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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ボクと彼女の初めてな事

作者: 黒猫ジョン

 ボクの名前は崎本歩(さきもとあゆみ)、生物学的にも視覚的にも完全に女性だけど、これでも元男だ。

 別に完璧な性転換手術をしただとかそんなのではなく、ある病気で性別がまるっきり変わってしまっただけ。


「この体も流石に一年も経つと慣れるもんだなぁ」


 高熱とともに性別が変わってしまうこの病気、正式な病名は忘れてしまったけど、たしかTS病と呼ばれていたと思う。

 ボクがこのTS病になってからもう一年も経った。


「にしても、ボクのこの目の何がダメなんだ?」


 今のボクは高校一年生な訳だけど、中学校に入学する少し前、親に頼まれ犬の散歩をしているときになぜかうちの犬が突然走りだし、ボクはそれに引っ張られて赤信号に飛び出してしまい車に轢かれた。

 犬は当然衝撃で死んでしまったし、ボクもかなり危ない状態になった上にその時の硝子の破片で左目だけではあるけど完全に失明した。

 それで左目には眼帯をしているし、事故の後遺症なのか同じ種類の車を見るとかで事故の事を思い出す度に頭痛と吐き気、手が震えるようになった。

 まあ手の震えとかは、あれと同じ車種がかなり少なくなったこともあって、最近そんなに無いから特に大したものじゃないけど、問題はこの左目だ。


「この怪我さえ無かったらな……」


 これのせいで中二病とか色々言われていじめられていたし、元々がはっきり言って根暗な方で、周りがこれだから友達だっていなかった。

 そんなボクにも、今は彼女がいる。

 なんなら現在進行系でデート中だ。


「デート中にそういう重たい話は無しです!」

「あ、ごめんね加奈(かな)ちゃん」


 ボクの横にいる長い黒髪の女の子が、ボクの彼女の笹野加奈(ささのかな)

 ボクより二歳年下で、高校はうちの高校に入学するらしい。


「それに、私は今の歩さんが好きなので気にしなくていいんですよ?」

「でも、もう付き合いはじめてから三ヶ月になるのにいまだに信じられないんだよね。こう、家族以外の誰かから好かれるとか実感出来たこと無いし」


 て言うかまだ三ヶ月しか経ってないのか。

 そう考えるとなんか不思議だよなあ、この関係。

 ボク達が付き合ったのが一ヶ月前ってことは、ボクはもうTS病になったあとだから、あのときにはもうボクはこうなってたってこと。

 つまり、見た目上は完全に女の子同士の恋愛、なんだよね。


「あ、そうだ。ずっと聞きたかったんだけど、加奈ちゃんってボクのどこが好きになったの?」


 付き合って三ヶ月も過ぎてるのに未だに聞いたことが無かったことだ。


「んー、そうですね。なんと言うか、まあ、ほとんど一目惚れみたいなものですよ。私、歩さんと会うまでは同性の事を好きになるなんて想像もしてなかったんですけど、登校中にあなたの目を見たときにこの人ならって思ったんです」

「ボクの目?」

「はい。実は中学校でも何回か告白される事はあったんですが、その人達皆が私の中身なんて見てないような目をしてました。でもあなたの目は人の奥底の気持ちを見てるような気がしたんです」

「ボクはただ人の事を疑ってるだけだよ?」


 皆から除け者にされてきたボクは、人の事を信じれなくなった。

 だから、人と話すときはもしクラスメートでも疑いながら会話する。

 ただそれだけだ。


「でも私の気持ちは信じてくれたじゃないですか?」

「流石に、あれだけ気持ちを伝えられたら疑い続けるなんて出来ないよ」


 加奈ちゃんが最初にボクに告白してきたのは、加奈ちゃんと付き合う一ヶ月前だった。

 同じ中学校で部活も同じだったから顔も名前も知ってたけど、いまいち馴染めずにいたこの頃のボクは、今以上に人を疑ってたしそもそもほとんど部活に行ってなかったから、話したことも無かった。

 

 でもその告白以来、一週間に一回くらいのペースでアタックしてくる彼女と少しずつ話すようになって、加奈ちゃんの事を知っていった。

 彼女の言葉にも目にも、嘘とか気遣いみたいな感情は一つもなくて、ボクが見たことないくらいに真剣で真っ直ぐな人だった。


「自分でも驚くくらいに信じちゃったんだもんなあ。加奈ちゃんの事」

「ふふ、信じてもらっちゃいました」


 付き合ってすぐの時は加奈ちゃんに対して、好きなんて感情はボクには無かったと思ってる。

 事故のトラウマもあるし人間不信なボクの面倒さを知ったらすぐ離れるだろうと思って、彼女の気の済むまで相手をしようくらいの気持ちだった。

 けど、彼女は時間が過ぎるほどボクに興味を持っていくし、ボクもボクで少しずつ彼女の事を気にするようになった。


「あ、そろそろお腹空く時間ですよね?どこかで食べましょうか」

「そうだね、どこにしよ……うか……っ!」


 あー、このタイミングで通るかな、あの車。

 加奈ちゃんと知り合ってから一度も見たこと無かったのに。

 しかも久々だからかかなり酷いっぽい。


「うえっ……。はあ、はあ」

「あ、あれ、歩さん?……どうしました!?」

「あー……ごめん。ほら……ちょっと前に、話した、事故の発作……」

「えっと、ど、どこか休める所は!」

「……だ、大丈夫、だから」

「強がらなくていいです!あっちの公園まで行きますからちょっとだけ耐えてくださいね……」

「あ……う、ん……」


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 加奈ちゃんに公園に連れていってもらい、公園のベンチで休ませてもらうことにした。

