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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
未開の大陸編
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番外、終末王の起源

 昔、ある所に至って普通(ふつう)の家庭があった・・・


 取り立てて説明するところの無い、普通の家庭。少年は、その過程で生まれた普通の人間だ。故に少年はその家庭で普通に過ごし、普通に恋をし、普通にその人生を終える筈だった。


 何処にでも居る、普通の人間として。その(せい)を終える筈だった。


 しかし、その少年は一つだけ人とは違う事があった。その少年は、超能力者だったのだ。少年には生まれ付き未来を()る能力があった。いわゆる未来視という奴だ。未来を視る目を持っていた。


 それも、限定的な未来視ではない。無限の可能性を内包した幾通りもの分岐した未来を見通す、正真正銘の超越者だったのである。少年には、人類が辿る全ての可能性(セカイ)を見通す事が出来た。


 人類の辿りうる、可能性の全てを見通す()を持っていた。それが、少年の力だった。


 故に、少年は理解していた。人類に本当の意味で未来は無いという事を。未来(さき)が無いという事を。


 そう、人類に未来など無いのだ。人類が辿る未来は、全ての世界において破滅で確定している。


 だからこそ少年は思った。人類を救う方法は無いのか?本当に、人類はただ滅びるしかないのか?


 少年には妹が居た。母が居た。父が居た。友人が居た。恋人が居た。愛する人達が居た。


 妹は少年によく(なつ)いた。母は少年と妹を愛してくれた。父は少年の理想だった。


 友人とはよく遊んだ。恋人とは何時もデートを重ねていた。


 愛する家族と、親しい友人と、共に寄り添うべき恋人。少年は、人に囲まれていた。家族はそんな少年の事を愛してくれた。友人とは、馬鹿な話しで盛り上がった。恋人は、何時も少年を想ってくれた。


 だからこそ、少年は認められなかった。そんな未来は断じて認められなかったのだ。人類の未来がそんな下らない結末を迎えるなど、少年は許せない。だから、少年は決めた。世界を救う事を・・・


 これは、少年が世界を救う為に自ら悪に()ちる話。その起源となる話である。


 さあ、一つの世界が滅びる話を語ろう・・・


          ・・・・・・・・・


 少年の名は、御上(みかみ)ハクア。未来視の能力を持つ、超能力者だ。未来視を持つ以外、至って普通の人間であるという事を自身は自認(じにん)している。普通の人生、普通の人間。


 普通に家族に囲まれ、普通に恋をし、普通に死ぬ。そんな普通の人間の筈だ。しかし、彼と出会いそれは脆くも崩れ去った。ハクアの人生は、一柱(ヒトリ)の悪魔との出会いで大きく変わった。


 ある日、御上ハクアの前に彼は現れた。唐突の出来事だった。突然、何の前触れもなく現れた。


「お前、なかなか面白(おもしろ)いな」


「いきなり何ですか?貴方は?」


 彼との出会いは、そんな言葉から始まった。その悪魔は、にやにやと意地の悪い笑みで言う。


 悪魔は、ハクアの瞳をじっと見詰めていた。その笑みに、たじろぐ。周囲に人は居ない。


 不自然なまでに、周囲に人が居なかった。


「お前、未来が視えているだろう?それも、人類の辿る結末(けつまつ)の全てが」


「っ⁉何故、それを?」


「解るさ。俺は云わば人間じゃあ無い。悪魔だからな、それくらい見れば解る」


「悪魔・・・?」


 警戒心を強めるハクアに、その悪魔は更に口の端を歪める。その笑みは、何処までも悪意的だ。その笑みにハクアは背筋が寒くなる想いがする。それは、純粋な恐怖だ。


 ———理解の出来ないモノを前にした時の、根源的な恐怖だ。


 そんなハクアに、悪魔はその手を無理矢理取った。ハクアは振り払おうとするが、力が強くて振り払う事が出来ないでいる。悪魔はにやりと嗤い、何かを呟く。それは、呪文だった。


