2-18 制作と家探し
ブクマ、評価、感想ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。
「うーん、何作ろうかな」
買ってきたサンドイッチを頬張りながら案出し継続です。あ、これおいしい。
「……作らないという選択肢は?」
「ない、かなぁ」
「……そう」
こう、たまに無性に炭酸ジュース飲みたい!とかジャンクな食べもの食べたい!とかなるときあるじゃないですか。一度そうなったらその欲をある程度満たすまでなかなか解消されないアレ。今の気分はまさにあんな感じなのです。まぁ、オークション出品用の物品制作である必要はないのは確かなのですが……。
「なんかこう、実用性とかは置いといて、刺さる人には刺さる系のやつがいいかな」
「……趣味性の高いもの?」
「んー、そんな感じ」
今にして思うと、四色鉄の鍬はちょうどいい塩梅でしたね。なんでそれでこれ作ったのっていう、やりすぎ感というか、必要のないコストをかけて地味に性能のいい物ができたときの、やってやったぜ感?してやったり感、ですかね。ちゃんと需要があったのもまたよし。
なんかああいうの良いですよね。誰に同意を求めてるのかわからないですけど。
「……いわゆる『浪漫』を感じるもの、とか?」
「あー、いいねそういうのも」
大の大人ぐらい大きくて装飾のない武骨な大剣とか、逆に豪奢な鞘に納められた細剣とか、いいかもしれませんね。私に華々しい装飾作る技術を求められても不安しかないので、この二択でやるなら前者になるのですが。
ただ、なんかそういう気分でもないんですよねぇ。食べたいハンバーガーはこの店のじゃない、ぐらいの外し方。つまるところ致命的と言えます。
「……和洋中から選ぶと?」
「気分的には和……かなぁ」
とはいえ、刀はもう出品する予定ですし、単にそれの上位互換を作って出品するのも面白くないのです。味気ない。興が乗らない、みたいな。
「……和服、着物とか?」
「作ってみたくはあるけど今回は無理そう」
「……むぅ」
私の技術的にも、納期的にも。あとたぶん材料も足りないですね。とはいえノノに言った通り、作ってみたくはあるので、今後の目標の一つにしておきましょう。
「……じゃあ、小物」
「小物、かぁ。例えば?」
「……櫛とかかんざしとか、……あとは扇子とか?」
「お、それいいね」
小物、なかなかいいのではないでしょうか。装備のジャンルはアクセサリー、に分類されるでしょうか。……いや、仮面が盾判定だった実例もありましたねそういえば。状況に応じて武具になるアクセサリーもゲーム的にOK、と。ああ、煮詰まってきた気がしますよ。
「……なにか思いついた?」
「うん。まだ詰め切れてはいないけど、ゴールが見え始めた気がする。ありがとう、ノノ」
「……ん。なら良かった」
ごちそうさまを言って食べ終わって空になったお皿を消し、これからはいろいろ試作しながら考えるとしますかね。
「私はこれから試作に入ろうかと思うけど、ノノはどうする?」
「……じゃま?」
「邪魔ってわけじゃないけど……あんまり構えないと思うし」
「……じゃまじゃないならここにいる」
「ん、わかった。あ、二階に行けば本棚があったはずだから、気になるのがあればお好きにどうぞ」
「……らじゃ。読み漁る」
さて、始めるとしますかね。
【side:ノノ】
ミサが作業に取り掛かるというので楽しいおしゃべりの時間はおしまい。残念ではあるけど、邪魔になりたくはないし。
わたしだって、本読んでるときに話しかけられると、少なくともいい気分はしない。友人だろうと、心に決めた想い人だろうと、それは変わらないのだ。仮にどうでもいい相手だったら、暴力的な衝動に身を任せたくなったりもする。面倒だからしないけれど。
ミサもトワもそれがわかっているから、わたしが本を読んでいるときは基本的に話しかけてこない。以前読んだ本の言葉を借りるならば、自分にしてほしいと思うことは他人にもしなければならない、というやつだ。おそらくそういう協定に似た何かが、あるのだ。だからあの二人と一緒にいるのは、とても居心地がいい。この関係を生涯大事にしたい、と常々願っている。
さて、このまま工房スペースで作業するミサを目に焼き付けているのも一興どころか十興ぐらいあるのだけれど、ミサに勧められた二階の本棚というのも気になる。そこから何冊か持ってきてここでミサの作業音を聞きながら読む、これでいこう。
