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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
外法教団編
103/168

1、最悪の報せ

 その日、リーナは朝早くから外に出ていた。理由は(いや)な胸騒ぎだ。


 朝から嫌な予感(よかん)がする。何か、途轍もなく胸騒ぎがしてならない。


 何だか、胸の奥がざわつくのだ。理由もなくそわそわするのだ。何故だかは解らない。只、とにかく外に出ないといけない気がしたのである。理由など、本当に何もない。何もないから、余計に気になる。


 居ても立っても居られなかったリーナは、そのまま外に飛び出した。


 という訳で、リーナは外を歩いていた。神国の街を歩き、そのまま岬に出る。其処に、何故だか何かある気がしたのだ。其処に行かなければならない気がした。只、それだけの事だ。


 リーナはこの感覚を知っていた。巫女(みこ)の勘だ。強い巫女の才能を持つリーナは、その才能故に直感力に優れているのだ。巫女の勘は、只の勘とは訳が違う。


 巫女は、古くから占術を得意とした。更に、神々と交信し託宣(たくせん)を告げる事もした。


 それ故、巫女はその力の一端として直観力に優れている。云わば、霊的感応能力。


 リーナ=レイニーは、その巫女の資質に優れている。その力が、神大陸の環境によって更に増したのだろうと思われる。故に、この嫌な予感も何か理由がある筈だ。


 岬に着いたリーナは、其処に何か黒い物体が横たわっているのが見えた。その黒い物体は、僅かに上下に動いているのが解る。恐らく、生物(せいぶつ)だろう。


 其処に、事実それはあった。いや、居た。其処には、黒い飛竜のククルーが傷付き倒れていた。


 その姿に、リーナは思わず悲鳴を上げそうになった。慌てて、ククルーの(もと)に駆け寄る。


「ククルー?ククルーっ‼しっかりして‼」


「ぐる・・・る・・・・・・っ」


 力の無い、弱い声。それ程に弱っているのだろう。(そば)に居た若い飛竜はおろおろしている。


 ククルーは何かを必死に訴えるようにリーナを見詰め、そして力尽きたように目を閉じる。死んだ訳では無いだろうが、しかしリーナは胸が引き裂かれるような不安(ふあん)に駆られた。一体何が?


 そう思った直後、リーナの頭に無銘(むめい)の姿が過った。もしや、彼の身に何かが?


 ぞわっと、リーナの中に嫌な予感が怒涛のように押し寄せる。不安が胸を引き裂きに掛かる。


 リーナは巫女の資質を持つ。故に、この嫌な予感も決して馬鹿には出来ない。彼女の予感は、高確率で当たるのである。それをリーナ自身理解しているからこそ、余計に不安になる。


「そんな・・・。もしかして、ムメイの身に何かが・・・・・・?」


 リーナの言葉は、岬の風に(むな)しく流されて消えた。


          ・・・・・・・・・


 数時間後・・・


 リーナは現在、神王の神殿(しんでん)に居た。傍には、神王デウスの他に主要な神々が居た。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 リーナはずっと、黙り込んでいる。その表情には、(あせ)りの色が濃い。


 ククルーは傷の手当の為、早急に運ばれていった。傷は思ったより深かった。よく此処まで持った物だと神国の人達は感心していた。しかし、リーナの不安は晴れない。むしろ、(つの)るばかりだ。


「・・・・・・ムメイ」


 ぽつりと、声が漏れる。その声は、(ふる)えていてとても頼りない。


 もし、無銘の身に何かあったら。そればかりがリーナの頭の中を過る。その姿を、神王デウスはとても痛ましそうな瞳で見る。そんな時、更に凶報(きょうほう)は続く。


 突如、部屋の扉が勢いよく開いた。其処には、下級の神が慌てた様子で居た。何事かと、神々が下級神に視線を投げかける。息せき切らした下級神は何とか息を整えると言った。


「神王陛下、終末王からこんな物が!!!」


「っ、何!!?」


 終末王。その単語に神王を含めた神々が反応(はんのう)する。リーナ=レイニーも、ピクリと反応した。


 その男の手には、一通の封筒(ふうとう)があった。封筒には終末王の名が記されている。


 そして、その封筒の端には奴等の(かか)げていた旗印が。


 神王はそれを奪い取るようにひったくる。そのまま中を見ると、一枚の水晶のカードが。恐らく何らかの魔術道具か何かだろう。神王は舌打ちをする。そのまま、神王は水晶のカードに神力を籠めた。


 直後、その水晶のカードが輝きだした。その光の強さは、思わずその場の神々が呻く程だ。リーナもその光の強さに思わず目を腕で(かば)う。次の瞬間、その光は弱くなり代わりに一つの映像が映った。


