if、もし、戦いを放棄して逃げたら
時を遡り、巨人テューポーンと会った直後の事・・・僕は、森の中を駆け回っていた。
———お主ではあの男には絶対に勝てん。絶対にだ。
その言葉が、僕の頭の中をぐるぐると廻る。あの後、僕は言い返す事が出来ずに逃げ出した。逃げ出した自分自身がなさけなくて、涙が出てくる。しかし、それでも言い返す事が出来なかった。
逃げ出した僕を、巨人は決して追わなかった。むしろ、その背中を憐憫の籠もった目で見ていた。
それが、とても悔しい。悔しいけど、何も出来なかった。
ああ、僕は何てヘタレなんだろうか。そう、自分を罵倒したくなる。罵倒したくなるが、それでも逃げる足を止める事が出来ないでいる。何て、無様なんだ。僕は、きゅっと唇を噛み締める。
噛み締めた唇から、血がにじみ出る。鉄臭い味が、口の中を広がる。
「くそっ、何て無様な!!!」
思わず、僕は愚痴る。しかし、それでも引き返す事も出来ない。僕の心は折れてしまっていた。
完全に折れてしまっていた。もう、再起など出来ないだろう。
無様だった。何処までも無様だった。なさけなくなってくる。そんな自分が、どうしょうもなくなさけなくて嫌になる。自分で自分を殴ってやりたい。
「何で、こんな事に・・・・・・」
言葉に嗚咽が混じる。自分自身、それが理解出来てなさけなくなってくる。
解らない。自分自身でも解らない。どうして、あそこで僕は言い返す事が出来なかったのだろう。
ああ、もう本当にどうしょうもなく糞ったれな気分だ。死にたくなってくる。
———もう、いっそ全てから逃げ出そうかな。
そう、考えた瞬間・・・ふと頭の中を何か言葉が聞こえてきた。
『こんな結末、俺は認めない・・・』
「っ!!?」
『時よ、巻き戻り回帰せよ・・・』
瞬間、世界が巻き戻る。僕が、意識を保てたのは、其処までだった。
・・・・・・・・・
何処でもない、宇宙の真の外側で。その者は深い溜息を吐いた。その者は、少年の姿をしていた。
「ああ、また失敗したな。結局、またやり直しか」
「これで一体何度目ですか?」
「そろそろ十万回に到達しそうな勢いだ」
あらまあ、と女性が僅かに驚いた。その瞳には、僅かな感心と呆れ、そして驚きが混ざっている。
その世界に、生命体と呼べる者はこの二人しか居ない。この二人しか、現状存在出来ないのだ。
何故、この二人しか存在出来ないのか。それは、この世界に存在可能なのは真に総ての宇宙を超越した者だけだからだ。故に、この二人は真実超越者と呼べるだろう。
まあ、それはさておき・・・
女性は呆れたように溜息を吐く。深い深いその溜息は、その女性の心労が目に見えるようだ。
「よく、其処まで繰り返せますね。私だったらもう諦めていますよ?」
「まあ、それくらい俺はこの計画に執着しているのさ」
少年はそう言うと、僅かに肩を竦めた。その言葉に、女性は再び溜息を吐く。
その熱意を、もっと他の事に生かせないものだろうか?そう、思わなくもない。
「全く、本当にやれやれですね・・・・・・」
そう言い、女性は繰り返される世界を眺める。延々と繰り返される、一人の少年の物語を。
繰り返される世界。繰り返す物語。




