表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
少年編
12/168

9、神との戦い

 現在、僕とミコトは山の頂上で木剣を構え、対峙していた。


 僕は木剣を自然体に構え、ミコトは掌でそれをくるくると弄んでいる。なかなか余裕な様子で。


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・ふふんっ、どうした?何を憂鬱(ゆううつ)そうな顔をしている?」


 ミコトは楽しげに笑い、問い掛ける。いや、そりゃあなあ・・・。


 僕は深く溜息を吐いた。はぁっ、面倒だ。何故、こうなったのか。


 ・・・いや、そりゃあ僕が面倒だからと安請け合いしたのは確かだが。正直、面倒事ばかり巻き込まれている気がするんだが・・・。気のせいか?


 此処まで面倒事に巻き込まれたのは、前世でも無かったぞ。


「・・・・・・はぁっ、面倒だ」


「そう言うな。少年もこの状況を(たの)しめ」


「・・・そう言われてもなあ。はぁっ」


 そう言っている間も、僕もミコトも決して隙を作らない。流石は戦士の神、全く隙が無い。


 まあ、そういう僕もこの状況であえて隙を作る愚は(おか)さないがな。


 こんな状況下で隙を作れば、その瞬間に敗北するだろう。それくらい、理解出来る。


 そんな僕を見て、ミコトは不敵に笑った。全く、何がそんなに楽しいのか。


「なるほど。なら、まずは少年をやる気にさせよう」


「・・・何?っ!!?」


 瞬間、気付けば僕の懐までミコトが距離を詰めていた。振るわれる木剣。不味い、これを受けたらいくら木剣でも只では済まない。直感的に僕は(さと)った。


 後方に跳び退き、更に木剣を構えて相手の斬撃を受け止める。しかし・・・。


「甘い!!!」


「ガッ!!?」


 ミコトの斬撃を防いだものの、その衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされた。速い。そして重い。


 オーガの門番の一撃よりも重い。何だ、今のは・・・?


 僕はよろよろと立ち上がる。しかし、ようやく目が覚めた。僕の闘志(とうし)に火が点いた。


「くはっ。そうだ、それで良い」


「・・・・・・っ!!!」


 今度は僕の方から距離を詰め、木剣を振るう。人間の、それも子供が振るうには鋭すぎる斬撃。


 必ず断つという気迫(きはく)を籠めた一撃を、ミコトは・・・。平然と受け止めた。


「・・・っ、な!!?」


「しかし、まだまだ腰が甘い!!!」


「がはっ!!?」


 ミコトは片腕で木剣を握っている。つまり、片腕の腕力だけで受け止めたんだ。


 受け止めた木剣を軽い動作で振り払う。それだけで、僕はまた吹き飛ばされた。


 何だ⁉一体どういう怪力をしているんだ‼僕は愕然とする。


「ふむ、しまったな。人間の・・・それも子供を相手に神の身体能力は反則(はんそく)に過ぎるか」


「・・・・・・・・・・・・っ」


 神の身体能力。つまり、神と人はそもそも身体能力から違うのか・・・。


 改めて、僕は神の出鱈目(でたらめ)さを思い知る。


「なら、少しハンデを与えよう。俺の身体能力に(かせ)を付け、一割以下に力を封印する」


「・・・・・・何だと?」


 僕は思わず、問い返した。今、何と言った?


「だから俺の身体能力に枷を付け、一割以下に力を封印した・・・。これで身体能力では互角だ」


「っ、()めてんじゃねーよっ!!!」


 僕は怒りの咆哮を上げ、木剣をミコトに振るう。しかし、その鋭い一閃はミコトに届かない。


 ミコトは薄っすらと笑う。


「ふっ!!!」


 僕の一閃はミコトの木剣によって軽く柔らかくいなされた。だけでは無く、気付けばそのまま空中高く放り上げられていた。馬鹿な⁉


 只、力任せに放り上げられたのではない。僕の力を利用し、其処にミコトの力を加えた上で上向きに受け流したのだ。つまり、完全な技量の差だ。


 それは、まさしく神域の剣技と呼ぶに相応しい技能だ。


 ・・・まだ、こんなにも上の領域(りょういき)があるのか。まだ、僕はこんなにも弱いのか。


 僕はまだ・・・まだ・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「むっ、いかん!!!」


 瞬間、僕の中で何かがキレた。


「っ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 僕は、(おさ)え切れない激情のままミコトに突貫していった。自分で自分が制御出来ない。


