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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
外法教団編
111/168

8、外法教団

 第一陣、第二陣が戦っている中。こっそり未開の大陸に侵入(しんにゅう)する二つの人影があった・・・


 リーナ=レイニーとクルト=ネロ=オーフィスの二名だ。この二名こそ、この作戦の本命である。


 事前に第一陣と第二陣のメンバーに話した作戦は、即ちフェイクだ。この二人こそが、本命。


 第一陣と第二陣のメンバー全員が知らない、本当の作戦・・・真の無銘(シリウス)救出作戦。


 第一陣を囮に、第二陣を別ルートから送る二段作戦。と、見せかけて更にそれすらも囮に、真の本命と言える第三陣の二名を無銘の(もと)に送る。それが、今回の作戦の真の概要だ。


 即ち、今回の作戦は偽の作戦概要が敵に流出する事を前提として展開されている。この作戦を考案したのは彼の大賢者ことグリム=ロードである。


 この作戦は、終始彼の思惑通りに進んでいる。つまり、グリムはあらかじめ味方に敵の患者が紛れ込んでいる事を察知(さっち)していたのである。恐るべきは彼の頭脳だ。


 この驚異的な頭脳こそ、国王イリオに大賢者として買われた理由である。


リーナとクルト王子は、そのまま何の障害(しょうがい)も無く未開の大陸を進んでゆく。途中、未開の大陸固有の危険生物が襲い掛かってきたが、クルト王子にとって大した障害にならなかった。


 むしろ、クルト王子にとってはリーナを守りながら片手間に戦える程度の相手だ。


 そのまま二人は未開の大陸の中央、世界樹エルトネリコの神殿に着く。二人は敵地に到着した。その神殿の威容に二人は思わず息を呑む。此処に、無銘が(とら)われているのだ。


「此処に、ムメイが・・・・・・?」


「ああ、恐らくはそうだろうな・・・」


 二人は意を決して、神殿の扉を開けた。その直後、二人に向かって斬撃が飛んできた。


 一瞬で、クルト王子がリーナを庇い斬撃を剣で(はじ)く。其処には、一柱の悪魔が居た。


 神への冒涜(ぼうとく)を全体に刻んだ黒い法衣を着た、一柱の悪魔。純血の悪魔だ。


 悪魔Ω。外法教団の、終末王の切り札と目される悪魔。彼が笑みを浮かべながら其処に()た。


「ようこそ、結社外法教団へ・・・」


 その悪魔は、二人に極度の愉悦(ゆえつ)の籠もった笑みを向けている。どうやら、二人が此処に来る事を既にこの悪魔は察知していたらしい。油断ならない相手だ。


 しかし、だとすると気になる事が一つある。何処まで敵がこの真の作戦に気付いていたのかだ。その是非によりこの作戦の成否が決定する。それ程の重要な事態だ。


 故に、クルト王子は剣を抜き悪魔に剣先を向けながら問う。真っ直ぐ、悪魔を(にら)み付ける。


「お前等、一体何時から俺達の作戦に気が付いていた?俺達の真の作戦に気付いていた?」


「ああ、気にする事は無いぞ?お前達の真の作戦に気が付いたのは、俺だけだ。ハクア、終末王でさえお前達の真の作戦には気付いてはいない」


 ―――終末王(ハクア)ですら、気付いてはいない。


 その返答に、王子は怪訝な表情をした。だとすると、この悪魔は独断行動をしている事になる。この悪魔の目的が今一つ理解出来ない。一体、何が目的なんだ?


 リーナは悪魔の笑みを見て、顔を蒼褪(あおざ)めさせる。どうやら、この悪魔の本質を理解したらしい。今の会話でこの悪魔の本性を理解したのだ。巫女故の直感だ。


「クルト殿下、あの悪魔は私達の理解を遥かに超えています。あの悪魔は、何処まで行こうと度し難いまでの快楽に忠実なのです。理解しようと出来る範囲を超えているでしょう」


「っ!!?」


「ほう・・・?」


 悪魔の瞳が、危険な色を帯びた。どうやら、リーナに興味を持ったらしい。


 対するクルト王子はその目を驚愕に見開いた。その一言で、目の前の悪魔の危険性に気付いた。


 故に、クルト王子は警戒心を更に一段階上げる。その光景に、悪魔は嗤った。


「なるほど?勘は鋭いらしい。それに気付いたのはあの無銘の少年を含めて三人目だ」


「っ、ムメイは‼ムメイは何処(どこ)にっ!!!」


「くははっ、探し出して見ろ。まあ、俺を越えられる物ならな」


 そう言って、悪魔は漆黒の十字剣を構えた。その洗練された構えを見て、クルト王子は思う。恐らくこの悪魔からリーナを守りながら戦うのは、絶対に不可能だと。それ程の力量を感じ取った。


