閑話、心の闇の中
リーナ達が未開の大陸へ向かう、丁度直前の事。その時、無銘は・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
じゃらり・・・。鎖が擦れる音が響く。
無銘は鎖に繋がれながら、思考の海に呑まれていた。頭の中には、リーナの事が浮かんでいる。果たして彼女は今どうしているだろうか?泣いているだろうか?
思えば、未開の大陸に来る時も泣かせてしまった。リーナの事を泣かせてばかりだった。その事実が無銘の胸をちくちくと突き刺してくる。その事実が、とても痛い。胸を深く突き刺す。
―――ああ、何でこうも僕の人生はままならないのか。
そう、激しく後悔する。しかし、今となってはもう遅い。全てはもう遅すぎる。無銘の心は既に完全なまでに折れてしまっていた。もう、どうしょうもない。
彼女を泣かせたくなかった。悲しませたくなかった。笑って欲しかった。それなのに・・・
何時もそうだ。後悔する時は、既にもう遅すぎた。遅すぎたのだ。
そんな時・・・
『お前は本当に甘いな。本当は人の事なんか、欠片も信じちゃいないくせに・・・』
「・・・・・・・・・・・・」
気付いたら、目の前には自分が立っていた。自分は、薄く嗤っている。その自分の幻影を見て、無銘は心の中で納得した。ああ、この幻影はきっと僕の心の闇なのだと。
ついに、心の闇が幻影として自分の前に現れたのだと・・・
『本当は、自分の事もリーナの事だって信じちゃいないんだろう?只、信じたいだけなんだ』
「そんな事は・・・ない・・・・・・」
無銘はそれを否定する。否定しないといけない気がした。それを肯定すれば、自分の中で何か大切な物が壊れてしまう気がしたから。だから、必死に否定した。
しかし、それを幻影は許さない。薄く嗤いながら、幻影は話しを続ける。
『本当は、お前も解っている筈だろう?世間は、お前が思っているよりも淡白だ。お前の事なんか本当は誰も気にしてはくれない。誰も、お前如き眼中にも無いのさ』
「うる・・・さい・・・・・・」
必死に、無銘はそれを否定する。しかし、幻影はそれを決して許さない。決定的な言葉を吐く。
無銘が、今までずっと心の奥底で目を逸らしてきた事実を。
『誰も、お前の事なんか気にも留めてはくれない。当然だろう?お前が誰にも心を開かないのに、何で誰かがお前に心を開いてくれるんだよ・・・・・・』
「ああ・・・あああああああ・・・・・・っ」
そうだ。その通りだ。何故、自分が誰にも心を開かないのに、誰かが自分に心を開いてくれる?何故自分自身が誰の事も信じないのに、誰かが自分の事を信じてくれる?
そんな事、都合の良い自分勝手な解釈だろう?
最初から解っていた。解っていて、ずっと目を逸らして来た事だ・・・
だから・・・
「あああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!」
それを突き付けられて、無銘は意図も容易く崩壊した。ついに、無銘は壊れた。




