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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
外法教団編
113/168

10、大陸からの脱出

 地下室から階段を上っていた無銘とリーナ。無銘は彼女の横顔を見詰めながら、ふと問い掛ける。


「リーナ・・・。どうして、そんなに僕を(した)ってくれるんだ・・・?」


「うん?どうしてって言われても・・・・・・」


「僕は・・・、君に好かれる資格(しかく)なんて・・・・・・」


 そんな資格など、僕には無い。そう言って、無銘は(うつむ)く。


 弱々しい声で無銘は呟く。その瞳は相変わらず虚ろだ。いや、少しだけ悲しそうだろうか?何だか無銘が泣きそうな子供のように思えた。リーナには、そう思えたのだ。


 何処か、無銘が迷子(まいご)の子供のように思えたのだ。


 好かれる資格が無い。恐らく、無銘は本気でそう考えているのだろう。いや、どちらかと言うと自分でも何が何なのか(わか)らなくなっているのかもしれない。もう、どうすれば良いのか自分でも解らないのかもしれないとそうリーナは感じた。事実、もはや無銘にはどうすれば良いのか解らない。


 そんな無銘を見て、リーナは真っ直ぐ向き合った。向き合って、こつんっと(ひたい)を重ねた。


 リーナは無銘に大丈夫だよと言って、前置きする。


「ムメイ、私は言ったよ?貴方の事が大好きだって。(あい)してるって」


「・・・・・・・・・・・・」


「それだけじゃ、理由(りゆう)として不足?」


「・・・解らない。・・・解らない・・・んだ」


 もう、何も解らない。そう繰り返す無銘。そんな無銘に、リーナは優しく微笑んだ。その笑顔の眩しさに無銘は思わず、また泣きそうになる。胸が(いた)む。心が痛いのだ。


「大丈夫だよ、ムメイ。今度は私が守るから。ムメイに守られた分だけ、私が守るから・・・」


 解らない。それでも解らないと繰り返す無銘。もう、どうすれば良いのか解らないらしい。リーナは苦笑してそのままそっと無銘の肩を抱いた。再び、階段を上る。


 きっと、何れは。そう、何れは無銘の心を(いや)して見せる。そう、リーナは決めた。無銘に救われたのは他でも無いリーナだから。きっと、救ってみせると。


 何年掛かろうと、それでもきっと彼の心を救ってみせる。そう、(ちか)ったから。だから、これは他でもない自分自身の手で、リーナ=レイニーの手でやるべき事だ。そうリーナの瞳は決意を宿していた。例え何十年掛かろうと、それでも構わない。必ず救ってみせると。そう決めたから。


 そして、やがて階段を上り切り一階に出た。其処には・・・


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 其処には、絶望(ぜつぼう)があった。


 リーナと無銘は敵に囲まれていた。その全員が、アサルトライフルを装備している。


 ・・・カラシニコフ。地球では、最も多く運用されているアサルトライフルだ。恐らく、それもこの世界仕様に改造されているのだろう。全員が、二人に銃口を向けている。


 無銘はそっと息を吐くと、(あきら)めたような口調で・・・


「リーナ・・・」


「嫌」


 何も言えなかった。言う前に、拒否された。拒絶(きょぜつ)された。


 その姿に、思わず無銘は目を見開く。リーナは決して諦めてはいない。その瞳は、真っ直ぐ入口の方を向いて決して逸らさない。恐らく、リーナはまだ諦めていないのだろう。生きる事を。


