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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
外法教団編
107/168

5、出陣

 人大陸、星の(みさき)・・・海が一望できる場所で。


 其処に、約三十万にもなる混成連合軍が居た。人間の他、幻獣種が、巨人が、魔族が居た。中には神霊種の姿まで確認出来る。これ程の混成連合、恐らくは史上初だろう。


 此処に集められたのは、皆歴戦の猛者(もさ)達だ。冒険者から志願した者にしても、恐らくは最低でも銀ランクの猛者を中心にしている。それは、なるべく死者を減らす為の措置だ。


 皆、来たるべき戦いに()をぎらつかせている。戦意は充分のようだ。


 当然だ。これはランクにして白金(プラチナ)ランクに相当する。皆、やる気も出るだろう。


 冒険者とは、皆冒険に夢を見る者の集まりなのだ。白金ランクの依頼など、気合も入る。


 そんな中、ビビアン=アルトは非常に緊張した面持ちで連合軍を見ていた。そんな彼女にそっと近付く者が一人だけ居る。クルト=ネロ=オーフィス王子だ。


 クルト王子は何時もより真面目な表情でビビアン騎士団長に近付く。そんな王子の姿に、ビビアン騎士団長は若干たじろいだ。思わず、少しだけ後退る。


「えっと、あの殿下(でんか)?」


「緊張するか?」


「えっと・・・あの・・・・・・」


「緊張するんだな?」


 王子の言葉は、有無を言わせぬ迫力がある。ビビアン騎士団長は、僅かに俯いて頷く。


 そして、少しだけそんな自分を()じた。こんな事で、緊張している自分を恥ずかしいと思った。


 こんな程度で緊張するなど、(なさ)けないと恥じた。


「・・・・・・はい。私、緊張しています」


「そうか・・・」


 そう言うと、クルト王子はそっと騎士団長を抱き締めた。いきなりの事に、ビビアン騎士団長は思わず目を大きく見開いて王子を見詰める。王子は何も言わず、只強く彼女を抱き締める。


 その力強さに、ビビアン騎士団長は頬を赤らめる。そして、慌てて引き離そうとした。


 しかし引き離せない。王子の方が力が強いからだ。その力強さに、また騎士団長は頬を染める。どころか王子は更に腕に力を籠めて抱き締める。その力強さに、騎士団長はあうあうと奇声を発する。


「あ、あの・・・殿下?あの、その・・・・・・」


「大丈夫だ。お前は強い、きっと上手(うま)くやれる」


「・・・・・・・・・・・・」


 王子の力強さを感じながら、ビビアン騎士団長はクルト王子の瞳を見た。その瞳の奥に、ビビアン騎士団長は王子の何処までも真っ直ぐな(おも)いを見た気がした。その想いの深さに、彼女はドキリとした。


 王子の声は、何処までも(やさ)しい。優しく、真っ直ぐだ。


「何の為に、お前は今まで訓練を積んできた?王国を(まも)る為じゃなかったのか?」


「はい・・・・・・」


「なら、大丈夫だ。お前は皆を守れる。だから安心しろ。守るんだろ?皆を、国を」


「はいっ」


 ビビアン騎士団長の緊張は、何時の間にか消えていた。不思議と、胸の奥が昂揚(こうよう)する。暖かい。


 それを感じながら、ビビアン騎士団長はクルト王子に笑みを向ける。


「それに・・・」


「?」


 クルト王子は、そっと騎士団長の唇を指先で()でた。その動作に思わず胸の奥が弾む。その優しい笑みに何故か胸の奥が昂揚する。心臓が(はず)む。


 クルト王子は柔らかい笑みを浮かべて言った。


「俺はそんなビビアンだったからこそ、お前の事を好きになったんだ」


「っ!!?」


「愛してる。お前の事を、ずっと愛していた」


 突然の告白(こくはく)。ビビアン騎士団長は思わず顔を真っ赤に染める。頭が一気に混乱する。


 クルト王子は、軽く息を吐くと苦笑を浮かべた。


「すまない。今は忘れてくれ・・・」


 そう言って、クルト王子はその場を去っていった。後に残されたビビアン騎士団長は、頬を赤らめたまま静かにぼそりと呟いた。熱っぽい視線で、王子の去った方向を見詰めながら。


