2-17 羊肉からのお誘い
ブクマ、評価、誤字報告ありがとうございます。
とりなんさんの料理を買い込んだ私たちはそのまま、マトンさんのところへ行くというとりなんさんについて行くことにしました。
向かった先はシティ派エルフ先輩の畑……ではなく以前たまたま会った露店の方。考えてみれば夜時間だと畑作業のイメージはあまりないですね。まあ農作業に明るいわけではないので、あくまで個人的なイメージというだけですが。
「マ・ト・ン・くーん」
「んお?なんだとりなんか。どうした気持ち悪い声出して。しかもなんか大所帯だな」
「気持ち悪いとは失敬なヤツっすね。自慢しに来ただけっすよー」
「よしお前は帰れ営業妨害だ」
「つれないっすねー。ともかく、こいつをご覧あれっすー」
「はぁったく、なんだよいったい……」
マトンさんの肩に腕を回して、ウザ絡みしながらメニュー画面を見せるとりなんさん。思いのほか仲いいんですねこの二人。ただの商売仲間というだけではないのかもしれません。結構長い付き合いなんでしょうか。
「フレンド増えたっすー」
「はいはいおめでとさん……ってこのミサって……!」
「へっへー、一週間かけて口説き落としたっすー」
「妙な言い方はやめてください」
その言い方はさすがにさすがに会話に参加せざるを得ないでしょう。一週間かかったのは私の個人的な理由なので強く出にくいのですが……。まあネタとして扱ってくれるなら良し、なんですかね。
「んで?その下のノノってのは……ミサさんの後ろの人か」
「……はじめまして。ノノ、です」
「おう、マトンだ。よろしくな」
ノノもとりなんさんとフレンドになっていたようです。いつの間に。
「別のフレのーお人形さん?ともフレだーっていうから、じゃあもう実質僕ともフレみたいなもんじゃーんって」
「お人形さん……?あー掲示板でミサさんのオプションとか動くホラー人形とか言われてるの見たなそういや」
あやつ知らないところでそんな風に……壊れかけだろうが奇麗になってようが、見た目西洋人形が歩き回っている時点で十分にホラーなのでホラー人形扱いは至極納得がいくのですが、私のオプション……?
あ、私プレイヤー名表示されてないんでしたっけ。トワを抱えて移動してるときに見られたんだとしたら……はたから見れば、抱えたお人形さんを動かしながら話しかけるちょっと近寄りがたい人ですねはい。うーわ恥ずかしい。
「し・か・も、ミサさんとフレになるとお友達特権があるんすよー」
「お友達特権だぁ……?お前もなんかもらったのか?」
「いやいや、そういう物質的なモノじゃなくてっすねー……お前も?」
「あ、やべっ」
「……ほっほーん?ま、その辺は後でじっくり聞かせてもらうとして……なんと、プレイヤー名がちゃんと表示されるようになったっす」
「あ、それ普通にうらやましい」
「ついでに、ちゃぁんとマップにも表示されるっす」
普通になっただけなんですけどね。他プレイヤーの方々と同じ条件になっただけで特権とは。『普通』の得難さ、有難さを教えてくれるゲームですよ全く。
「ミサさん……」
マトンさんが絡みつく骨をどかしておもむろに立ち上がり、こちらに近づいてきました。
「は、はい」
「俺とフレンドになってください!」
「あっははー、ド直球すぎてまるで告ってるみたいっすねー」
「うるせー、マップ表示に映ってないのに急に話しかけられるの割とこえーんだよ!」
「ごっ、ごめんなさい」
「しかもごめんなさいって、んふっ、フラちゃったっすよマトンくん?あっははははははは」
「あ、そ、そっちじゃなくってですねっ」
「……カオス」
混沌から抜け出すのには少し時間がかかるのでした。
- マトン とフレンドになりました-
「これでよし、と。お、確かに言う通り表示周りが正常になってるな」
「あの、その節は大変ご迷惑を……」
「あー、不慮の事故みたいなもんだろ?実害があったわけでもなし、気にすることはねーんじゃねーの?」
「そう言っていただけると助かります」
これで、私の知り合いとは全員フレンドになれましたかね。あれ、これで全員?うん全員、ですね。NPC除くと。私の知り合い少ないな……。引きこもって作業してるかトワと一緒かソロで狩りに出るかぐらいしかしてなかったですねそういえば。
学校に通っていた時も、友達いっぱいというよりは特に仲のいい数人がいればいいやって感じでしたし……クラスメイトとの人付き合い程度は無難にこなせていたんじゃないかなとは思いますが、積極的に知り合いを増やす努力とかはしていなかったですね。そう考えると、勝手に知り合いができる学校のクラスって結構大事だったんですねぇ……。あれ、大学生活が少し不安になってきたぞ?
