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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
つかの間の日常編
120/168

1、心の傷

 暗い。暗い。果ての無い暗闇(くらやみ)に僕は立ち尽くしていた。いや、僕は果たして立っているのか?


 それすらも(わか)らない。前後も左右も全く解らない程の真の暗闇の中で、僕は、只其処に居た。どうして其処に居るのか、それすらも解らない。もう、何も解らない。何も理解出来ない。


 周囲を見回してみても、やはり何も無い。只、暗闇が広がっているだけだ。或いは、それは虚無という物なのかもしれないが・・・。やはり、僕には解らない。


 さて、どうした物か?そう思っていると、目の前の暗闇にぼんやりと人が浮かび上がってきた。


 その姿を見て、僕は思わず息を呑んだ。その人物は・・・


「よお、よくも俺を(ころ)してくれたな?クソガキ」


「っ、お前は・・・・・・⁉」


 かつて、少年の頃に僕がこの手で殺した山賊(さんぞく)の頭だ。その山賊頭が今、僕の目の前に居る。一体どういう事だか理解出来なかった。どういう訳なのか、理解を拒んだ。理解したくなかった。


 解らない。解らない。解らない。一体、どういう事だ?どういう意味だ?混乱(こんらん)する。


(いた)かったぜ?よくも俺を、俺達を殺してくれたよなあ?ああっ!!?」


「っ⁉そんなの、お前達が・・・・・・」


「俺達が悪いってのか?殺したお前が、それを言うか?」


「・・・・・・・・・・・・っ」


 罵声(ばせい)を浴びて、思わず肩を震わせる。怖い。自分がやった事が、今更ながら怖い。そう思った。


 何も言い返す事が出来なかった。悔しくて、唇を噛み締める。唇から、血が流れだす。山賊頭は下品に笑いながら僕を見下してくる。それが、悔しい。悔しいが、言い返す事が出来ない。


 確かにそうだ。僕が殺した。僕が殺したんだ。山賊達を、山賊の頭を。只、気に食わないというそれだけの理由で僕は殺した。それは、きっと罪深(つみぶか)い事だ。ああ、僕はきっと罪深い。


 山賊達だけでは無い。僕は殺した。外法教団の団員達を、神大陸を()めてきたから。


 攻めてきたから殺した。殺さなければ、殺された。そんな事、良い訳にはならない。


 僕は殺した。敵を、虐殺(ぎゃくさつ)した。それはきっと罪深い事だ。


 気付けば、僕の回りには大量の死体が積み重なっていた。死体が山となっていた。そのあまりの多さに僕は吐き気を(こら)える。口を、手で押さえる。嫌だ、もうこんなの見たくない。


 死体が、僕を(うら)めしそうに見ている。その口が、僕に言う。僕を責め立てる。


 ―――お前のせいだ。全部、お前のせいだ。お前が悪い。


 ―――死ね。死ね。お前が死ねば良かったんだ。


 口々に、そう告げてくる。気付けば、僕は血塗れだった。血に(まみ)れていた。血生臭い。


 身体が震える。僕の罪の重さに、身体が震える。今更ながらに、十字架(じゅうじか)の重さに気付く。


「嫌だっ!!!もう、僕を(ほう)っておいてくれっ!!!」


 必死に叫ぶが、誰も僕を放ってはおかない。そう、誰も僕の事を放ってはくれない。


 彼等を殺したのは、他でもない僕だ。放っておく筈がない。


 目の前に、オーガが居た。幼少の頃、出会った理知的なオーガだ。


 ああ・・・、僕は(かな)しげな顔で脱力した。そうだ、このオーガも僕が殺したような物だ。


 そう、僕が殺した。きっと、あのオーガも僕が居たから。僕を放っておかなかったから死んだ。その事実が僕の心を締め付けてくる。僕の胸から、血が流れ落ちる。これは、心の流した血だ。


 全部僕が悪い。そう、僕は血に塗れすぎたのだ。十字架を背負い過ぎた。


 重い。あまりにも重たすぎる。重たくて、(つぶ)れてしまいそうだ。苦しい。苦しすぎる。


「あ・・・ああっ・・・・・・」


 僕は、自身の両手を見て引き()った声を上げた。血塗れだった。血に塗れて、真っ赤だった。その事実が僕をどうしようもなく、打ちのめしてくる。打ちのめして、ひき潰す。


「ああああああああああああっ、ああっあああああああああああああああああっっ!!!!!!」


          ・・・・・・・・・


 ・・・イ?・・・っ、メイっ‼


 誰かの声が聞こえる。誰の声だ?僕は、薄っすらと(まぶた)を開ける。


「っ、ムメイ!!!!!!」


「っ!!?」


 目を覚ますと、目の前にはリーナの顔があった。どうやら、寝ていたらしい。心配そうに僕の顔を見詰めている所を見ると、どうやらうなされていたらしい。悪夢(あくむ)を見た。


