表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

5.

 その夜、夕食のあと自室のベッドに仰向(あおむ)けになり、天井を見つめて考えていた。

 同級生の咲希(さき)のことを……そして公園で出会った駈原(かけはら)巧見(たくみ)と名乗る男のことを、だ。

 駈原(かけはら)は「他人の肩に『何か』が見えても、関わり合いになるな」と言った。

 怪現象の本質は、その人が抱えてしまった『人としての』悩みや問題だ、霊視能力があったところで解決できるわけじゃない、とも。

(じゃあ、咲希を見殺しにしろっていうの?)

 そんなのは納得できない。

 私の同級生が死ぬかもしれないっていうのに、何もせず、何も言わず、ただ傍観者として成り行きを見守るしかないなんて……

「偽善だ」

 私はベッドの上で(つぶや)いた。

 今までだって一年に一度くらいずつあの黒いモヤモヤ……駈原(かけはら)が言うところの『シニツキ虫』に()かれた人たちを見てきた。

 その今にも死にそうな人たちに、今まで何かをしてあげた事があっただろうか? 忠告の一つも言ってあげたか?

 見て見ぬ振りをして、その場を去っただけだ。

 突然、小学校時代の思い出が映像となって現れた。取り憑かれていると知っていながら結局何も出来ないまま死んでしまったあの幼い少女の顔が浮かんだ。

 ハッとして起き上がった。

「いまだに……こんなにハッキリと顔を思い出せるなんて……もう七年も前のことなのに」

 髪をかき上げ、重い()(いき)()く。

 目を閉じたら、再びあの少女の姿が(まぶた)の裏に現れるような気がした。

 このままボーッとしていたら、彼女のことばかり思い出してしまうような気がした。

 ふと、机の上の携帯電話(アイフォン)が目に入った。

 ゲームでも何でも良い、今の自分を忘れさせてくれるものが欲しかった。

 アイフォンを手に取りアプリを起動しようとして……駈原(かけはら)にもらった名刺のことを思い出した。

 通学用の(かばん)を開けて名刺を取り出した。

 何度見てもチャラチャラしたデザインだ。作った男の性格が良く出てる。

 ベッドに腰かけ、片手にアイフォン、片手に名刺を持ち、アプリを立ち上げ、アドレスを入力した。

 駈原(かけはら)のチャンネル・ページを開いて……思わず笑ってしまった……あまりの駄目(ダメ)さ加減に。

 現時点でアップロードされている動画は六本。

 なるほど、まだ始めたばかりの駆け出し(ニュービー)のようだ。

 再生回数五十というのも嘘じゃなかった。

 一本あたりの再生回数じゃない。六本あわせて五十回という意味だった。

 今日あの公園で撮った動画は、まだアップされていなかった。

 適当に選んで再生してみた。

 オリジナル曲だか何だか分からない気の抜けたBGMが流れる中、駈原(かけはら)が延々とリフティングをするだけの動画だった。

 トリックを決めるでもなく、ただ淡々とリフティングを続ける。それだけの動画だ。

 しかも何故(なぜ)か全て『引きの絵』だった。

 広く写した背景の真ん中に小さくポツンと映った駈原(かけはら)が延々リフティングを続ける……ダメを通り越してシュールな感覚さえ芽生える。

「せっかくの超絶美形男なんだから、もっと顔のアップを撮れば良いのに……その方が絶対に人気が出るって」

 ……なんてことを思わず(つぶや)いていた。チャラ男の動画なんて別にどうでもいい(はず)なのに、何だか(じれ)ったくなって注文の一つも付けたくなる。

 くだらない動画を見続けている間、私は無意識に咲希のことを考えていた。

 ……助けられるものなら、今度こそ何とかして助けたい……

 気がついたら、動画のコメント欄に文字を入力していた。

『友達が大きな黒い虫に首を刺されました。とても痛そうです。どうしたら良いのでしょうか……夕暮れ公園の女子高生より』

 送信ボタンを押す。

 第三者が見ても何のことだかさっぱり分からないだろう。

 しかし、彼には通じる(はず)だ。

 一時間後、私のコメントに返信コメントが付いていた。

『明日もう一度動画を撮りに行きます』

 ……つまりこれは、明日あの公園にもう一度来いという暗号か……

 気が付いたら、手が白くなるほど強くアイフォンを握りしめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