「あー、話は変わるんだが、ミサさん」
「はい」
「ちょっとした提案があるんだが」
提案、ですか。なんでしょう。お客さんの紹介とか?
「最近アプデ明けってのもあって新しい素材とか施設とかいろいろ見つかってるだろ?」
「はい。まあすべては把握できてないですけど、自分に関係しそうなところの情報は軽く目を通してます」
街道先の村で食材が見つかったという発見報告以降も、別の村やそこの特産品についての情報が少しずつ出回り始めました。私に関係しそうなところだと、布素材メインの村があって、そこには機織り機と染色場があったとか。おいおい行ってみなければと考えているところです。
「俺も似たようなもんさ。あとは情報屋から一般に情報が落ちてくるまでもタイムラグがあるし、実際にはもっと大量の発見報告があるだろうな」
すぐに広まったら商売あがったりですからね。つくづく思いますが、私には向いてなさそうな商売です。売り物の形がないですし、価格の変動もしっかり見極めないといけないですし。あと簡単に恨まれそう。
「そんで、こういうタイミングってのは情報屋だけじゃなくて俺たち生産屋も稼ぎ時ってわけだ」
「ほかの人が知らない素材で作ったアイテムが高く売れるってことですよね?」
「ま、そういうことだな。そこで、ここらでいっちょオークションでも大々的に開催してみようぜって案が、生産仲間で話してたら出てな」
「オークション、ですか」
あの美術品や骨董品に買いたい値段を言い合って最終的により高値を付けた方がお買い上げーってやつですよね。競り、というと途端に魚市場等で日常的に行われてるイメージになりますが。
「……買う側と売る側の機会創出」
「ん?ああ、なるほど」
買う側はどこで売ってるのかわからない。売る側はだれがどの程度欲しているのかがわからない。だからいっそ一堂に会してしまえ、と。
「つまり私への提案というのは……」
「ああ、お察しの通りだと思うが、そこに何か出品してみないか?」
ふむ、私が売るものの価値を知るのにもいい機会ですかね。いくつか自重度合いを変えて出品してみて、いくらで売れるのか確認してみますか。他プレイヤーの作品も見てみたくもありますし、出品するだけじゃなくて会場に実際に行ってみるのも面白そうです。
「わかりました。参加させてください」
「よっしゃ、いい目玉商品になるだろうし楽しみにしてるぜ」
「また鍬でいいですか?」
「それは後で俺に個人的に売ってくれ。まあわかりやすい装備品がいいんじゃないか」
「わかりました。開催はいつですか?」
「リアルで4日後の4月2日、20時からスタートだ。出品するものはその2時間前ぐらいに届けてくれると助かる。急な話ですまんが、頼めるか?」
「わかりました。大丈夫です」
となると、私が今着ているレザーアーマー系は作らないといけないパーツが多いので、選択肢から除外ですかね。ローブかマントぐらいならいけるかな?刀剣類は練習でいくつか作った在庫から出しても良いかもしれません。アクセサリー作成もそこまで時間がかかるわけじゃないですし……。
さぁて、何を作りましょうかね。
「鍬?」
「……鍬?」
友達と知り合いのラインってどのあたりにあるんですかね。




