番外、迷い
・・・此処は、何処だ?僕は、誰だ?
暗い。何も見えない。僕は、何故此処に居る?解らない。何も解らない。もう、何も解らない。
一体何故、僕は此処にいる?此処は、何処だ?暗い、何も見えない。
どうして?何故?いや、僕は何も理解したくないだけか。もう、何も見たくないだけか。もう、此処で何も見ずに暗い世界に閉じ籠っていれば・・・
そうすれば、嫌な事も嫌な物も見ずに済むから・・・。だから、もうこのまま何時までも。そう、何時までも眠り続けて。何時までも・・・
もう、何も考えなくても良い。何も感じなくても良いんだ・・・
そう、心の奥深くに意識を埋没させていけば・・・。きっともう・・・
『何時まで、自分の殻に籠もっているつもりだ?』
・・・っ!!?
誰だ?僕に話し掛けてくるのは・・・
『僕は僕さ。他でもない君自身だよ・・・』
・・・・・・・・・・・・
『そう胡散臭い顔をするなよ。他でもない僕自身なんだから』
いや、他でもない自分自身だから呆れているんだが?というか、何故僕が僕に話し掛けてくる?
・・・そもそも、本当にお前は僕か?
『全く、これでも僕は自分が心配なんだからな?』
・・・一体、何の事だよ?
『解っているくせに、わざわざ聞くなよ』
うるさいよ。
『お前さ、リーナに嘘を吐いただろう?』
・・・・・・っ。
・・・嘘は吐いていない。只、少しだけ説明不足なだけだ。
『同じ事だ。それは嘘と何も変わらないじゃないか・・・』
・・・・・・・・・・・・
『そもそも根本的にお前は、僕は誰も信じていないだろう?それも、誰かを信じたいと思う前に』
・・・・・・・・・・・・うるさいよ。
『だって、僕が誰かを信じたいと思う以前からお前は人間不信だったじゃないか』
・・・・・・うる、さい。
『そもそも、裏切る裏切らない以前に誰も信じちゃいないだろう?僕は』
うるさいよっ!!!黙れ、お前に一体何が解る!!!
『解るさ。他でもない、僕自身の事だからな・・・』
・・・・・・っ。
・・・・・・・・・・・・
『お前こそ、本当は解っているんだろう?どうして、僕が居るのか・・・』
・・・・・・・・・・・・っ。
・・・一体、何の事だよ?
『僕は、お前自身の自罰意識の塊だよ・・・。自己否定の塊でも良い』
それ・・・は・・・・・・。僕は。
僕・・・は・・・・・・。
『僕よ。お前は何時まで自分自身を責め続ければ良いんだ?』
・・・・・・うる・・・さい。
『お前が何時までもそのままだと、何時までも救われないからな?』
・・・・・・黙・・・れ。僕は、救われたくなんか・・・。
救われたく・・・なんか・・・・・・
『ないと言うつもりか?リーナが、彼女があんなに必死にお前を救おうとしているのに?』
っ、それは・・・・・・
『お前が、何時までもそのままだと。そのままだと、彼女が納得しないからな?』
・・・・・・・・・・・・
『もう、駄々をこねるのは止めろよ。もう、前を向いて行こうぜ』
・・・・・・僕は。・・・僕・・・は。
・・・・・・・・・
「っ!!!」
直後、僕は目を覚ました。其処は、何時もと変わらぬ自室のベッドの上だった。何て事は無い、僕は先程まで夢を見ていたのだ。何て事はない、只の夢だ。そう、只の夢の筈だ。
しかし、どうにも夢見が悪かった。かなり気分が悪い。脳裏に、夢の中の僕の言葉が過る。その言葉が僕の心を突き刺してくる。心が、痛い・・・
「・・・・・・ちくしょうっ」
どうすれば良いのか、そんな事は解らない。他でもない、僕自身の言葉だ。
僕自身の言葉だからこそ、痛い。何よりも心に刺さる。
その言葉が、いちいち心に突き刺さる。ずっと、僕が考えないようにしていた事実だ。
・・・僕はリーナに一つだけ嘘を吐いている。僕は裏切る裏切らない以前に、人を信じられない。
根本的に、僕は人を信じる事が出来ないのだ。信じられないのだ。
リーナは、僕が優しいから人間不信を演じていると言った。それは、ある意味正しい。けど、それは僕を表現するほんの半分でしかない。僕という人間を形作るほんの一部でしかないのだ。
「ちくしょうっ・・・・・・。ちくしょうっっ・・・・・・」
もう、それしか言えない。どうすれば良いのか、僕自身解らないのだ。心が、軋む。胸が痛い。
―――何時まで、自分の殻に籠もっているつもりだ?