 悪魔は冒涜的(ぼうとくてき)な呪文を唱える。冒涜的な、呪詛の言葉だった。


 瞬間、ハクアの頭に何かの景色が流れ込んできた。ハクアの意識が、世界の境界を越える。


 其れは、とある惑星(ほし)の光景だった。地球ではない、知らない惑星だ。


 その惑星が拡大されていき、七つの大陸が視えてくる。そして、やがてその大陸の一つに視点は集中してその大陸の地下深くに(もぐ)ってゆく。其処に、その存在は居た。


 その存在は、鎖に繋がれた・・・


 漆黒のドラゴン。ハクアにはそう視えた。只のドラゴンではない。とても邪悪な何かだ。


 それを視た瞬間、ハクアの心の中に何かが強く脈打った。ハクアの中で、何かが目覚めかける。


 思わず、胸を強く(つか)む。


「あれ・・・は・・・・・・?」


「邪神、ヤミ。神々はそう呼んでいる。厳密には、宇宙総ての悪徳(あく)の集合体だ」


「宇宙総ての悪徳の集合体?」


 そうだ、と悪魔は言った。その顔は、相変わらず嗤っている。邪悪な、笑みだ。


 とても邪な笑みを浮かべている。悪魔は嘲笑する。


「この世の悪徳全てを宿した()の精神生命。それがあのドラゴンの正体だ」


「負の精神生命・・・・・・」


 負の精神生命であるヤミは、人間の負の感情に引かれる性質を持っている。有り体に言えば、人間の悪意に引かれる性質を持つ。それが、邪神ヤミという存在だ。


 そして、何故かこの後悪魔が言おうとしている事をハクアは察する事が出来た。


「お前は思った筈だ。人類の破滅が確約されている理不尽、それが(ゆる)せないと」


「・・・・・・・・・・・・」


「なら、お前はそんな世界の(ほう)など全て破壊してしまえ。世界を滅ぼす悪となり、新たに世界を創造しその世界で新たな理想郷を造れ。理想を求めるなら、全ての悪を背負う者になれ」


 悪魔の言う事は、はっきり言って滅茶苦茶だった。しかし、何故かそれがハクアの心を打った。


 世界が理不尽だと思った。理不尽に滅びる事に、怒りを感じた。滅びて欲しくないと思った。


 理想を謳うなら、全ての悪を背負う覚悟を。確かにそうかも知れない。そう、感じた。


「悪魔・・・」


「おう」


 ハクアの言葉に、悪魔は即答する。そんな悪魔に、一つだけ問う。


「お前は、俺に何を望む?俺を唆して、お前は俺に何を期待(きたい)している?」


「何も?」


 悪魔は再び即答した。その答えは、もはや疑う余地の無い程に簡潔な即答だった。


「俺はお前に何も期待しない。只、お前はお前の成すがままにすれば良い。俺は、その近くでお前の成す事を愉しむそれだけだ。故に、俺はお前に何も押し付けない」


 そう言い、悪魔は嗤う。嗤って、その手を離した。瞬間、景色は元に戻った。


 ハクアには家族が居た。妹が居た。母が居た。父が居た。ハクアの事をとても愛してくれた。


 ハクアには友人が居た。とても親しい、馬鹿な話で盛り上がれる友人だった。


 ハクアには恋人が居た。何時もハクアの事を想ってくれる、とても良い彼女だった。


 ハクアは思う。そんな彼等の居る世界が、どの道滅びるしかないなら。それしか道が無いなら、果たして自分はそれを許容出来るのだろうか?滅びを黙って受け入れられると?


 答えは否だ。断じて否だ。そんな事、とても許容出来ない。


 故に、ハクアは決意した。俺は、自分は全ての悪徳を背負う巨悪(きょあく)となると。


 意思を固めて、ハクアは名乗る。


「俺の名はハクア。お前の名は?」


「俺は悪魔Ω。神々はそう呼んでいる。お前も、俺を好きに呼ぶが良いさ」


「そうか。なら、お前はこれからディーだ。daemonのディーだ」


 こうして、この日最悪の巨悪(あく)が生まれた。


          ・・・・・・・・・


 その後、炎に包まれる世界で・・・


 終末王ことハクアは泣いていた。世界を滅ぼし、世界を炎で包みながら泣いていた。


 ああ、何と自分は罪深い。そう、自覚しながら泣いていたのだ。ハクアは殺した。世界中の人々を殺して殺して殺して、そうして殺し尽くした。その中には、ハクアの愛した者達も居た。


 家族を殺した。友人を殺した。恋人を殺した。皆殺した。これでもう、引き返す事は出来ない。


 もう、引き返す道など無い。その道を、ハクアは自ら()ったのだ。


 最後の、愛する人達の顔を思い浮かべる。皆、絶望に顔を(ゆが)めていた。


 泣いて、泣いて、泣きじゃくって。そして、やがて、ハクアはそれに目覚めた。


 悪徳(あくとく)の固有宇宙。人類総ての悪徳を司る宇宙。それを手にしたハクアは、静かに嗤った。


「さあ、世界の終わりを始めよう」

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