「・・・・・・リー・・・ナ?」


「私は絶対に諦めないからね?ムメイの事を。絶対に。だから、ムメイも諦めないで」


 生きる事を諦めないでと、そう言って真っ直ぐな視線を向ける。その瞳は決して諦めてはいない。


 最後まで、決して諦めないと。そう瞳で(うった)えかける。その視線に、無銘は胸を打たれた。


「リー・・・ナ・・・・・・」


「諦めないよ。私は絶対に諦めない。皆で(かえ)るんだ。家に・・・」


 そう言って、リーナは周囲を囲む敵を睨み付けた。敵は既に勝利を確信しているのか、優越感を表情に表して笑みを浮かべている。(いびつ)な笑みだ。醜い笑みだ。


 事実、この状況で無銘とリーナが二人助かる方法は無い。唯一、あるとすれば無銘がリーナを庇い命を賭けて逃がすくらいしか方法が無いだろう。無銘は唇を()んだ。


 無銘は、覚悟を決める。自分の為に、これ以上犠牲(ぎせい)を容認する訳にはいかない。


「・・・リーナ・・・・・・それ、でも・・・僕はっ!!!」


「だからっ!!!」


 リーナは、無銘ではなく周囲を囲む敵でもなく。その更に向こうを見て叫んだ。


「私を・・・私達を助けてっ!!!」


「りょーかいっ・・・」


 軽い声が響いた。瞬間、敵の一角が一気に吹っ飛ぶ。リーナを除く全員が愕然(がくぜん)として振り返った。


 其処には、剣を片手に不敵な笑みを浮かべるクルト=ネロ=オーフィスが居た。


「クルト・・・王子・・・・・・?」


「よお、シリウス。ずいぶんと(ひど)い姿じゃないか?」


 そう言って、クルト王子は静かに笑った。何時もの悪戯(いたずら)っぽい笑みだ。その笑みに、無銘は呆然と口を開いて呆けてしまう。それくらい、衝撃的な展開なのだ。


 そんな無銘の姿を見て、王子は溜息を一つ。


「俺が退路(たいろ)を確保する。だから、お前等はさっさと行けっ!!!」


「はいっ‼」


 言って、リーナは無銘を連れて進む。それを防ごうと敵はアサルトライフルを構えた。しかし、それを撃つ間も無く更なる援軍(えんぐん)が来た。アサルトライフルを構える敵の足元に、赤い光が輝く。


 (りん)とした声が、響き渡った。


「爆裂術式、起動」


 瞬間、大規模な爆発が発生する。一瞬で、敵の大半が吹っ飛んだ。


 其処に居たのは、大賢者ことグリム=ロードだ。彼の手には、魔術師の杖が握られている。絡み合う二匹の白蛇を模した、白い長杖だ。蛇の口には、それぞれ赤い魔石と青い魔石が()め込まれている。


 グリムは飄々(ひょうひょう)とした笑みを浮かべ、リーナと無銘を見て告げた。


「どうやら無事救出には成功したみたいだね。なら、此処は任せなさい。外に帰還用の飛竜部隊を用意しているから大丈夫だよ♪」


 その言葉に、リーナもクルト王子も唖然(あぜん)とした。何処まで抜かりないのか、この大賢者は。


 まあ、それはともかくだ。


「ありがとうございます、グリムさんっ!!!」


 そう言って、リーナは無銘を連れて退路を進んでゆく。無銘が負傷している為、ゆっくりしか動けないがそれでも確実に退路を進んでゆく。神殿の入口を目指して進む。


 それを妨害しようと敵が一斉に構える。しかし、それを許す大賢者と王子ではない。大賢者の魔法と王子の剣が敵を一掃(いっそう)していく。そして、やがてリーナと無銘は神殿を出た。


 其処には、大量の飛竜達が待っていた。その先頭に黒い飛竜が居る。ククルーだ。


 ククルーは主の姿を確認すると、静かに笑う。不敵な笑みだ。


「ククルー・・・・・・」


「ぐるっ・・・」


 ククルーはまだ傷が治りきってはいない。しかし、それでも此処まで来たのだ。無銘を助ける為。


 その為に、此処まで来たのだ。自分の主は、無銘だとそう言っているようだ。


 その姿に、無銘は思わず目に涙が(にじ)んだ。リーナは、微笑みを浮かべて言った。


「帰ろう。家に・・・」


 そうして、リーナは無銘を連れて無事未開の大陸を脱出した。


          ・・・・・・・・・


 一方、世界樹の神殿。最奥の玉座。其処に、終末王のハクアは居た。その前に、一人の神父が。額に汗をかきながら神父は跪く。その姿は、王の(いか)りを恐れる臣下のようだ。


「で?あの少年は無事に逃げ出したと?」


「は、はい・・・・・・」


「お前等、つかえねーな・・・」


 その声には、失望が多分に含まれている。しかし、ハクアの口元には笑みが張り付いていた。とても不気味な笑みである。不気味で、とても恐ろしい。其処の無い悪意を(はら)んでいた。


 その恐ろしい笑みに、神父は思わず震えた。


「も、申し訳・・・申し訳ありませんっ・・・・・・」


「まあ、良いさ。次は()いぞ?」


「は、はっ!!!」


 そう、次は無い。ハクアが言えば、本当に次は無いのである。それを、神父は改めて思い知った。


 慌てて退室していく神父。その背を(たの)しそうに眺めながら、ハクアは呟いた。


「まあ、こうでなくちゃな。面白くない・・・」


 その笑みは、何処(どこ)までも悪魔的だった。

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