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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
外法教団編
109/168

6、海戦

 第一陣は現在、大海を渡っていた・・・第一陣は巨大な木造の戦艦(せんかん)に乗って海路を渡っている。


 戦艦シードラゴン。人類の誇る、魔法技術を結集した超々巨大戦艦だ。その途方もなく巨大な船体は山のようとすら比喩(ひゆ)出来るだろう。その耐久性能は、もはや城塞級と言える。


 海の向こうには、未開の大陸が見えている。その未開の大陸を臨みながら、大岩のガンクツことガンクツは決意を固めていた。ぐっと、拳を握り締める。


「待っててくだせえ、兄貴(あにき)。絶対に助けにいきやすから・・・・・・」


「いや、俺達の役割はあくまで本隊に対する陽動(ようどう)だからな?それを忘れるなよ?」


 そっとガーランドがガンクツの言葉に訂正を入れる。あくまでガーランドは冷静だ。そんなギルド長の様子にガンクツはジトリとした視線で見詰める。その視線に、ガーランドは溜息を一つ。


 むさいおっさんにそんな見詰められてもなあ。そう、こっそり思うギルド長だった。やっぱり、熱い視線を受けるなら美女(びじょ)の視線が良い。そう思うガーランドだ。


 何で、よりにもよってこんなむさい野郎と一緒に陽動などせにゃならんのか。そうも思う。


 ガーランドもやはり男なのだ。やっぱり隣に居るのは美女であって欲しい。何が悲しくて、こんなむさ苦しい野郎を隣に血生臭い戦場に行かなければならんのか?そうとも思う。


 そして、それはガンクツも同じだ。どうせなら、ガンクツは本隊である第二陣が良かった。しかしガンクツは悪目立ちするからという理由で、第一陣にされたのだ。不本意極まりない。


 ガンクツの無銘に対する尊敬の念は本物だ。本人が聞けば表情を(ゆが)めて嫌がるだろうが、その尊敬は命を賭けても良いと思える領域にあると自負している。やっぱり、命を賭けるなら尊敬する人の為に。


 そう、純粋にガンクツは思っている。むさ苦しいが。むさ苦しいが。大事な事なので二回言う。


「何故、俺が陽動に回らなけりゃならんのですか?」


「知るか。そんな事・・・」


「俺だったら、こんな小難しい事などしなくても正面からバーンッと蹴散(けち)らしてしまうのに」


「・・・・・・はぁっ」


 だから第一陣に抜擢(ばってき)されたんだよ。そう思っても、声には出さないガーランドだった。


 こいつは、本当に作戦の趣旨を解っているのだろうか?思わず、隣のガンクツを見る。そんなギルド長の気持ちなど知らず、ガンクツはがははと高笑いしている。そんな呑気な野郎に、溜息を一つ。


 全く・・・脳筋(のうきん)な銀ランク冒険者に、ガーランドは頭を抱える。何でこんな奴と一緒に。そう、運命を呪わずにいられない。頭が痛い思いだ。


 ガーランドは知らない。とある大賢者が、この事態を予測して二人を同じ部隊に居れた事を。


 つまり、ガーランドはガンクツのストッパーという訳だ。当然、そんな事本人達は知らない。


 ガーランドは何も知らないまま、そっと深い溜息を吐いた。


          ・・・・・・・・・


 ・・・と、その直後。突如警鐘(けいしょう)が船内を鳴り響いた。緊急警報の音だ。


「「っっ!!?」」


「前方に敵影。未開の大陸より接近中っ!!!戦艦が近付いてきますっ!!!」


 聞こえてくる魔術音声に、場は騒然(そうぜん)とする。


 突然の警鐘に、船内は混乱する。船内を右往左往する第一陣のメンバー達。その姿は、まさしく災害を目前にした獣のようだ。しかし、そんな中ガンクツとガーランドは至って冷静に武器を構える。


「お前等、落ち着け!!!これは白金(プラチナ)ランクの大仕事だ。気合を入れていけえっ!!!」


「っ、おうっ!!!!!!」


一瞬で冷静さを取り戻した第一陣達。その辺りは流石といえよう。まあ、それもやはりとある大賢者の思惑通りなのだが。それは言わぬが花だろう。


 しかし、全てが大賢者の思惑通りにはいかない。事実、敵の戦力を見誤っている。


 各々武器を構える。ガンクツは戦斧を両手にした二丁斧、ガーランドは一振りの長剣を構える。


 そして、二人はその目で敵をしっかりと補足する。補足した瞬間、思わず我が目を疑った。


「な・・・何だありゃあ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」


 それは、まごう事なき戦艦だった。しかし、それはこの世界における戦艦の概念(がいねん)を幾つも一新した異質な存在であると言えた。事実、その戦艦を見た第一陣のメンバーは皆口をぽっかり開いて見ている。


