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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
外法教団編
106/168

4、連合

 同時刻、王都(おうと)オーフィス・・・


 商業街を、二人の人物が歩いていた。その内一人は、ボロ布を頭から目深に被った不審な人物。もう一人は王宮騎士団団長こと、ビビアン=アルトだった。実に、(あや)しい組み合わせだ。


 先程から周囲の視線が突き刺さっている。ビビアン騎士団長は居心地(いごこち)が悪そうだ。


「あの、その格好は逆に不審だと思うのですが?」


「気にしない気にしない。別に、俺は気にならないからさ」


「はぁ・・・・・・」


 言って、快活に笑うボロ布の男。ビビアンは深い溜息を吐いた。何を隠そう、このボロ布の男こそ王国の次期国王である王子(おうじ)。クルト=ネロ=オーフィスその人である。


 この格好も、王城の外で目立たないよう偽装(ぎそう)する手段なのだ。まあ、結局は目立っているが。それは言わずもがなだろう。世の中、深く突っ込まない方が良い事もある。或いは、突っ込んだら負けだ。


 そんな王子に付き添う事になったビビアンも、大概苦労性なのだろう。ご苦労な事だ。


「それに・・・」


「はい?・・・っ‼」


 クルト王子は、其処でにやりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。その笑みは、何処か獲物を前にした狩人のような鋭さがあった。その笑みに、ビビアンは思わずドキリとする。心臓が早鐘(はやがね)を打つ。


 クルト王子は、ビビアン騎士団長を真っ直ぐ見据えて言った。


「俺は、そんなビビアンの事が割と()きだぜ?」


「っ、え・・・はいっ⁉」


 ドキリ、心臓が脈打った。鼓動(こどう)が速くなる。


 思わず、ビビアンは困惑の声を上げる。しかし、直後には何時ものクルト王子の顔に戻っていた。


 悪戯好きな、クルト王子の表情(かお)だ。


「見えてきたぞ。冒険者ギルドだ」


「あ・・・は、はいっ!!!」


 ビビアンも、慌ててその後を追う。そのまま、二人はギルドの中に入っていった。


          ・・・・・・・・・


 ギルドに入った瞬間、不躾(ぶしつけ)な視線が二人に突き刺さる。主に、その視線は二種類の物だ。


 一つはもちろん怪しいボロ布の人物に対する不審。もう一つはビビアン騎士団長に対する興味だ。


 その不躾な視線と殺伐(さつばつ)とした空気に、クルト王子は懐かしさを感じる。


「いやー、久し振りだな。この空気は・・・」


「あの、私とても居心地が悪いのですが?」


「気にしない気にしない♪」


 クルト王子は悪戯っぽい笑みで笑いながらギルドの中を進んでゆく。その先に受付があった。受付嬢は近付いてくる不審人物に戸惑いの視線を投げかけた。しかし、それをクルト王子は気にしない。


 やがて、王子は受付嬢の前まで来る。戸惑う受付嬢に、クルト王子はギルドカードを差し出す。


 そのカードの色は、白金(はっきん)。プラチナランクだ。


「こういう者だけど?」


「は、はい・・・。っ!!?」


 ギルドの受付嬢は、ギルドカードを見て目を見開いた。そのカードは白金に輝いている。そのランクの人物はこの世にたった一人しか居ない。その意味を理解して、受付嬢は顔面を蒼白にした。


 受付嬢の空気が変わった事を理解し、周囲の冒険者は不審に見る。しかし、受付嬢はそんな事などお構いなしにそのギルドカードを見てわなわなと震える声で(さけ)んだ。


「プ、白金(プラチナ)ランク・・・。クルト=ネロ=オーフィス殿下!!?」


 ざわっ・・・


 その悲鳴に、冒険者達の目の色が一斉に変わった。その目はありえない存在を見る目だ。だが、そんな周囲の空気など王子には全く関係ない。クルト王子は悪戯っぽい笑みを浮かべながら話し掛ける。