 リーナは、悪魔を睨みながら警戒心を(あら)わにしている。しかし、彼女では悪魔には敵わない。


 なら、やる事は一つのみだ。


「リーナ、此処は俺が引き受ける。だから、シリウスの許にはお前が行け」


「なっ、それでは殿下は―――」


「大丈夫だ。俺も、後から追い付くから・・・此処は任せろ」


 そう言って、クルト王子は不敵に笑った。その笑みに、リーナは王子の覚悟を悟った。なら、もはや何も言う事など無いだろう。リーナは、そっと神殿の奥へと走り去った。


 驚いた事に、悪魔はリーナを素通りさせた。その光景に、クルト王子は目を見開いた。悪魔は最初から彼女になど目もくれていない。リーナなど、最初から気に掛けてなどいないのだ。


「お前、一体何が目的だ?」


「先程聞いただろう?俺の本質は、何処まで行こうと快楽のみだ。それを正しく理解した者は、今まで終末王と無銘の少年、そして先程のリーナという少女の三名のみだ」


 だからこそ、面白い。そう、悪魔は嗤った。愉悦と快楽の()もった嘲笑だった。


 改めて、理解した。改めて、クルト王子はその事実を認識した。


 この悪魔、危険だ。そう、改めて王子は理解した。理解して、鳥肌が立つ程の怒りを見せた。


 この悪魔は危険だ。恐らく、生かしておけばこれから先どれ程の被害が出るか解らないだろう。此処で倒さなければこれから先、恐らく何人もの人が人生を(くる)わされる。それを、理解した。


 だから―――


悪魔(オメガ)あああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」


 雄叫びを上げて、そのまま一足飛びに距離を詰める。剣を一閃させる。しかし・・・


無駄(むだ)だ」


 その一閃は、悪魔の剣によって柔らかく流される。まるで、自然にすり抜けたような柔らかさ。恐ろしいまでの剣の腕だ。一体、どれ程の修練を()めばそれを可能とするのだろうか?


 少なくとも、クルト王子の更に上の力量だろう。それを、理解させられた。しかし、それでも王子は不屈を瞳で訴える。断じて負けを認める訳にはいかないと、それを瞳で訴える。


 しかし、それにより逆に悪魔の闘争本能に火を点けた。不気味なまでに悪魔の口元が(ゆが)む。


 悪魔の歪んだ快楽に火を(とも)した。


「ふはっ♪」


「・・・・・・っ!!?」


 鮮血が舞った。クルト王子の血だ。王子がそれを理解したのは、一瞬の後だった。


一瞬の出来事だった。王子の認識出来ない程の刹那の間、その一瞬の間に何十・・・いや、何百もの斬撃を喰らい鮮血を散らした。一瞬遅れて、クルト王子は倒れ伏す。


 もはや、クルト王子に起き上がる事は不可能だ。気力の問題ではない。身体の構造上、不可能。


 意識を保つのも困難な状況だ。それでもクルト王子は悪魔を真っ直ぐ睨み付ける。瞳だけは、その意思だけは不屈を訴える。決してその視線を()らさない。


 それを見て、悪魔は暗い愉悦の瞳を向ける。静かに嗤う。


「面白い。お前を殺すのは実に()しいな・・・」


「何を・・・・・・」


「お前は生かしておいてやる。(いず)れ、近い内に再び()り合おう」


 そう言って、嗤いながら悪魔は立ち去っていく。その背を睨みながらクルト王子は愚痴(ぐち)を零した。


「・・・・・・ちくしょうっ」


 クルト王子の脳裏に、ビビアン騎士団長の姿が浮かぶ。何時だって、クルト王子は彼女に誇れる自分であろうと必死に努力をしてきた。彼女に格好を付けたくて、剣の腕を(みが)いてきた。


 それが、今の自分のざまは何だろうか?実に無様だ。(なさ)けない。


 (くや)しくて、血が出そうなくらいに唇を噛み締めた。


「ちく・・・しょう・・・・・・っ」


 血を吐くような、そんな言葉を呟いた。悔しさに、血を吐きそうだった。


 そのまま、クルト王子はゆっくりと意識を()ざしていった。意識が暗転(あんてん)する。

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