 その光景に、リーナや神王を含めてその場の神々が絶句した。その映像には、無銘が映っていた。


 ただし、その映像の中の無銘は鎖に繋がれて至る所に拷問(ごうもん)による傷があった。その瞳は虚ろで、何も映さず暗闇が広がっていた。その姿は、とても痛々しかった。思わず、リーナの顔が引き攣る程に。


 衣服もびりびりに引き裂かれて、見るも無残な姿を呈している。痛々しくて、あまりに(むご)い。


 その傍には神父が一人、そしてシスターが一人居た。神父が酷い罵声を浴びせ、無銘に暴力を浴びせているのが理解出来る。理解出来るからこそ、あまりにも酷かった。


「っ、ムメイ!!!」


 リーナが悲鳴を上げる。やがて、神父が一振りの剣を取り出して無銘を斬り付ける。血が噴き出す。


 悲鳴は上がらない。もう、悲鳴を上げる余力もないのか。そう思うと痛ましくて見ていられない。


 傷口を焼かれる。激痛が奔っている筈なのに、悲鳴が上がらない。その無反応が、余計にリーナの不安を強く掻き立てる。胸が痛い、ざわつく。


 その姿に、流石の神王ですら眉をしかめている。他の神々は皆、絶句していた。誰もがこの光景に何も言う事が出来ないでいる。それ程に、ショッキングな光景だった。あまりにも、惨い。


 シスターが、此方を見て言った。


『神王に告げる。もし、この少年の命が惜しければ未開の大陸まで助けに来い。我々外法教団は、この時この瞬間を持ち全世界に宣戦布告をする!!!』


 直後、鮮血(せんけつ)が舞う。神父が、無銘を袈裟懸けに斬り付けたのだ。その瞬間水晶のカードが砕けた。


 映像が、消える。


「っ、ムメイ⁉ムメイっ!!!」


 リーナが慌てて駆け寄ろうとするが、それを上級神の一柱が止める。


 砕けた水晶の欠片が、床に落ちる。それを神王はぐしゃっと踏み潰した。その顔には憤怒が。神王は今途轍もない怒りを見せている。その怒りは、(いと)し子を傷付けられた神の怒り。


 神王は今、激怒しているのだ。憤激(ふんげき)に駆られているのだ。


「なるほど、戦争か。ならば是非(ぜひ)も無い」


 戦争の始まりだ。そう、神王の名の下に宣言(せんげん)された。


          ・・・・・・・・・


 同時刻、各国の王の許に水晶カードは届けられていた。終末王は、世界に宣戦布告をしたのだ。


 ある国の王は一笑に()し、まともに取り合わなかった。またある国の王は、来たる戦争の時に備えてその準備を備えていった。またある国の王は、真偽の程を確認すべく情報収集にあたった。


 そして、オーフィスの国王は・・・


「・・・・・・・・・・・・ぬうっ」


 忌々(いまいま)しげな唸り声を上げながら、国王イリオ=ネロ=オーフィスは水晶カードを握り潰した。水晶の破片が足元に散らばる。その欠片を、イリオは忌々しげに踏み潰した。


 その様子を、傍で見ていた王子クルトは普段見せない心配そうな顔で国王を(のぞ)き見る。


「父様、大丈夫でしょうか?」


「状況は非常に(まず)い。しかし、もはや奴の挑発に乗るしかあるまい・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 そう、オーフィスにとってこの挑発に乗るしか無い。それ程に、無銘という少年の存在は大きい。


 国王にとって無銘は、シリウス=エルピスという少年は一貴族の子息というだけでは無いのだ。


 ・・・しかし、一国の国王が果たしてたった一人の少年の為に軍を動かして良い物だろうか?その判断は恐らく国民全体の反感を買う事になりかねないだろう。それは非常に拙い。


 この世界では、いかに戦争を回避(かいひ)するかに思考を裂いてきた。軍を保有しているのも、パワーバランスを取る事により戦争を回避する為だ。故に、真に軍を動員するような事態には至らなかった。


 しかし、今回は訳が違う。戦争の引き金を引く外敵が出現したのだ。これは看過(かんか)出来ない。


 (さい)は投げられた。もう、後には戻れないだろう。


「・・・・・・エルピス伯爵にも話しておく必要があるだろうな」


 あの家族想いの伯爵にこの話をするのは、正直気が引けるのだが。やむを得まい。


 イリオは深く深く溜息を吐く。面倒(めんどう)な事になった、そう思った。

賽は投げられた。世界は戦争へと進んでゆく。

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