「ガーランドギルド長に話がある。面会(めんかい)は可能か?」


「は、はいいっ!!!今すぐに申請してきますううっ!!!」


 そう言って、受付嬢は走り去っていった。その場に残されるクルト王子。クルト王子に視線が集中してひそひそと話し声が聞こえてくる。明らかに、この場に合わない人物が居るせいだ。


 そのクルト王子に、不躾に近付く男が一人居た。その大男の存在に、ビビアンはそっと構える。しかしクルト王子は相変わらず笑みを浮かべたまま。その大男はクルト王子を睨み付け問い掛ける。


「よう、王子様がギルドに一体何の用事だ?」


「そう言う君は、一体誰かな?」


 クルト王子は、一切動じる事無く問い返す。ビビアン騎士団長は構えを解かない。何かあった時の為にと懐に隠した剣の柄を握り締める。しかし、杞憂(きゆう)だ。


 問われた大男はにやりと豪快(ごうかい)な笑みを浮かべて、名乗りを上げた。


「俺の名か?俺はシリウス=エルピス兄貴の一番弟子、大岩のガンクツだ!!!」


「は?シリウス=エルピス?」


 一瞬、呆ける。周囲の視線も、残念な物を見る目をする。


 その名乗りに、思わず声を上げたのはビビアン騎士団長だ。ガンクツはその反応をどう見たか、満足そうな笑みを浮かべて頷く。ビビアン騎士団長は更にぽかんと呆ける。


 しかし、対照的にクルト王子は実に面白そうな笑みを浮かべた。悪戯的な笑みとも言う。


「そうかそうか、シリウスの弟子(でし)か。なら丁度良い、これからギルド長と話がある。お前も来い」


「何だって?」


 ガンクツは怪訝な表情を浮かべるが、王子はお構いなしだ。丁度良いタイミングで来たギルド長と共にクルト王子はビビアンとガーランドを引き連れて奥に入っていった。


 その場に残される冒険者達。そのほとんどが、ぽかんっと大口を開けて呆けていた。


 まあ、さもありなんだろう。


          ・・・・・・・・・


 やがて、ガーランドを含めた四人はギルドの別室に入った。面会用の客室だ。ガーランドはクルト王子に対し僅かに溜息を吐くと、真っ直ぐ問い掛けた。


「して、悪戯好きの殿下(でんか)がギルドに一体どんな用事でしょうか?」


「うわー、面倒臭そうな反応だなあ・・・」


 明らかに、皮肉(ひにく)を込めた問い掛けだった。面倒臭そうでもある。


 クルト王子は快活に笑いながら、早速ギルド長をいじり倒す。そんな相変わらずのクルト王子。ギルド長と騎士団長は揃って溜息を吐いた。この二人は、(そろ)って苦労性らしい。


 まあ、それはともかくとしてだ。クルト王子は表情を引き締めて、咳払いした。その態度の急な変化に他の三人は呆れた表情をする。主に、ギルド長のガーランドがする。


「で、用事がなければ帰ってくれませんか?クルト殿下?」


「そう言わないでくれ。今回は重要な話があるんだ」


 面倒臭そうにしながらも、それでも雰囲気が変わった事を察してガーランドは居住まいを正す。


「その話とは?」


「ギルドに白金ランクの依頼(いらい)を持って来た。過去最大級の大仕事だ」


 その言葉に、ガーランドは目を大きく見開いた。対し、ガンクツは好戦的に目を光らせる。どうやら興味を引かれたらしい。クルト王子の方を凝視(ぎょうし)する。王子はそれを無視する。


 ガーランドは、呼吸を整えて問う。


「その依頼とは?」


未開(みかい)の大陸へ、シリウス=エルピスの救出作戦だ」


 シリウス=エルピスの救出作戦・・・そう聞いた直後、すぐに反応があった。


 ガタンッと、ガンクツが勢いよく立ち上がる。その瞳は、大きく見開かれている。恐らく、今のガンクツの頭の中は混乱(こんらん)が渦巻いているのだろう。その視線は定まっていない。


