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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
つかの間の日常編
122/168

3、救われる魂

 半時間程が過ぎただろうか?僕は今、リーナを介抱(かいほう)している。より厳密に言うと、リーナの頭を僕の膝の上に乗せて寝かせている。俗に言う、膝枕(ひざまくら)。そろそろ軽く膝が痛くなってきた。


 リーナの頭にそっと手を乗せて優しく()でる。リーナが気持ち良さそうな顔で寝ている。ずいぶんと気楽な物だと思う。けど、リーナは僕を庇って重傷を負ったのだから、まあそれは良い。


 そっと、優しくリーナの頭を撫で続ける。すると、リーナの(まぶた)がぴくりと動いた。


「ん、んぅぅ・・・・・・?」


「・・・・・・リーナ、目を()ましたか?」


 リーナが薄っすらと目を開く。その瞳は最初ぼんやりとしていたが、やがて状況を把握すると一気にその顔が熟れた林檎(りんご)のような赤に染まる。あうあうと言葉にならない奇声を発している。


 僕は思わず怪訝な顔をする。一体何故、そんな顔面真っ赤にしているんだ?


 その答えは、リーナの口から自然と(こぼ)れ落ちた。


「な、何で?何で私・・・ムメイの膝枕で寝ているの?あうあうあうあ~~~っ!!!」


 ああ、うん・・・・・・。そういう事か・・・。そういう事ね・・・


 僕は軽く納得し、そっと溜息を吐く。リーナは相変わらず奇声(きせい)を発し続けている。うん、まあこのままにしておいてもあれだし、僕はそっとリーナの唇に指を当てた。


 リーナが顔を真っ赤にして押し(だま)った。


「・・・まあ、少し落ち着こうか?ゆっくり、呼吸をして・・・・・・」


「・・・・・・う、ぅん」


 か細い声。思わず、僕は苦笑を浮かべた。


 リーナはゆっくりと呼吸を繰り返して何とか落ち着いたようだ。しかし、落ち着いたら何だかそわそわとし始めたようだ。何だか、何かを聞きたそうにしている様子だ。


 ・・・まあ、その疑問はある程度予想(よそう)が出来ているけど。一応聞いてみる。


「リーナ、そんなにそわそわしてどうした?」


「う、うん・・・。あの、確か私・・・ムメイを(かば)って重傷を負った筈だよね?」


「・・・・・・・・・・・・ああ、そうだな」


 ・・・確かに、リーナは僕を庇って重傷を負った。それは間違いない。


 予想は出来ていたとはいえ、やはりこの事実は精神的にキツイな。思わず、僕は顔をしかめる。庇われたとはいえ僕はリーナを傷付けた。リーナに重傷を()わせたのだから。


 そんな僕を見て、リーナは慌てて前言を撤回(てっかい)した。


「あ、ごめんっ!!!今の話は忘れて・・・」


「いや、良い。リーナには話すよ・・・」


 リーナには、きちんと話しておくべきだ。僕の話を・・・


 そう言って、リーナに話し始めた。僕の固有宇宙の話を。虚無(きょむ)の固有宇宙を・・・


          ・・・・・・・・・


 ・・・結果、リーナは僕の話を黙って聞いてくれた。あれほどの重傷だ、信じられない気持ちが強いだろうに彼女は僕の話を最後まで黙って聞いてくれた。その事実が、ただ(うれ)しかった。


 リーナに信じてもらえた。リーナが信じてくれた。それだけで、嬉しかった。それだけで、僕の心がいくらか軽くなった気がした。気持ちが楽になった気がした・・・


 この程度で気持ちが楽になるなんて、所詮僕の気持ちなんてそんな物か。そう思わなくもない。


 今までの僕の苦悩は一体何だと、そう叫びたくなる気持ちも確かにある。しかし・・・


 しかし、それでもリーナに信じてもらえたのだ。きっと、それだけで僕にとっては充分だ。


 只一人、リーナ=レイニーに信じてもらえた。それだけで、僕にとっては充分だ。


「リーナ、君に聞きたい事がある・・・」


「・・・・・・うん、何?」


 リーナは(おだ)やかな笑みで、僕の話を促す。僕の話を聞いてくれる。それが、素直に嬉しい。


 或いは、僕は只こうして優しく受け入れてくれる存在を求めていたのかもしれない。只、それだけを求めていたのかもしれない。ああ、だからこそ僕はリーナに()かれたのだろう。