「ずっと、好きだったのは私の方ですよ。殿下・・・・・・」


 そう、静かに(つぶや)いた。


          ・・・・・・・・・


 その直後・・・


 そして、皆の前に神王デウスが立った。その傍には、リーナ=レイニーが居る。


 リーナは緊張した様子で、それでも毅然とした雰囲気で立っていた。恐らく、もう既に覚悟は決めたのだろうと思われる。その想いの(たけ)を、深さを知るには充分な表情(かお)だ。


 必ず、絶対に無銘を救って見せる。その意思の強さを感じさせる。絶対に、自らの手で救うと。


 その覚悟を瞳に宿していた。


 神王は全員を見渡すと、そのまま全員に伝わる声量で叫ぶ。


「皆、聞け!!!これは戦争(せんそう)だっ。俺達と敵との潰し合いだっ。だからこそ、今此処で言おう!!!」


 再び、神王は全員を見回してから叫ぶ。大音声で。


 その目をあらん限りに大きく見開き、声の限りに叫ぶ。


「全員、生きて帰って来いっ!!!!!!」


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!!!!』


 その雄叫びに、神王は満足して頷いた。そして、作戦の内容を(つた)える。


「まず、作戦の内容はこうだ。第一陣と第二陣に部隊(ぶたい)を分ける。第一陣が正面から敵とぶつかっている間に第二陣が別ルートから敵の本拠地を叩く。それがこの作戦の概要になる。理解したか?」


 即ち、敵が第一陣に気を取られている間に別ルートから第二陣が敵を背後から叩く。奇襲作戦だ。


 この奇襲(きしゅう)によって、敵に大打撃を与えるのだ。


 恐らく、この作戦は敵との化かし合いとなるだろう。どちらが上手く相手の意表を突いたかにより作戦の是非は決まるのだろう。故に、今回の作戦は巧妙な心理戦(しんりせん)となる。


 故に、作戦の鍵となるのは情報の操作能力だ。情報の隠蔽(いんぺい)と誤情報を上手く与える能力が今回の作戦の鍵となるだろう。だからこそ、この作戦は最後まで隠匿(いんとく)されてしかるべき情報だ。


 ・・・その作戦の真の概要は。真の作戦の鍵となるのは、リーナ=レイニーだ。


 そして、この作戦の真の要となるリーナ=レイニーが全員の前に出る。


 その表情は緊張しているが、それでも覚悟の籠もった瞳でしっかり前を見ている。


 既に、覚悟は決めてある。決意は既に決めた。なら、後はそれを果たすだけだ。


 リーナは、皆に自身の想いを真っ直ぐ伝える。正直に、誠実に。


「皆様、どうか私に力を貸して下さい。私のわがままですが、それでもこの作戦に命を賭けます」


 だから、と。リーナは一呼吸置いてしっかりと告げた。その瞳に、確かな意志を宿して。


「救いたいと思った。命を賭けて助けたいと思った。だから、その為にどうか力を貸して()しい」


 ―――この私に、力を()して下さい!!!


 大切な人を救いたいと、そう叫んだ。命を賭けるとそう言った。


 そう、心の奥から叫んだ。その叫びに、全員が雄叫びを持って(こた)えた。


 さあ、出撃だ。


          ・・・・・・・・・


 未開の大陸、その奥深くにある世界樹エルトネリコ・・・世界樹の神殿(しんでん)


 その奥深くの玉座に、彼は居た。終末王ハクアだ。彼の目前には、スクリーンに(うつ)された映像が。


 彼は、目の前に映し出された映像を見て静かに(わら)っている。その光景は、未開の大陸の外法教団に攻め込もうと集結した混成連合の映像だ。音声までばっちり聞こえている。


 そう、未開の大陸を二つのルートから襲撃する作戦は既にバレているのだ。恐らく、情報をリークしている間者の存在が居るだろう。故に、その滑稽さにハクアは嗤った。


 ハクアの隣に、何時の間にか悪魔Ωが現れた。部屋に映し出された映像を見て、Ωも嗤う。


「滑稽だな。作戦を隠蔽したつもりが、既にバレているとはよもや思うまい」


「そうだ。所詮、全て僕の手中にある。もう、僕の野望はほぼ成就(じょうじゅ)したも同然だ」


 そう言って、ハクアは不吉な笑みを浮かべて言った。


「さあ、来い。底なしの地獄へと誘ってやろう」


 そう言って、終末王と純血の悪魔は嗤った。玉座(ぎょくざ)の間に、不気味な嘲笑が響き渡った。

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