2-14 おもいあい
前回、久々に書いたのはいいのですがキャラ名を間違えるという痛恨のミス。いつかやりそうとは思っていましたが、やらかす可能性のある事象はいつか必ずやらかすってやつですね。気をつけねば。
「そ、そうだ。称号の能力はどんな感じなのかにー?」
「……特殊スキル群の解放権、らしい。……アクティブスキル欄にそれらしいのも増えてる」
「おお、私たちよりだいぶわかりやすい内容」
なるほど、私のように常時発動型の効果ばかりかと思いましたがアクティブスキル系の効果を持った称号もあるんですね。スキル群、ということは魔法スキルみたいに習熟度に応じて新スキルが使えるようになる、とかそんな感じでしょうか。
こちとら、ざっくりふんわりとしか内容が書いてないですからね。効果がわかりやすくスキル獲得という形で目に見えるのは正直うらやましいです。
「ちなみにぃ、どんなスキルなん?」
「……そのまま、【おもいあい】」
「ほうほう、効果は?」
「……自分を中心とした半径3mの効果範囲で」
「うんうん」
「……重力設定が3倍になる」
「ほー……えっ?」
愛、重いなぁ……物理的に。
これはもうほぼ悩む余地なく【重い愛】ですね。一考の余地を残したように見せかけて内容で叩き落しに来ました。まあ【日陰者】とか作ったここの運営がそんな甘いわけがないのです。むしろ効果が分かりやすく目に見える分むごいかもしれません。あれ、なんだろうこのノノとの親近感。被害者同盟?これはハルカの【アクター】も期待が……もとい警戒が必要ですね。
「ほ、ほう。範囲型の行動阻害スキル……でいいのかにー?なかなか有用そうじゃの。さっすがは称号の特殊スキルぜよー。いやーこいつぁー次以降の習得スキルにも……き、期待が持てるなぁー」
「まずは声うわずってるのを直そうか」
「……無理にフォローしようとしなくていい」
「ぐぬぅ……ちくせう運営めぃ!もうちょっと夢見させてくれてもいいじゃんかよぅ……」
あ、ハルカも夢レベルだとは思ってたんですね。さすが親友、理解度が深いなぁ。
「ま、まあ名前はともかく、説明を聞いた限りだと強そうなスキルなのは間違いない」
「たしかに。重力操作とかすごそう」
「…………ん。今後に期待できそうなのも同意。……スキル名はともかく」
まさしく名より実、というやつですね。
「そうなってくっとさー、ノノっちの戦闘スタイルも称号を活かしたモノにしたくなるわけじゃん?」
「……そこも同意。使わないのはもったいないし……せっかくだからという気持ちもなくはない」
「あれでも、後衛型にしようと考えてるんじゃなかったっけ、ノノ」
加重効果範囲が自分を中心とした半径3mって言ってましたよね。かなり前に出ないと使えないですよねこれは。
「あり?そうなん?」
「……二人が中近距離戦メインみたいだったから、後衛のほうがバランス取れるかなって」
現状、私がメイン武器が刀、主力スキルが各種属性魔法とそれを強化する【龍の吐息】。生産でよく使う関係で、魔法スキルの習熟度もそれなりに上がって新魔法もいくつか使えるようになってはいるのですが、これまで通り手元の初級魔法にブレス撃ったほうが効率いいんですよねぇ。
【火球】を筆頭に各種ボール系の魔法を覚えたときはまさにファンタジー、と感動したのですが……相手に飛んで行ってしまってブレスを当てられないという始末。まだしばらくはメイン火力は【龍の吐息】に頼ることになりそうです。刀を振るよりブレスのほうが遠くまで届きますが、気合を入れて吹いてもせいぜい4mほど。本職の魔法使いや射手と呼ばれる方々よりも槍や鞭を使う方々の間合いでしょう。
というかそもそも生産型の構成なのですけど。むしろ後衛職なのでは?街の中から支援しますよ?