 そう、悪夢を見た。僕の頬を何かが(つた)う。どうやら、涙を流しているらしい。ああ、とても嫌な嫌な夢を見たから僕は、泣いているのか。そう、理解した。理解して、情けなく思った。


 実に、(いや)な気分だ。


「ムメイ・・・・・・」


「何でも無い」


「え?」


 リーナが驚いた顔で、僕を見る。そんなリーナに、僕は静かに告げた。


「何でも無いよ・・・。何でも無いから・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 リーナは悲しそうな顔で部屋の外に出ようとする。その顔は本当に悲しそうで。だからなのか?つい僕は彼女に声を掛けてしまった。本当に、僕って奴は・・・


 つくづく嫌になる。本当に、嫌になる。


「リーナ・・・」


「・・・?何、ムメイ?」


 リーナが僕の方を向く。一瞬、僕は言葉に()まったが。やがて僕はそれを言った。


「僕は、一体どうすれば良かったのかな。何が正解(せいかい)だったんだ?」


「ムメイ・・・・・・」


「僕は、僕が後悔しないように、何時だってモノを考えて選択(せんたく)してきたつもりだった。けど、一体何処で間違えたんだろうか?一体何を間違えたんだ?僕はどうすれば良かったんだ?」


 気付けば、僕は後悔ばかりの人生だった。人生には後悔しか残らなかった。何故だ?どうしてこんな事になるんだろうか?解らない。もう、何も解らないよ。リーナ。


 そんな僕を、リーナはそっと(やさ)しく抱き寄せた。抱き寄せて、泣いていた。涙を流していた。


 そんな彼女に、僕も腕を回して抱き締めていた。自然、抱き合う形になる。


「ムメイは、きっと何も間違えてなんかいないよ。無銘の選択は、何も間違いじゃない」


「っ、けど・・・っ」


 僕の声は、涙でどうしょうもなく引き攣っていた。それが、何だか無様(ぶざま)だった。情けなかった。


 そんな僕の背中を、リーナは優しく()でてくれる。それが本当に情けなくて、余計に泣けてきた。


 リーナの胸の中で、僕は嗚咽(おえつ)を洩らす。涙を流す。


「あ・・・ああっ、ああああああああっああああああああああああああああああ!!!」


「ムメイは悪くないよ。何も悪くない。だから、一人で背負い込まないで・・・」


 ―――私も背負うから。貴方と共に、背負うから。


 その優しさが、余計に僕の胸に刺さった。その優しさが、とても重かった。けど、それでも今の僕はそれに縋る事しか出来なかった。そんな自分が、とても情けなかった。


          ・・・・・・・・・


 それから、一体どれくらい時間が()ぎたのだろうか?リーナが何かに気付いたように言う。


「そうだ、ムメイ。明日街でデートをしよう」


「デート・・・・・・?」


 僕が問い返すと、リーナが(うれ)しそうに頷いた。とても嬉しそうで、素敵な笑顔だった。そんな笑顔を向けられるのが何だか、僕には相応しくない気がした。僕に、この笑顔は似合わない気がした。


 そんな事を思う事自体、もう駄目(だめ)なのかもしれないけど・・・


「うん‼街で一緒に遊んで、いろんな店を見て歩いて、食事をして、それでね?」


「・・・・・・くだらねえ」


「うん、くだらないだろうけど。きっと楽しいよ?」


「くだらねえよ・・・」


「うん。けど、ムメイと一緒なら、きっと楽しい。楽しい筈だから・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 僕は、子供のようにふてくされる。それがおかしかったのか、リーナが笑う。


 そうして、結局僕はリーナと一緒に明日デートをする約束(やくそく)をした。自分が情けない。情けなくて、思わず溜息が漏れる。本当に情けない。


 けど・・・


「~♪」


 リーナが楽しそうに鼻歌(はなうた)を歌っている。まあ、別に良いか。そう思えた。


 本当、僕はリーナに(あま)いよな?そう、心から思った。思って、溜息を吐いた。

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