―――もう、駄々をこねるのは止めろよ。もう、前を向いて行こうぜ。
「っ!!?」
頭の中に、先程の夢の中の僕の声がリフレインする。思わず、肩を震わせる。しかし、今この部屋に自分以外の誰も居ない。此処には、正しく僕だけだ。
頭を振る。どうしようもない嫌な気分を頭から追い払う。しかし、どうしても嫌な気分は頭の中から消えてはくれない。無くなりはしない。居なくなってはくれない。
「っ、くそ・・・・・・」
どうしようもない、居心地の悪さが胸を圧し潰そうとしてくる。気持ち悪い。気持ちが悪い。
どうしようもなく、気持ち悪い。嫌な気分だ。いっそ、消えて無くなりたいとすら思う。
ああ、気持ち悪い気持ち悪い。どうしようもなく気持ちが悪い。
「うっ、おえっ・・・・・・」
あまりの気持ち悪さに、僕はついに吐いた。吐いて、吐いて、中身が無くなっても、それでも吐き気が決して治まらない。口の中が気持ち悪い。どうしようもない、悪感情が流れる。
泣きたくなった。あまりにもみじめだった。みじめで、此処から消えて無くなりたい。
そう、思った・・・・・・
「う・・・ううっ・・・・・・。うああっ、ああああああああああああああああああっっ!!!」
声を押し殺して、僕は泣いた。どうしようもなく、自分がみじめでならなかった。
もう、生きている事が・・・みじめだった。いっそ死にたくなる。死んで、消えたくなる。
嫌な感情に、圧殺されそうだった。
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
その時、部屋の外ではリーナがタオルを片手にして立ち尽くしていた。部屋の中では、無銘が泣いているのが聞こえる。無銘が声を殺して泣いているのだ。
リーナは無銘の世話をする為、何時も通り部屋に来た。しかし、部屋の前に来たリーナの耳に聞こえたのは無銘が苦悩する声だった。部屋の中で、無銘は一人で嗚咽を洩らして泣いていた。
リーナにはどうすれば良いのか解らなかった。けど、それでも無銘が苦しんでいる。リーナはそれを何とかしたいと思っていた。何とかしたいのだ。けど、その方法が解らない。解らないのだ。
悔しかった。何も出来ない自分が悔しかった。悔しくて、手に握ったタオルを強く握り締める。
リーナは思う。自分は無銘を救う為ならきっと何でもする。けど、果たして自分に何が出来る?
リーナ=レイニーに、無銘の孤独を癒す事が出来るだろうか?きっと、それが出来ないとリーナ自身納得出来ないのだろう。納得出来る筈がない。
けど、具体的にリーナは一体無銘に何が出来るのだろうか?何をする事が出来る?
例えば、今此処で部屋に突入して無銘に愛の告白でもするか?いや、それは逆効果だろう。
そんな事をすれば、逆に無銘を追い詰めるだけだ。下手をすれば、彼を自殺に追い込みかねない。
じゃあ、いっそ無銘を連れ出して二人で旅に出るか?いや、それも根本的な解決にならない。
では、一体何が出来る?リーナに、無銘を救う手立てはあるか?
「・・・・・・・・・・・・っ」
無い。何も、見付からない・・・。
泣きたくなった。何が、無銘の事を愛しているだ。何が、大好きだ。何も彼の為に、何一つとして出来てはいないではないか。何も出来ない自分が悔しい。とても、悔しかった。
胸をぎゅっと押さえる。胸が、痛かった。とても痛かった。自分自身、情けなかった。
「っ・・・うぅっ・・・・・・」
あまりの情けなさに、リーナは声を押し殺して泣いた。ドアの前で座り込んで、泣き続けた。
ドアの向こうでも、無銘が声を押し殺して泣いていた。それが、リーナの胸を突き刺した。