そうと決まれば行動あるのみ。カウンターをまわって工房スペースに入り、いろいろな道具を取り出して準備しているミサを横目にそのまま抜けて階段へ。
踊り場で折り返して二階へ上がると、廊下の両サイドと突き当りに扉があるのが見える。この扉のどれかが本棚のある部屋で、またどれかがミサから聞いた『元住人の幽霊さん』に出会った部屋なのだろう。
聞いた限り、なかなか興味深いシナリオのクエストだった。遠くの森にあるエルフの集落とか、過去に起きた疫病の蔓延とか、なかなかに重要な情報なんじゃないだろうか。仮に重要じゃなかったとしても、こういう考察のためのパズルのピースのような情報は大好物だ。この、世界が少しだけ見えるような感覚が良い。わたしもいつか、そういうイベントに遭遇してみたいものだ。
まずは廊下の突き当りまで歩いて、一番奥の部屋から見ていくことにする。
ドアノブをひねって押すと、中から少しカビたような臭い。そして棚に雑多に詰められた物品が見える。どうやら物置のようだ。棚はあるけど本棚ではなし。埃っぽいところは苦手だし、次の部屋に行こう。しかし埃っぽさやカビたような臭い、再現がすごい。ここがゲームの中であるということを忘れそうになる。あまりうれしくない実感の仕方だ。
廊下に出て左手側の部屋の扉を開ける。奥にもう一枚の扉、右手側には鏡と洗面台。脇の棚はタオルを入れるスペースだろうか。
ここが件の『幽霊さん』と出会った部屋のようだ。鏡を見たら自分の背後にいた、と聞いていたので、鏡に映る自分を確認するのが少し緊張する。当然背後にわたし以外の誰かがいる、などということはなく、一安心。
ホラーは少し苦手なのだ。それでもたまに怖いもの見たさで摂取して、後悔する。我ながらなぜこんな莫迦なことをしでかしたのかとなじりたくなる。ただしB級未満の映画は除く。あの辺はもはや混沌を楽しむものでホラージャンルからは逸脱したなにか別のものだと思っている。閑話休題。
奥の扉を開けると、いわゆるユニットバスだった。奥側にカーテン付きの湯舟とシャワー、手前に便座と洗面台。手前の部屋にも洗面台があったのにと思ったぐらいで、特に変わったところはないように思う。次。
ラスト。おそらく目的のものがあるであろう部屋だ。ないと困る。扉を開けて中をのぞく。あった。よかった。
ベッドと机と本棚。それと箪笥とクローゼット。どう見ても私室で入るのが少し気後れするけれど、わたしの目的の品はそこにあるのだからしょうがない。ごめんください、失礼します。
机の上にも本立てがあり、数冊収まっているのが見えるけれど、まずは本命の本棚から確認。全四段の棚で、下二段は本がみっしりと詰まっている。素晴らしい。上二段には人形が数体飾られている。そういえば『幽霊さん』は人形を作っていたとミサから聞いた。とするとその作品だろうか。もしくは見本として買ってきたものか。精巧に出来ているのであまり目を合わせないようにする。わたしが用があるのは下段のみなので。
「……?読めない」
本を手に取ってみたものの、見知らぬ言語だった。まあ、このゲームのタイトルからして別の星であることを匂わせているし、言語が違うのは当然と言えば当然。
普段ゲーム内でも自分たちは日本語を発しているような気がするけれど、何かうまいこと変換されてNPCと会話ができているのだろう。まずは言語の解明とコミュニケーションの確立から始まるとか、ほとんどの人はやっていけないだろうし。そういうゲームでもないし。
しかし文書は別と。そしてミサが本棚の存在を知っていて一切チェックしていないとも考えにくい。ということは読めないことを知っていてわたしに勧めた。読んで面白かったから、ではなく気になったら読んでみるといい、という勧め方だったから、おそらくミサは読んでいないのだろう。
しかし、わざわざ本の形で知らない言語を用意しておいて、特に意味のない文字の羅列とは考えにくい。【読書】と【解読】なんてスキルまで用意されているのだから。
なるほど、よかろう。その挑戦受けて立とうじゃないか。
試験的に別視点を導入。なかなか難しいですね。でも視点変更は一人称視点の醍醐味の一つだと思っているので、頑張りたいです。




