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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
少年編
11/168

8、山の神

「・・・・・・何処だ、此処(ここ)は?」


 目が覚めたら、其処は知らない小屋の中だった。いや、本当に何処だ?全く記憶に無い。


 確か、僕はさっきまで・・・。必死に記憶を手繰り寄せる。その瞬間———


「おお、目を覚ましたか。少年」


 声を掛けられ、其方に目をやる。すると、其処には・・・。


 白い、巨大な猪が居た。もう一度言おう。白い巨大な猪が居た。


 ・・・・・・はい???


 僕は目を(うたが)い、思わず二度見した。其処にはやはり、白い巨大な猪が居る。


 えーっと・・・?


「もしかして、さっきの声はお前か?」


「少年、神は(うやま)え」


「・・・は、はあっ。って神?」


 ・・・神?GOD(ゴッド)


 僕は思わず、白い猪を凝視する。確かに、良く見れば何処か神々しい気はする。輝く純白の体毛にたくましい巨大な体躯は神々しいと言えなくもない。


 ・・・と、いう事はこいつがこの神山の神か?


 どうやら、僕は怪訝な顔をしていたらしい。白い猪は呆れた顔をした・・・ような気がした。


「・・・ふむ、どうやら少年にはこちらの姿の方が話しやすいらしい」


 そう言うと、白い巨大な猪だったその身体は徐々に姿を変えていき、やがて白髪と輝く翡翠の瞳をした少年に姿を変えた。というか、猪の姿からずいぶん小さくなったな。


 思わず、僕は目を見開いて硬直する。というか、素でびっくりした。


「・・・・・・・・・・・・はい?」


「驚いているな・・・。しかし、人化の術など然程珍しくもないだろうに」


「・・・・・・それもそうか」


 僕は無理矢理納得した。もう、納得するしか無かった。これ以上どうしろと?


 もう、どうとでもなれ‼


          ・・・・・・・・・


「・・・ふむ、ようやく落ち着いたか」


「ああ、うん・・・まあな」


 落ち着いたというか、一周回って逆に冷静になった感じだがな。うん。


「・・・まあ良い。で?何か俺に質問はあるか?」


 いきなりだな。・・・まあ、そうだな。質問ねえ?


 僕は少し考え、ふと思った事を問う事にした。


「・・・・・・まあ、まずはお前は山の神だよな?」


「ああ、俺がこの神山の神だ」


 山の神はそう言い、不敵に笑った。(うそ)を吐いているようには見えない。


 まあ、其処は別に疑ってはいないがな。しかし・・・。


「で、だ・・・。あのオーガの門番に不死(ふし)の異能を与えたのもお前か?」


「そうだが?」


 それも、嘘を吐いているようには見えない。


 僕は一体何を聞きたいのか?つまり、僕が疑問に思っているのは・・・。


「じゃあ山の神、お前は一体何の神だ?山の神なら何故、不死の異能を与えられる?」


 つまり、そういう事だ。山を司る神なら、何故その眷属(けんぞく)に不死の異能を与えられる?


 山の神が、一見山に無関係な筈の異能を眷属に与えられるのは何故か?それが疑問だ。


 山の神はなるほどと頷いた。頷いて、僕を真っ直ぐ見詰めた。・・・その瞳は、どちらかと言えば死神に近い雰囲気があった。生命の死を司る神の瞳だ。


「そうだな。お前はこの山を登る際、何と戦った?」


「それは・・・・・・っ⁉そういう事か‼」


 なるほど、ようやく理解した。つまりはこういう事だ。


「この山は、死者の通り道という事か」


「正確にはあの世の入り口に通じているのさ。この神山は」


 要は、この山は生と死の境界(きょうかい)となっているらしい。


 日本人に解りやすく例えるなら、青森の恐山と似たような物か・・・。なるほど理解した。


「・・・なるほどな。じゃあ、戦士の霊が多かったのは何故だ?」


「それは、この山が戦士達の聖地でもあるからだ」


 曰く、この山は古来より戦士達により多くの信仰を受ける聖地だったらしい。


 要は、北欧神話におけるヴァルハラ宮殿みたいな物か。


 それ故、この神山を司る山神は死神としての側面と戦士の神としての側面を獲得したらしい。


「つまり、神にとって信仰心が全てという事か?」


「それは少し違うな」


 山の神は首を横に振った。何だ、違うのか。僕は少し、残念に感じた。


 ・・・まあ、別に良いや。どうでも。


 山の神は苦笑しながら言う。


「確かに、神は信仰心に左右される面もある。しかし信仰心が無くとも神は存在する。信仰とは即ち、神霊が存在を証明する為の指標にすぎんのだ」


「つまり、信仰心は神霊を人間が認識しやすくする為の一要素でしか無いと?」


「そうだ。呑み込みが速いのは評価しょう」


 つまり、神は本来生きる為に人間の信仰を必要としない。そんな物が無くとも神は確かに存在する。


 しかし、神が人間に認識されるには信仰心が必要だ。人類より遥か高次元に存在する神霊種が人間に認識される為にはその為の雛型(ひながた)、つまりは信仰心とその為の神名(なまえ)が不可欠だ。


