第1話「新しい街」
出すのがすごく遅くなってしまいましたが決してサボっていた訳ではありません!普通に忙しかったり設定練りの楽しさに目覚めていたりでなんか色々忙しかったんです!!でもマイペースなりに頑張って書きますので是非とも応援お願いします!
この話は私が昔手に入れた古文書に長々と書かれていたある英雄の話だ。
この長ったらしい話を私が直にするのは……
……きっと君が最初で最後であろうな……
何せ随分と長い書物だったものでな。
解読……翻訳するのに半生を捧げた挙句…それもまさか死ぬ間際に伝える事になるとは……夢にも思わなかったものだ。
と…まぁそんな事はどうでもいい。
今は少しでも時間が惜しい。
特に質問がなければ始めるが……もっとも話す前に質問されても困るがね。
……よろしい…それでは少しずつ話していくとしよう……。
これは遠い遠い昔の…さらにもっともっと遠い…別の世界のお話だ。
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天窓から差す朝日がまだまだ立派な男とは言えないような幼く頼りない顔立ちをなぞる様に照らし、ゆっくりと青年を目覚めへと誘う(いざなう)。
「うーん……」
浮上していくように徐々に覚醒していく意識とは裏腹に青年の睡眠への欲求が高まる。
この間の抜けた顔の青年こそがこの物語における主人公であり、この世界の英雄となる人物である。
「……ん……はっ!今何時っ!?」
顔に似合わない熊のような大きな図体をすばやく起こし、床に落ちている立方型の小さな機械を無造作に手繰り寄せ、寝ぼけ眼に近ずける。
機械には四角い枠が2つならんでおり、ひとつには明、もうひとつには3と書いてある。
「明け3つ!?ヤバい!寝過ごした!」
即座にベッドから飛び起き青年がドタドタと騒がしく支度を始める。
青年が支度をしている間に簡単にこの世界の時間の概念を説明しよう。
日が出ている間が明け、日が沈んでいる間が宵で10単位周期で明けと宵を繰り返すという時間の概念が広く使われている。ちなみに明け3つは私たちの世界の時間の概念でいうとだいたい午前9時頃だ。
この世界には太陽と同じ役割を果たす恒星はあるものの、月という概念も役割を果たすための惑星もないため、日が落ちれば人々は誰に教わったわけでもなく、その日の活動を止め、各々家に帰ったり仲間と酒を呑んで労を労いあったりする。
やがて大きな革製のボストンバッグを片手に薄いインナーの上に被った茶色い革製のジャケットと、膝を隠すくらいの長さで、少しゆとりのある茶色の短パンという至って簡素な服装で家を飛び出す。
「くそっ!くそっ!」
青年は戦場を駆ける勇猛な馬のように風を唸らせながら丘を駆け下りていく。
彼の名はアフス。
アフス=ブンディッシュ。
代々銀行屋を営む家の長男である。
銀行屋とは私たちの世界で言うような「銀行」とほぼ同じ物であるが……
なるためには人一、二倍もしくはそれ以上の財産はもちろん、やりくり上手でなければならないし、信頼関係もなければならない……
なるために必要なことを上げればキリがないため、ここではあえて「いわゆる相当な名家というものでなければなれない。」という表現をさせてもらおう。
銀行屋は主に投資やお金の貸し借りなどを行っているため、村や街では政治的に重要な立ち位置にある。
そのため銀行屋の家系に生まれたのならばその時点で将来の安泰が約束されるのだが……
なんとか入ることのできた中位高等学校を卒業するとすぐさま、王都管轄の街の中で最も遠い街でひとり暮らしをすることになってしまった。
それというのも上位高等学校に余裕で入学してしまうような出来のいい弟を当主に立てるためであろう。
弟は兄である自分から見ても人当たりもよく勉強もできる自慢の弟であるから、そんな弟が当主になるのであれば今代の家は安泰間違いなし……ひょっとするとさらに盛りあがるのかもしれない。
それを実の弟が成すのだからアフスとしても非常に喜ばしいことだ。
頭の出来はもちろん、様々な女性を魅了して止まない絶世の容姿を持つ弟を嫉妬する愚かしい気持ちも当然あるし、当主の座は絶望的な立場である次男の弟を当主に立てなければならないほど、絶望的に出来の悪い長男で心底申し訳ない、と思う気持ちもある。
そうして最低限の荷物だけを持たされ、長旅をするには不向きな大変粗末な馬車にガタガタと揺られること約2週間。
ようやくこの街にたどり着いたのが昨夜のことである。
自暴自棄にこそならなかったものの、親愛なる両親に捨てられた彼の心情は如何程だろうか?