 吐き気は少ししたら収まったけど、まだ頭痛と手の震えはそのままだ。

 昼食は、食べに行ける状態じゃないからと、加奈ちゃんがすぐ近くのコンビニで食べやすそうなのを買ってきてくれた。


「ふぅ……ありがとう加奈ちゃん」


 ちょっとだけ無理して立とうとしたけど加奈ちゃんに手を握って止められた。


「駄目ですよ歩さん、まだ完璧じゃないって知ってるんですからね」

「あ、あの……手」

「手?……ああ」


 まさか初めて手を握られるのがこんな時なんて。

 付き合ってるんだから手ぐらい繋ぐのは当たり前なんだろうけど、手を繋ぐだけでもボクには恥ずかしくて、加奈ちゃんに言われても断ってきた。

 もちろんキスだってまだした事もない。


「そう言えば初めてですかね、歩さんと手を繋ぐのって。歩さんの手って、思ってたより小さいですね」

「あ、あうう」

「しかもすべすべです」

「うう……」

「あの……歩さん?」

「ほわ!?」

「えっ」


 えっと、なに、これ。

 加奈ちゃんの手、凄く柔らかいし、暖かい。

 て言うかそれよりも恥ずかしすぎて死んじゃいそう。


「ちょっと、加奈ちゃん?手、離し……!」

「やです。こんなレアなことをそんなにすぐ手放せません」


 加奈ちゃんの手の力、強くない?

 こっちも結構本気で離させようとしてるのに全然動かないんだけど!


「それに歩さんもこの方が落ち着いてるみたいですしね」

「え?」

「さっきまで、見るからに顔色悪かったですから」


 言われてみれば、確かにちょっとマシになったかもしれない。

 何でだろう、やっぱり安心……してるのかな。


「でも……」

「でも?」

「恥ずかしいから終わり!」

「あ、ちょっと、何で払っちゃうんですか!」

「だから恥ずかしいんだってば……!」


 あ、そろそろ時間だ!


「ほら加奈ちゃん、映画一緒に見るって言ってたでしょ?そろそろ時間だから行こう!」

「…………」

「あれ、加奈ちゃん?」


 加奈ちゃんの方を見ると、ボクと繋いだ方の手をちょっと寂しそうな顔で、じっと見つめていた。


「あー、加奈ちゃん、行くよ」

「あっ!」


 ボクは、加奈ちゃんの手を握って映画館へと向かう。

 その時の加奈ちゃんは、少し驚いたみたいだけど嬉しそうな顔をしていた。


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 映画も見終わり、空も暗くなり始めて、帰るのにいい時間になった。

 ちなみに見た映画は、TS病になった人の話を題材にした実話で、世界的に注目されてる恋愛映画だ。

 映画なんて、何年も前に親と見たきり行ったことがなかったけど、かなり面白かった。


「時間も丁度良いですし、そろそろ帰りましょうか」

「そうだね……ちょっとだけ寂しいけど」

「今日はやけに素直ですね?歩さん」

「そんな気分な日もあるんだよ」

「寂しいなら手でも繋ぎましょうか、なんて」

「……ん」

「あれ、半分冗談で言ったんですけどいいんですね」


 たまにはこっちから求めたっていいだろう。

 思えば、今日はボクにとって初めてな事がいっぱいあった。


「そう言えば歩さん、知ってますか?」

「へ?」


 初めて、加奈ちゃんにボクの発作を見られた。


「どうもキスの味というのは甘いらしいですよ」

「確かに漫画とか本ではそんな風に聞くけど、急にどうしたのさ?」


 初めて、加奈ちゃんと手を繋いだ。


「まあ、私の家に着くまでの暇潰しみたいなものです」

「にしてもそんな広がらなさそうな話題はどうなの?」


 初めて加奈ちゃんと映画を見た。


「あ、そうだ。歩さん少しの間目を閉じててもらえますか?」

「え、別にいいけど、なんで?」

「まあまあ、とにかくお願いします」

「……なんか怖いんだけど、これでいい?」


 言われるがままに目を閉じてみた。


「……?」


 あれ、なんか凄く近くに気配を感じる。

 て言うか、近づいて来てるよねこれ。


「えっと、加奈ちゃ……んむ!…………え?」

「ふー、なるほど確かに甘いような気もしなくもないですね」

「あ、味なんて分かるわけないてば、もう……」


 もうひとつ、今日初めてな事ができた。


「……ボク、キスされたんだよね?」

「まあ、そうなりますね」

「するならするって言ってよ」

「言ったらやってくれました?」

「絶対やらなかった」

「ですよね」


 初めて、ボクは彼女とキスをした。

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