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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
外法教団編
116/168

番外、迷い

 ・・・此処は、何処(どこ)だ?僕は、誰だ?


 暗い。何も見えない。僕は、何故此処(ここ)に居る?解らない。何も解らない。もう、何も解らない。


 一体何故、僕は此処にいる?此処は、何処だ?暗い、何も見えない。


 どうして?何故?いや、僕は何も理解したくないだけか。もう、何も見たくないだけか。もう、此処で何も見ずに暗い世界に閉じ(こも)っていれば・・・


 そうすれば、嫌な事も嫌な物も見ずに済むから・・・。だから、もうこのまま何時までも。そう、何時までも眠り続けて。何時までも・・・


 もう、何も考えなくても良い。何も感じなくても良いんだ・・・


 そう、心の奥深くに意識を埋没(まいぼつ)させていけば・・・。きっともう・・・


『何時まで、自分の(から)に籠もっているつもりだ?』


 ・・・っ!!?


 誰だ?僕に話し掛けてくるのは・・・


『僕は僕さ。他でもない(ぼく)自身だよ・・・』


 ・・・・・・・・・・・・


『そう胡散臭い顔をするなよ。他でもない僕自身なんだから』


 いや、他でもない自分自身だから(あき)れているんだが?というか、何故僕が僕に話し掛けてくる?


 ・・・そもそも、本当にお前は僕か?


『全く、これでも僕は自分が心配(しんぱい)なんだからな?』


 ・・・一体、何の事だよ?


『解っているくせに、わざわざ聞くなよ』


 うるさいよ。


『お前さ、リーナに(うそ)を吐いただろう?』


 ・・・・・・っ。


 ・・・嘘は吐いていない。只、少しだけ説明不足なだけだ。


『同じ事だ。それは嘘と何も変わらないじゃないか・・・』


 ・・・・・・・・・・・・


『そもそも根本的にお前は、僕は誰も(しん)じていないだろう?それも、誰かを信じたいと思う前に』


 ・・・・・・・・・・・・うるさいよ。


『だって、僕が誰かを信じたいと思う以前からお前は人間不信(にんげんふしん)だったじゃないか』


 ・・・・・・うる、さい。


『そもそも、裏切(うらぎ)る裏切らない以前に誰も信じちゃいないだろう?僕は』


 うるさいよっ!!!黙れ、お前に一体何が解る!!!


『解るさ。他でもない、僕自身の事だからな・・・』


 ・・・・・・っ。


 ・・・・・・・・・・・・


『お前こそ、本当は(わか)っているんだろう?どうして、僕が居るのか・・・』


 ・・・・・・・・・・・・っ。


 ・・・一体、何の事だよ?


『僕は、お前自身の自罰(じばつ)意識の塊だよ・・・。自己否定の塊でも良い』


 それ・・・は・・・・・・。僕は。


 僕・・・は・・・・・・。


『僕よ。お前は何時まで自分自身を()め続ければ良いんだ?』


 ・・・・・・うる・・・さい。


『お前が何時までもそのままだと、何時までも(すく)われないからな?』


 ・・・・・・黙・・・れ。僕は、救われたくなんか・・・。


 救われたく・・・なんか・・・・・・


『ないと言うつもりか?リーナが、彼女があんなに必死にお前を救おうとしているのに?』


 っ、それは・・・・・・


『お前が、何時までもそのままだと。そのままだと、彼女が納得(なっとく)しないからな?』


 ・・・・・・・・・・・・


『もう、駄々(だだ)をこねるのは止めろよ。もう、前を向いて行こうぜ』


 ・・・・・・僕は。・・・僕・・・は。


          ・・・・・・・・・


「っ!!!」


 直後、僕は目を()ました。其処は、何時もと変わらぬ自室のベッドの上だった。何て事は無い、僕は先程まで夢を見ていたのだ。何て事はない、只の夢だ。そう、只の夢の筈だ。


 しかし、どうにも夢見が悪かった。かなり気分が悪い。脳裏に、夢の中の僕の言葉が過る。その言葉が僕の心を突き刺してくる。心が、(いた)い・・・


「・・・・・・ちくしょうっ」


 どうすれば良いのか、そんな事は解らない。他でもない、僕自身の言葉だ。


 僕自身の言葉だからこそ、痛い。何よりも心に()さる。


 その言葉が、いちいち心に突き刺さる。ずっと、僕が考えないようにしていた事実(じじつ)だ。


 ・・・僕はリーナに一つだけ嘘を吐いている。僕は裏切る裏切らない以前に、人を信じられない。


 根本的に、僕は人を信じる事が出来ないのだ。信じられないのだ。


 リーナは、僕が(やさ)しいから人間不信を演じていると言った。それは、ある意味正しい。けど、それは僕を表現するほんの半分でしかない。僕という人間を形作るほんの一部でしかないのだ。


「ちくしょうっ・・・・・・。ちくしょうっっ・・・・・・」


 もう、それしか言えない。どうすれば良いのか、僕自身解らないのだ。心が、(きし)む。胸が痛い。


 ―――何時まで、自分の殻に籠もっているつもりだ?