 ・・・だからこそ、僕はリーナ=レイニーという少女に()せられたのだろう。僕という人間を受け入れてくれるそんな存在を、僕はずっと求めていたのだろう。()がれていたのだろう。


 だから、これだけは聞かなければいけないと思った。これだけははっきりさせておくべきだ。


 そう、思ったから・・・


「どうして、リーナは僕の事を信じてくれるんだ?どうして、君は僕を受け入れてくれる?」


「・・・・・・ムメイ、少しだけ勘違(かんちが)いしているよ」


「勘違い?」


 リーナは穏やかな表情で頷いた。その顔は、何処までも優しかった。


「うん、私は別に無条件でムメイの事を受け入れている訳じゃ無いよ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「私は只、ムメイにもっと私の事を見て欲しかった。私の事を触れて欲しかった。(あい)されたかった」


 只一人、シリウス=エルピスに愛されたかった。もっと触れて欲しかった・・・


 只、それだけだとリーナは言った。リーナはきっと、僕と結ばれたかったのだろうから。本当は僕と一緒に居たいと思っていた。本当はもっと、ずっと一緒に居たかったのだろう。


「リーナはどうして、そんなに僕の事を愛してくれるんだ?」


 それは、もう何度も聞いた話だ。何度も問い掛けた話だ。けど、僕には結局それが(わか)らなかった。


 ・・・理解出来なかった。理解しようとしなかった。


 そんな僕の問いに、リーナは相変わらず穏やかな笑みで答えてくれた。優しい笑みで答えた。


「ムメイが優しいから。本当はとても優しくて、良い人だから」


 別に(ふか)い意味は無い。只、僕の心に触れて僕に惹かれた。それだけだと彼女は言う。きっと、そんなに深い理由は要らないんだろう。単純で良い。理由など、それだけで良いと。


 只、僕という人間に惹かれた。僕という人間を好きになった。それだけだ。


「・・・・・・・・・・・・」


「ムメイはどう?私の事をどう思っているの?」


「僕は・・・・・・」


 僕・・・は・・・・・・


 果たして、僕はリーナの事をどう思っているのか?彼女をどう思っているのか?


 ただ面倒臭(めんどうくさ)い女か?それとも、そう悪くないか?はたまたどうでも良いのか?


 ・・・ああ、きっとそれは言うまでもないのだろう。そう、別段言うまでもない事だ。


「僕は、僕もリーナの事を(あい)している。リーナの事が大好きだ・・・」


「・・・・・・っ」


 言うまでもない事。もはや、それは僕にとっては至極当然の事だったのだ。至極当然の事だから今までそれに気付かなかったのだろう。だから・・・


 だからこそ、今それをリーナに言う。その口で(つた)える。想いの丈を、全て言葉に乗せて。


「リーナの事を愛している。誰よりも、何よりもリーナの事が大切(たいせつ)だ」


「・・・・・・・・・・・・っ」


 だから・・・


「どうか、僕の(そば)にずっと居て欲しい。ずっと、僕と共に居て欲しい」


 それが、僕の。シリウス=エルピスとして・・・無銘(ムメイ)としての掛け値の無い本音だ。


 リーナを愛している。彼女を愛している。だから、ずっと一緒に居たい。共に歩みたい。共に生きたいと素直にそう思うから。これが、僕の本音だ。僕の僕としての偽らざる本音だ。


 それを聞いて、リーナは涙を流した。嬉しそうに笑みを零しながら、泣いていた。


「・・・・・・うん・・・うんっ。私も、私もムメイの事を愛してる。大好きっ!!!」


 そっと、リーナの身体を抱き締めた。(やわ)らかく、暖かい。そんな感触を胸に感じながら、僕は彼女を優しく強く抱き締める。抱き締めて、僕は思った。


 ・・・ああ、こんなにも簡単な話だったのか。


 こんなにも簡単に人と人は(つな)がれる。簡単に、人は繋がり合える。それなのに・・・


「どうして、こんなにも遠回(とおまわ)りをしてしまったのだろう?」


 解らない。けど、それでも僕は満足していた。きっと、僕達はこれで良いと思っている。僕は彼女の事を愛しているから。心の底から彼女を愛しているから。


 だから、きっとこれで正解(せいかい)なのだろう・・・これが、正解なのだ。僕達はこれで良い。


 ・・・僕は。僕という人間は、この日心から(すく)われた。

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