トワは、攻撃は私作のナイフ、防御は蝙蝠狩りで集めた盾、ですよね。私の知る限りだと。戦闘用のスキルは天狗戦で見せた【ガード】程度しか見たことがないのですが、おそらく近距離戦に寄せた構成になっていることでしょう。あとは石投げてるのぐらいしか見てませんし。
「あー、確かににゃあ。この三人で組むとなるとそうなるかー。まーでも、そんな気にせんでもいいじゃろ」
「……そう?」
「やりたいように遊べばいいじゃろ。ゲームなんじゃし」
「……うん」
『このゲームは遊びでやってんじゃないんだ!』なんて言う方々も世にはいるそうですが、我々は遊びでやってます。楽しさ優先ですよ、当然。あとはかっこよさとか可愛さとかそのあたりが来て、効率等はその次ぐらいですかね。
「そうなると、トワと同じ近接型?」
「ああ言っといてなんじゃが、遠距離攻撃へのバリア代わりや接近する敵へのけん制や時間稼ぎにも使えると思えば、遠距離構成も全然アリなんじゃよにー」
「……なるほど、防御性能は考えてなかった。……鬱陶しそうでなかなか良い」
「お、好感触?んじゃあとりあえずはそっち方向でいってみようぜー」
『鬱陶しそう』が『良い』に繋がるんだなぁ……。たしかに有効そうな戦術ではありますが。
「とりあえず試し撃ちして性能確かめてから考えてもいいんじゃない?」
「おぉう、そりゃ確かにそのとおりだ」
「……じゃあやってみるね」
「今はやめて」
私の家だぞここ。
というわけでやってまいりました割とおなじみ街から東の沢。
三人でPT組んでから噴水広場に移動すればあとは以前天狗さんと戦って解放した境界橋へポータル移動です。ああ素晴らしきかなファストトラベル機能。
同PT内の誰かが開放していればそのポータルへ飛べるんですねこれって。トワに教えてもらいました。
おそらくノノがいる状態でこの橋を越えようとするとまた天狗さんとバトルになってしまうので、そちらは無視して洞窟方向へ沢登りしながらのモスライム探し開始です。
「さーて、メロンゼリーちゃんはどこかにゃーっと」
「ゼリーというには油っこすぎでしょ、あいつ」
「……油?」
「体内に油溜め込んでてよく燃えるの、落とすアイテムもオイル」
「……おお、不思議生物。楽しみ」
「いたぞー」
話しながら歩いていると早速遭遇。噂をすれば影とはよく言ったものです。
「んじゃあ今あたしを狙ってるから、ノノっちはあたしごとやっちまってくれぃ」
「……わかった。この犠牲は忘れない」
「妹さんには姉は立派に闘って散ったと伝えておくよ」
「いや散るつもりは微塵もないんじゃが!?なに湿っぽい空気にしとるん!?」
「沢だし」
「……苔むしてるし」
「そういう意味じゃないぜよ!?」
仮に散ったところで噴水前に戻るだけですしね。
「……じゃあやる」
「あーもう、いつでもどぞどぞー」
「……【おもいあい】」
ノノがスキルを発動した瞬間、みしり、と空間が歪んだように感じ--
「ぐっ……」
「こいつぁ……なかなかキッツい……ぜよっ」
「……っ」
見えない、空間そのものに押しつぶされそうな、もしくは下からものすごい力で引っ張られるような感覚。ある程度身構えていたのにも関わらず、そんな覚悟をあざ笑うかのような重圧。
何とか踏ん張っている様子のトワと地面に縫い付けられるノノ。そして弾けるモスライム。
仮に私が装備込みでまぁ……ざっくり60㎏としましょうか。重力三倍ということは急に120㎏の加重がかかるというわけで。現実じゃあ立つこともままならないですよねこれ。というか死ねる。ゲーム内でもそう判断されたようで私のHPを示すバーがじりじりと減っていきます。
「ノノっ、スキル止めて!」
「……大丈夫」
「えっ?」
「……もう止まr」
ノノが言い終わる前に、スキルの効果が消えました。PTメンバーのノノのHPバーも、消えていました。
「あっ……」
「なむー」
なんという諸刃の剣。効果範囲内なら敵味方関係なくどころか自分ごと平等に重くなるんですねあのスキル。そして私より耐久のないノノが、スキルを止める間もなく文字通り先に潰れた、と。
「……とりあえず、戻るかー」
「……そうだね」
結局噴水に戻るのか……。
重い合い
何気に初死亡描写。まあトワはたぶんミサの知らないところで何度も乙っていると思いますが。