 それは、現代の地球に居る者が見れば正しく理解出来ただろう。その戦艦は、現代のイージス艦を更に攻撃的に改造した物であると。即ち、地球の技術だ。


 と、敵の戦艦をはっきりと捉えた瞬間。甲板の前方に居た数名の頭部が吹き飛んだ。血しぶきを上げて頭部をなくした人体が、ばたりと倒れる。一瞬の静寂。


 そして、その直後。


「う、うわああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」


「逃げろ。逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!!!!」


「何だ、一体何が起きたんだあああああああああああああああああっ!!!!!!」


 船内は大混乱だ。一体何があったのか?それは、敵の所持していた武器(ぶき)にある。


 即ち、スナイパーライフルだ。要するに、遠距離から狙撃を受けたのである。まさかこの距離で狙撃を受けるとは思わなかった第一陣のメンバー。一瞬で統率を失い、烏合(うごう)の衆と化す。


 それだけでは無い。敵の戦艦から、何発も砲撃を受ける。特殊な神木を素材に、魔術的に補強された超巨大戦艦であるシードラゴンだが、流石に何発も()たないだろう。流石に、これ以上は拙い。


 我先に小型の船で逃げ出す第一陣達。しかし、そんな中でも決して戦意を失わない者が二名居た。


 ガーランドとガンクツの二名だ。二人はこの状況下でも、不敵に笑みを浮かべる。


「ギルド長、奴等の許に何とか接近する方法はあるか?」


「一つだけある・・・。この戦艦には、一隻だけ強襲用(きょうしゅうよう)の小型高速船がある」


「なら決まりだ。俺が、その船に乗って奴等に強襲を仕掛ける」


 ガーランドは、思わず目を見開いた。そして、目を鋭く細めてガンクツを(にら)む。


「お前、死ぬ気か?」


「ああ、死ぬ気だ。死ぬ気で俺は兄貴を助けに来たんだ」


 即答した。それは、余りにも真っ直ぐな言葉だった。思わず、ガーランドは口をつぐむ。対するガンクツは相変わらず清々しい笑みを浮かべていた。清々しい笑みで、断言(だんげん)した。


「ギルド長は戻ってくだせえ。戻って、戦況を立て直してくだせえ。俺は、なんとしても兄貴を助け出すまで戻る事は出来ねえ。なあに、必ず兄貴は助け出してみせまさあ」


 そう言って、ガンクツは戦艦の中に入っていった。恐らく、小型高速船に乗り込む為だ。


 ギルド長のガーランドは、悔しそうに口元を歪めて呟いた。


「馬鹿野郎がっ・・・・・・」


 その呟きは、潮風に吹かれて(むな)しく消えていった。


          ・・・・・・・・・


 ・・・改造イージス艦、外法教団の有する戦艦アイギースの艦内。


 現在、艦内は勝利の空気に()いしれている。


「敵戦艦、撤退(てったい)していきます‼」


「ふんっ、所詮は烏合の衆か・・・」


 艦長は敵戦艦が撤退していく様を見て、薄く嗤う。しかし、その笑みは直後凍り付いた。


 敵戦艦、シードラゴンから小型の高速船が接近してきたからだ。その高速船は、徐々に速度を増して急速接近してくる。恐らく、特攻(とっこう)目的だろう。


 あまりに馬鹿げた話だ。敵は、死を恐れずに特攻を仕掛けてきたのだ。


 一瞬、その場の全員が愕然と目を見開いて言葉を失った。しかし、そんな暇など欠片も無い。


「敵高速船、急速接近‼特攻してきますっ!!!」


「くっ、撃ち落とせ‼撃ち落とせーーーっ!!!」


「無理です、間に合いませんっ‼うわああああああああっ!!!」


 どおおおおおんっ!!!!!!戦艦アイギースが、炎上(えんじょう)する。燃え盛る戦艦の中に乗り込み、二丁斧を片手に一人暴れる大男が居た。大岩のガンクツだ。


 その暴れまわる様は、まさに(おに)のような姿だった。鬼のように、暴れまわっているのだ。


 ・・・そのまま、戦艦アイギースは暴れまわるガンクツと共に(しず)んでいった。

ガンクツううううううううううううっっ!!!!!!

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