 即ち、人類がその神を神と認めた存在証明だ。


「つまり、お前にも人間に信仰される神名(しんめい)があると?」


「・・・ん、まあそうだな」


 ん?何だか歯切れが悪いな。何処か、不服そうな感じがする。


 ・・・もしや。


「・・・もしかして、その神名を気に入っていないのか?」


「・・・・・・・・・・・・」


 図星らしい。一体どんな神名なのか。気になる所ではあるな。


 もしかして、変な名前とか?うーん。


「よければ、聞いても問題は無いか?」


「・・・・・・・・・・・・まあ、別に良いが。そんなに気になるか?」


「うん」


 うーん。何処となく不服そうだな。もしかして、藪蛇(やぶへび)だったか?


 しかし、気になるな。


「ミコト・・・だ・・・」


「ん?」


「だから、ミコトだよ‼変な神名だろう⁉」


 ・・・いや、何処が?


「別に、変でも無いけど?」


 何故和風なネーミングなのかは気になる所だが、別段変な神名では無い。むしろ、普通だな。


 何処が変なんだ?・・・ああ、もしかして和風なネーミングだから違和感があるのか?


 なるほどと僕が一人納得すると、山の神ミコトは愕然とした瞳で僕を見た。


「・・・少年。お前は俺の名を変に思わないのか?」


「いや、思わないけど・・・」


 別に、この程度の名前は変とは思わない。確かに世界観に合わないとは思うけど、この名前自体至って普通の神名だしなあ。


 僕の返答に一瞬ミコトは呆然とした後、呆れたように呟いた。


「お前、変わった奴だな・・・」


「そうか?普通だと思うけど」


「いや、お前は間違いなく変な奴だ」


 むうっ、失礼な。僕は不服そうに眉根を寄せる。そんな僕を見て、ミコトは弾けるように笑った。


 もう、大笑いだ。


「むうっ、そんなに笑わなくても・・・」


「はははっ‼いや、失敬。あまりにも可笑しくてだな。くふっ・・・」


 いや。笑い、堪え切れてないじゃないか!!!


 僕は憤慨(ふんがい)する。そんな僕を見て、更に笑う山の神ミコト。


 ・・・何だ、この状況は?どうしてこうなった?


          ・・・・・・・・・


 まあ、それはともかく・・・。


「・・・まあ、ともかく僕は道祖神の紹介でこの神山に来たんだよ。何か解るか?」


「いや、解るかと言われてもな。俺は少し高位の山神だぞ?全知でも無いのに、解るわけが・・・」


 言い掛けて、ふと僕の顔を凝視(ぎょうし)する。・・・何だ?


 僕の顔をしげしげと見詰め、山の神ミコトはふむっと頷いた。


「なるほど、少年は転生者だったか。それも、神王(しんおう)のお気に入りと来た」


「っ!!?」


 思わず、僕は目を見開いて驚いた。神王だと?


 神王とは、神大陸の神々を()べる王の事だ。その神王のお気に入り?僕が?


 一体、それはどういう事だ?


「なるほど、読めてきた。少年、お前は強くなりたいと思っているな?」


「・・・・・・それが、何か?」


「ははっ、そう警戒するな‼なあに、なら俺が(きた)えてやるよ!!!」


「は?」


 ・・・何だって?僕は思わず、呆けた顔をした。


 しかし、それも致し方ないだろう。いきなり鍛えてやるなどと言われても、僕はどう反応しろと?


 流石に反応に困るというか・・・。


「は?じゃない。少年を鍛えてやると言っているんだ」


「いや、その意図(いと)が・・・・・・。まあ、良いや。めんどくせえ」


 僕は、早々に諦めた。もうどうとでもなれ。めんどくせえ。

ちょっとした設定。

山の神ミコトは山の神であると同時に死神でもあり、戦士の神でもある。

その神としての力は間違いなく強大であり、神話の主神と同格でもあります。主人公、詰んだ。

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