 言ってしまえばそういう事だ。リーナは僕の良い所も悪い所も、全部(ふく)めて僕として受け入れた。


 ・・・僕は、何時だってリーナをぞんざいに扱って突っぱねた筈なのに。それなのにだ。それが純粋に嬉しいとそう思った。嬉しいと感じたのだ。


 ・・・まあ、つまりだ。


「僕はリーナの事が大好きだ。(あい)している」


 きっと、そういう事なんだろうな。それが全てだ。


 それが、僕の偽らざる本音だ。少なくとも、今はそう本気で思っている。そう、声を大にして言い張る事が出来るんだと思うから。要は、そういう事だ。


 それを聞いて、父さんは嬉しそうに笑っていた。ミィは、何処か(くや)しそうだ。


「うわーっ、何だか()けたああああああっ!!!」


「いや、お前は一体何と戦っているんだよ?」


 馬鹿な事を言ってるんじゃ無いよ。ほら、リーナも身体をくねらせて嬉しそうに笑うな。


 ・・・全く、僕は思わず頭を抱えたくなった。本当にもうっ・・・・・・


          ・・・・・・・・・


 馬車に()られながら、僕は父さんに尋ねた。


「・・・ところで父さん。母さんが倒れた原因(げんいん)は何でしょうか?」


「うむ、ミィの言う事によれば過労と謎の熱病(ねつびょう)らしい・・・」


「・・・謎の熱病?」


 何だか不穏な言葉に、思わず聞き返す。父さんは静かに頷いた。その表情は(けわ)しい。


「うむ、過労で倒れた所を更に未知(みち)の熱病が襲ったらしい」


「・・・・・・っ」


 僕は思わず息を呑んだ。あの母が、病に()しているのだ。気にならない筈がない。本当はずっと心の中で気に掛けていた。ずっと、家族の事が心配だったのだ。


 ずっと、目を(そむ)け続けていた・・・


 居心地が悪い。此処は僕の居場所ではない。そう言って出ていった。けど、本当は・・・


 そっと、僕の手に誰かの手が重ねられる。リーナの手だ。暖かく、柔らかい()


大丈夫(だいじょうぶ)だよ・・・」


「リーナ?」


「大丈夫、きっと大丈夫だから・・・」


 実際は何の根拠もない安易な言葉だ。けど、今はその言葉が嬉しかった。そっと、リーナの手に僕も自分の手を重ね合わせる。リーナが優しく微笑む。自然、僕も笑みを(こぼ)す。


 そんな僕達を、微妙そうな顔でミィが見ていた。何処か不服そうだ。


 ・・・そんな僕達を、父さんが苦笑(くしょう)しながら見ていた。

再会は突然に・・・

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