来た時は夜であったため日が差すとこんな風景なのか、と思う暇もなく青年は丘を駆け下り、石畳の道を一心不乱に駆け抜けていく。
時折チラッと視界の端に白いレンガで出来た壁に赤瓦の屋根という統一性のある色彩の家々が映り込む。
青年の故郷とは全く違う建築様式のため、青年にとってその景色は至極新鮮なものであった。
その風情はなんとなくフィレンツェの街並みを想起させるものがある。
そんな美しい街道にはとても似つかわしくない熊のような図体がまるで急ぎの馬車のように駆け抜けていく。
アフスは視界に現れては消えていく人々には目もくれず走り続ける。
やがて街の外れの一際異質な存在感を放つ建物の前でようやく足を止めた。
…見たことの無い建物であった。
りっぱな木造建築……といえばアフスの故郷のような、長年の風雨で変色した黒い木の板が敷かれた三角屋根がトレードマークで全体的に暗いイメージの……まさしくりっぱな建築をイメージするのだが…
なんというか建築に関してはてんで素人なのだが……物凄く異質で、その雰囲気は初めて見た人をも幻想的と思わせるような不思議な魅力がある。
先述した通り木造なのだが黒い石?も使っている。
外の玄関とでも言うような場所に門のように、ツヤツヤとした黒い根元の大きな赤い柱が2本、さらにその上に複雑な組木で組まれた物がまるで自分が門番だとでも言いたげに建っている。
……押したら倒れそうだが…大丈夫なのだろうか?
この複雑怪奇な門?から本当の入口?に続く白い砂利道……
本当の入口?がある建物にはそんなか細い木で耐えられるのだろうか?と心配になるような木組みの柱の上に、とても乗り切らないような重厚感のある…三角屋根とも平屋根とも似つかないような全く別の屋根がずっしりと乗っている。
頭が混乱して目の前にある現実を理解できなかった。
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しばらく呆然と立ち尽くしていたものの我にかえり、タダでさえ遅れているのにもっと遅れてしまう!
…と意を決し砂利道の不安定な足場を走る!
やはりスムーズにはいかなかった。
あろう事かドアノブがないのだ!
押すことは出来ても引くことはもはや出来ない!
というかそもそも押しても引いても開くような扉ではない気がする!
アフスは覚悟を決めたとばかりに眉をしかめると力強くドアを叩いた!