 完全に理性が崩壊し、暴走するまま僕はミコトに木剣を振るう。


 完全にタガが外れた。僕の動作に精密さなど無く、獣の体術そのものだ。


「ちっ、今まで抑え込んでいた物が一気に爆発したか」


「があああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」


 今の僕は云わば、暴走状態だ。要は獣のように暴れるだけで、今まで研鑽してきた技術も技量も全く関係が無くなる。しかし、その代償(だいしょう)に身体能力が格段と向上するだろう。


 何故なら、今の僕はあらゆる枷が外れているから。タガが外れているから。


 要は、今の僕は暴走に身を任せる代わりに身体能力のリミッターが外れている訳だ。


 しかし、それはつまり肉体に重大な負荷(ふか)がかかるという意味でもある。


 今の僕は、何時壊れてもおかしくない状況だ。実際、僕の身体は現在悲鳴を上げている。


 ・・・そのまま、僕は暴走のままにミコトに斬り掛かる。しかし、それでも神には届かない。


 それでも、僕は神には届かない。


「全く、頭を冷やせ‼馬鹿者が!!!」


 ミコトは自身の木剣を僕の木剣に(から)ませるようにすくい上げ、僕の木剣を弾き飛ばした。


 そして、そのまま僕を一閃。吹き飛ばす。


「ガッ!!!」


「まだまだっ!!!」


 一瞬で距離を詰めたミコトは僕をひたすら木剣で打ち続け・・・。やがて、僕の意識は暗転した。


          ・・・・・・・・・


 目が覚めると、其処は小屋の中だった。身体の節々が痛む。


 まあ、それも当然か。それが、恐らく暴走状態の代償なのだろう。


 人間は全力の力に耐えられない。それ故、普段無意識下でリミッターが掛けられている訳だ。


 しかし、僕はそれを外した。暴走のまま、あらゆるタガが外れた。なら、それなりの代償が必要となるのは当然の話だ。あれは身体の負荷が大きい。


 ・・・いや、身体だけでは無い。精神的にもそれなりの負担がある。


 あれだけ暴走し、暴れたのだ。そのぶり返しが、僕に精神的な疲労(ひろう)を与えている。


 ・・・はぁっ、それにしても。


「弱いな・・・僕は・・・・・・」


 今回、それが良く解った。これでは到底自分独りで生きていくなど、二度と何も失わずに生きていくなど不可能だろう。


 ・・・ああ、確かに僕は弱い。弱すぎる。


 僕は未だにちっぽけで弱々しい弱者だ。これでは、僕の求めた強さには到底及ばない。


 僕は、深く深く溜息を吐いた。その瞬間、小屋の入り口の扉が開いた。


「目が覚めたか、少年」


 其処には、山の神ミコトが居た。その瞳は冷ややかだ。


 まあ、そりゃそうか。あれだけ盛大に暴走したんだから・・・。この反応も無理は無い。


 全く・・・。


「弱いな、僕は・・・」


「ああ、そうだな。お前は弱い」


 ミコトの言葉が、僕の胸に深く突き刺さる。痛い。かなり痛い。


 僕の頬を、一滴の涙が(つた)う。


「強くなりたい。もう、独りでも生きていける強さが欲しい。もう、二度と失わない強さが欲しい」


 僕は、強くなりたい。誰よりも強く、誰にも負けない強さが欲しい。


 弱い自分は嫌だ。自分すら守れない、不甲斐(ふがい)ない自分など嫌だ。


 強くなりたい。


「そんなに強くなりたいか?誰よりも強く、誰にも負けない強さが欲しいか?」


「欲しい。僕は、強くなりたい」


 これは、何よりも明確な僕の本音だ。そう、僕は強くなりたいのだ。


 もう、二度と失いたくないのだ。あんな絶望は、もうごめんだ。


「・・・・・・そうか。なら、この神山でしばらく自らを鍛えると良い。自分が納得するまでな」


「・・・・・・・・・・・・」


 そう言うと、ミコトは少年から白い猪の姿に変わり小屋の奥に寝そべった。


 僕は思う。僕は、本当に自分の求める強さを手に入れる事が出来るのか?本当に強くなれるのか?


 いや、絶対になる。僕は強くなりたいんだ。


 もう、二度と失わないように。自分を守り通せるように。僕はそう、意思(いし)を固めた。

ちょっとした設定。

ミコトは三つの姿に変身出来ます。

まずは山の神としての猪の姿。次に戦士の神としての少年の姿。最後に死神としての姿です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