 その姿に、ビビアンとガーランドが驚いた。


「その話、(くわ)しく聞かせて貰いましょうか?」


 ガーランドが先を促した。ガンクツが何とか席に座る。それを見て、クルト王子は話しを続ける。


「先日、一通の封筒が届いた。その封筒の中に、ある魔術道具が入っていた。どうやら、その封筒は各国の国王に同時に届けられたらしい・・・」


「その、魔術道具とは?」


 ガーランドが、恐る恐る聞いてきた。ガンクツも、緊張した面持ちで聞く姿勢を見せる。


 クルト王子は、一瞬間を持たせて答えた。


「カードに記憶した景色を映し出して投射(とうしゃ)するという物らしい。その魔術道具には鎖に繋がれ、囚われたシリウスの姿が映しだされていたよ」


「馬鹿な‼兄貴が敗北(はいぼく)したってえのかっ!!!」


 今度こそ、ガンクツは音を立てて勢いよく立ち上がった。そのままクルト王子を睨み付ける。


 しかし、当の王子は冷静な表情で話を続けた。


「相手は、外法教団を名乗る組織(そしき)だ。シリウス=エルピスが敗北したことから解る通り、奴等の戦力は世界を相手にするに相応しい物だろう」


 その言葉に、ガーランドとガンクツは息を呑む。シリウス=エルピスが敗れた。その事実だけで相手の脅威が理解出来た。敵の脅威を理解した。特に、近くでその強さを目の当たりにした者には。


 クルト王子は、一度深い溜息を吐く。そして、そのままガーランドを真っ直ぐ見詰めて言った。


「危険と判断したなら、依頼を断ってくれても構わない。しかし、これは世界を(すく)う為の依頼だ」


「と、言うと?」


 ガーランドの問いに、クルト王子は言った。


「敵は、外法教団の目的は。世界を滅ぼして再創造する事だ」


「っ!!?」


 ガーランドが絶句(ぜっく)した。あまりに馬鹿げた話に、絶句したのだ。


 しかし、クルト王子は冷静に続ける。


「馬鹿げた話に思えるかもしれないが、事実だ。そして、敵はそれだけの戦力を有している。何せ彼の邪神ヤミを復活させて服従させたくらいだ。その力の総力は()して知るべしだろう」


「なっ・・・・・・」


 ガーランドとガンクツが、絶句する。


 邪神ヤミ。その名は、この世界に住まう誰もが一度は聞いた名だ。だからこそ、その脅威は想像し理解するに難くないだろう。それ程の途方もない脅威だ。


 絶句する二人に、クルト王子は話しを締めるように言った。


「この作戦は数が必要になる。だから、どうか冒険者にも助力(じょりょく)を願いたいんだ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 王子の言葉に、ガーランドは黙り込む。それは、余りにもリスクが高い話だ。果たして、受けても良いものだろうか判断に悩む。下手をしなくても、これは大規模な戦争(せんそう)に発展するだろう。


 果たして、それを容認しても良いのだろうか?そんな時・・・


「俺は、その依頼受けるぜ!!!」


 ガンクツが立ち上がり、そう力強く宣言(せんげん)した。その宣言に、ガーランドが目を剝く。


「ガンクツ、お前(ぎん)ランクだろうが‼無茶をすると死ぬぞ!!!」


「なあに、俺は死なねえぜ。兄貴を(たす)け出すまではな・・・」


 そう言って、ガンクツが豪快に笑った。その笑みは、意味のない自信に満ちている。何故、そんなに自分が信じられるのか理解に苦しむが。ガーランドは深く溜息を吐いた。


「ああ、解ったよ。この依頼はギルドが正式(せいしき)な依頼として引き受ける」


 そうして、ギルドが正式な依頼として引き受けた事で、世界的な大連合が誕生した。


 ・・・全ての準備(じゅんび)が整った。

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