「すいませーん!!開け方がわかりませーん!!」ドンドンドン
「誰かいらっしゃいませんかー!」ドンドンドン
「すいませーn…」ドンドンドン
「うるさい…」
謝罪とも呼びかけとも取れる言葉を、言い終える間もなく空を裂く轟音と共にアフスの巨体が空高く打ち上げられる。
まるでアフスとその周囲だけがまるで見知らぬ世界に迷い込んだような気持ちであったアフスにとって好意的な邂逅ではなかったものの、「同じ言葉を話す人がいた」という事実が、恐怖とも絶望とも言える感情1色に染まっていたアフスの心を優しく包みこんだ。
「…今日は私の就任日だというのに……」
揺れる赤い髪を乱れないように片手で抑えながらスカートがめくれ上がらないように気を配る…いかにも不機嫌そうな表情の赤い髪の少女が呟いた。
少女が言い終えると同時に宙を舞っていたアフスが砂利道に着弾する。
頭の出来が悪い代わりと言わんばかりに人より十倍、いやそれ以上に頑丈に出来ているアフスは、鼻血を拭いながらもすぐさま立ち上がり土煙が収まるより早く、砂煙を散らして少女の下に駆け寄る。
急所に当たった訳では無いとはいえ、それでも人も人以外もたくさん沈めてきた自分の渾身の蹴りを受けてバッグを手離さないどころかほぼ無傷と言って差し支えない様子の青年を見て、一瞬目を見開いものの、青年が既に次の言葉を待っていると見るや、すぐさま元の不機嫌そうな表情に戻る。
「残念だけれど今日は休みです…」
「ええと今日来るようにと言われていたのですが……」
「…もしかしてブンディッシュさん……?」
「あっそうです。」
少女は落ち着きを取り戻したのか先程までの顔の険しさが無くなり、一切の表情が読み取れないような冷たい表情になる。
少女というにはいささか無愛想な表情で「そう…」とだけ呟くと、踵を返して建物の中に戻って行った。
その背中がいかにもついてこいと言っているような気がしてアフスも続いた。
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「あら?お客さん?」「い、いらっしゃいませ!」
あまり見かけない…というか今まで1度も見たことが無いものの、どこか懐かしいような不思議な服装をした金髪碧眼の女性が2人、それぞれ人柄をよく表す反応をした。
「ソフィア、ルナ、この人は今日からここで働くブンディッシュさんよ」
「アフスといいます!王都出身で、つい最近高等学校を卒業したばかりですが、是非ともよろしくお願いします!」
…さりげなく中位であることも誤魔化したが自然だったはずだ
「アフくん…でいいかしら?私はソフィア、よろしくね」
最後にバチーンと音がなりそうなウィンクをした。
まるでお手本のような洗練された「美しいウィンク」だった。
…色々な意味で
「あたしはルナといいます!上位高等学校2学年生…ですが!仕事に関しては2ヶ月程先輩なので分からないことがあればぜひ聞いてくださいね!」
ソフィアさんを真似してなのか最後にウィンクをしてみせた。
…が慣れていないようで閉じている方のまぶたが苦しそうにプルプルと震えている。
はぁ…上位かぁ…
頭の悪いことを痛いほど自覚している故か、中位と言わなくてよかったと安堵してしまう。
「…私はマナ。よろしくアフス…くん。」
少しの間をあけてウィンクをしてみせる。
いや、正確に言えば、「したにちがいない」。
一瞬であったが完全に両目をつぶっていた。
マナさんはそっぽを向き平静を装っているようであったが、その頬は少し赤らんでいた。
ルナは下を向いていて、顔を隠す長い髪のせいでよく見えないが痙攣する片目を抑えているに違いないことは想像に難くなかった。
ソフィアさんはそんなふたりの様子を見ながら、手で軽く口を隠し「うふふ」と上品に笑っている。
俺はそんな3人を尻目に室内を見回す。
木製のカウンター…壁のあちこちに設置された光る石…
別の部屋に続く道に何やら異国の字が書かれた垂れ下がった布……
…今更ではあるのだがここは一体何をする所なのだろうか?
受付がある以上は何かの許可を得て何かをする所なのだろう。
…まぁ珍しいものでは無い。
一括りに「ユニオン」と呼ばれる開拓院や研究院、職業組合なんかではこのような『依頼を受ける→達成できそうな誰かが受ける→達成する→報酬を受け取る』…といったシステムが一般的だ。
この無駄にだだっ広く、その上とても手に負えないような危険に溢れた世界に居場所や理解し合える仲間を求める……というのは人間の性なのかもしれない。
ここもきっと無数にあるこの街のユニオンの中のひとつに違いない。
マナさんの「今日が私の就任日」という発言に説明がつけられる。
恐らく組合長か何かに就任するのだろう。
「…違うわ」
俺が勝手に解釈をしてうんうんと頷いているといつの間にか復活したマナさんが俺の考えを読みとったかのように否定した。
「ここは異世界人の知恵と街の人のご厚意によって建てられた『オンセンリョカン』よ」
第1話「新しい街」~完~
いやー自分でもこれからネタを考えるのが楽しみでございます!
これからどーなるんだろうね!
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