 ―――もう、駄々をこねるのは止めろよ。もう、前を向いて行こうぜ。


「っ!!?」


 頭の中に、先程の夢の中の僕の声がリフレインする。思わず、肩を(ふる)わせる。しかし、今この部屋に自分以外の誰も居ない。此処には、正しく僕だけだ。


 頭を振る。どうしようもない嫌な気分を頭から追い払う。しかし、どうしても嫌な気分は頭の中から消えてはくれない。無くなりはしない。居なくなってはくれない。


「っ、くそ・・・・・・」


 どうしようもない、居心地の悪さが胸を()し潰そうとしてくる。気持ち悪い。気持ちが悪い。


 どうしようもなく、気持ち(わる)い。嫌な気分だ。いっそ、消えて無くなりたいとすら思う。


 ああ、気持ち悪い気持ち悪い。どうしようもなく気持ちが悪い。


「うっ、おえっ・・・・・・」


 あまりの気持ち悪さに、僕はついに吐いた。吐いて、吐いて、中身が無くなっても、それでも吐き気が決して治まらない。口の中が気持ち悪い。どうしようもない、悪感情(あくかんじょう)が流れる。


 泣きたくなった。あまりにもみじめだった。みじめで、此処から消えて無くなりたい。


 そう、思った・・・・・・


「う・・・ううっ・・・・・・。うああっ、ああああああああああああああああああっっ!!!」


 声を押し(ころ)して、僕は泣いた。どうしようもなく、自分がみじめでならなかった。


 もう、生きている事が・・・みじめだった。いっそ死にたくなる。死んで、消えたくなる。


 嫌な感情に、圧殺(あっさつ)されそうだった。


          ・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・」


 その時、部屋の外ではリーナがタオルを片手にして立ち()くしていた。部屋の中では、無銘が泣いているのが聞こえる。無銘が声を殺して泣いているのだ。


 リーナは無銘の世話(せわ)をする為、何時も通り部屋に来た。しかし、部屋の前に来たリーナの耳に聞こえたのは無銘が苦悩する声だった。部屋の中で、無銘は一人で嗚咽を洩らして泣いていた。


 リーナにはどうすれば良いのか解らなかった。けど、それでも無銘が苦しんでいる。リーナはそれを何とかしたいと思っていた。何とかしたいのだ。けど、その方法が解らない。解らないのだ。


 (くや)しかった。何も出来ない自分が悔しかった。悔しくて、手に握ったタオルを強く握り締める。


 リーナは思う。自分は無銘を(すく)う為ならきっと何でもする。けど、果たして自分に何が出来る?


 リーナ=レイニーに、無銘の孤独を(いや)す事が出来るだろうか?きっと、それが出来ないとリーナ自身納得出来ないのだろう。納得出来る筈がない。


 けど、具体的にリーナは一体無銘に何が出来るのだろうか?何をする事が出来る?


 例えば、今此処で部屋に突入して無銘に愛の告白(こくはく)でもするか?いや、それは逆効果だろう。


 そんな事をすれば、逆に無銘を追い詰めるだけだ。下手をすれば、彼を自殺に追い込みかねない。


 じゃあ、いっそ無銘を連れ出して二人で(たび)に出るか?いや、それも根本的な解決にならない。


 では、一体何が出来る?リーナに、無銘を救う手立てはあるか?


「・・・・・・・・・・・・っ」


 無い。何も、見付からない・・・。


 泣きたくなった。何が、無銘の事を(あい)しているだ。何が、大好きだ。何も彼の為に、何一つとして出来てはいないではないか。何も出来ない自分が悔しい。とても、悔しかった。


 胸をぎゅっと押さえる。胸が、痛かった。とても痛かった。自分自身、(なさ)けなかった。


「っ・・・うぅっ・・・・・・」


 あまりの情けなさに、リーナは声を押し殺して泣いた。ドアの前で座り込んで、泣き続けた。


 ドアの向こうでも、無銘が声を押し殺して()いていた。それが、リーナの胸を突き刺した。

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