2-11 ヒトヨンマルマルに噴水前で貴女を待つ
大変遅くなりまして。光陰矢の如しとは申しますがまさにその通りというかどう考えても矢より光の方が速いやろといった感じでごめんなさい。これもガチャ爆死のせいだ。
どうも皆さんこんにちは、お昼ごはん(チャーハン)を食べてきたマヒルです。
砂にまみれた荒野の探索と大怪獣ヤマウガチとの邂逅から5日ほど経ち、長めの春休みも終わりが近づいてきました。
あれ以降、あの荒野には行っていません。あんなのが徘徊する場所に行くのはできれば遠慮したいです。
この高度なヴァーチャルリアリティであの巨体は興奮より恐怖が勝りますね、流石に。普通にテレビ画面でハンティングゲームをやったり、映画館の大画面で怪獣を観るのとは大違いでした。
レイドボス、なんて表示が出てきましたけど……人の身で挑む相手とはちょっと思えないですねぇ……。
サイズ感がまさに蟻と象ですし。
まあ、どなたか奇特な人が頑張って情報収集してくれるでしょう。あの荒野も、あのレイドボスも。
では5日間なにをしていたのかというと、主に採掘とレベリングです。
トワとだいぶ差が付いちゃいましたからね。睡眠時間を犠牲にしながらプレイしているトワに差をつけられるのは当たり前といえば当たり前なのですが、流石にレベル30台と10台はちょっとなぁと思わなくもないので、軽く山籠りをしてきました。採掘もできますしね。
道中の狼もまあまあ美味しい経験値なのですが、【日陰者】のせいなのか、こちらに寄ってこないので私から攻撃しに行かないといけないのが面倒なのですよね。
見かけた他のプレイヤーのパーティーは次々と集られてたのになぁ。贅沢でしょうが、こういう時は羨ましいです。
そんな私が目をつけたのは、山に出没する熊。どうせ捜してこちらから仕掛ける手間がかかるなら、他のプレイヤーがあまり狙わず、経験値を多くくれるのが良かろう、という判断です。
あの熊、ボレイオスベアという名前なのですが、毛皮が強靭で刃物への耐性があるらしいです。ただ、寒さに弱く、氷属性の攻撃を受けると毛皮の防御力が激減し、動きも鈍くなるそうで、その状態で弱点の首の付け根を狙うといい、と教わりました。ありがとう情報掲示板。
採掘場に行きたい人からすると、採掘音を聞きつけて強烈なベアークローを食らわしにくる厄介なモンスターなのですが、個体数はそれほどでもないので、『出くわしたら運が悪かったな。一瞬で帰れるぞ。所持品は知らん』という認識らしいです。
護衛に戦えるプレイヤーを雇うのも採算がよろしくないので、諦めとともに、『現場監督』の名で親しまれているのだとか。採掘を邪魔する監督とはいったい……。
というわけで、熊さん討伐の競争率が高くないことを知った私は、現場監督と親睦を深めることにしたのです。
狼と同じく、熊も寄ってきたりはしないのですが、採掘ポイントを探してうろついていると探知範囲に引っかかることはしばしばあるので、背後に回って氷ブレスと刀でさっくりと。結果的に、他の採掘に来ていたプレイヤーを助ける形になったことも何度かありました。運が良かったですね。
ちょっとしたアサシンプレイのようでなかなか楽しかったです。何度か繰り返しているうちに、【奇襲】と【バックアタック】というスキルも生えてホクホクでした。
倒すと毛皮と牙、爪を落とすのでこれはそのうち、なにかの装備を作る時に使おうと思います。まあ、有り余って自宅の物置に積まれているので、どこかに卸すかもしれませんが。
稀に【熊の手】なる食材分類アイテムを落とすので、そちらはとりなんさんに引き取っていただきました。中華で使うのだとかなんとか。美味しいのでしょうか。
とまあ、ここしばらくはこんな感じです。
あとは出店用の装備もいくつか試作したり、レベルが20を超えたら【龍の才覚】の(幼)の字が取れたり、各属性魔法のランクが上がったり、ですかね。レベルが上がると成長度合いが目に見えて分かるのがいいですね。
しかしあれですね。ひと月休みがあった時の無敵感からすれば、幾ばくか頼りないというか、迫り来る『大学生』という身分が自分の中で主張を強めてきたというか……。
緊張と期待がないまぜになったこの感じは、クラス替えと似ているかもしれませんね。環境の変化度合いでは比べ物にもなりませんが。
どちらかというと引っ越しが近いかな。
まあ、ここで悶々と悩んでもどうしようもないですし、なるようにしかならないですし。未来の私がうまくやることを願うばかりです。よろしく。今の私は残りの1週間を楽しく過ごします。
未来の悩みがぼた餅に変わるように願いつつ棚上げし、今日も今日とてユアプラ日和。待ち合わせもありますし、さくっとログインしましょう。
我が家にログイン。ちなみに、2日ほど前からスタート地点を二階の寝室に微調整しました。
なんとなく玄関前から始まるのが違和感を感じたというか……、まあただの気分転換で深い意味はないのですが。
ちなみにベッドに腰かけた状態で登録したのですが、ちゃんとログイン時もベッドに腰掛けていました。
登録した時の体勢も一緒に記録されるようで、変わり者のプレイヤー達は各々おもいおもいのキメポーズでログインするようにしていたりするそうです。創意工夫が試されますね。
横から煙玉を投げてもらい、日曜朝の戦隊モノよろしく五人同時にログインするだけのプレイ動画などもあり、なんというか、男の子って感じですね。楽しそうで何より。
現在時刻は現実世界だと13:30。こちらの世界だと、日を跨いだばかりの深夜1:30となります。とはいえ、この世界は日付の変更と同時に高々とお日様が昇るので、深夜というよりは日中と言った方がふさわしいのですが。
待ち合わせ時間にはまだ30分ほど余裕があるのですが、相手が相手ですからね。私が早めに着いても先に待っている可能性が高いです。
あの娘なら『初ログインから60分間微動だにしない』とかの条件で称号を得かねない。いやまあ称号得るのを邪魔したいというわけではないのですけれどね。
そう今日は、ノノがこのゲームに初ログインする日なのです。
この後の予定としては、この街の観光案内をしてから軽くクエストこなそうかなといったところです。あとは流れで。
あ、フレンド登録も忘れずにやっておかないとですね。とりなんさんも待たせてしまっているわけですし。
さてと、噴水広場へ向かいましょうか。
「えーと、ノノらしき人物はーっと」
って、よくよく考えたら、姿形が完全に別人になれるこの世界で『らしき』もなにもないのでは。迂闊。
最初のキャラクリエイトで殆どいじっていない私でも髪色違いますし、羽と尻尾とツノ生えてますし、何より服装が真っ黒いフード付きローブという、好意的に見て肌を露出しない文化圏の人のような格好ですし。
仕方ない、ざっと見回してわからなかったら一度ログアウトしてプレイヤー名を聞き出してから——
「あ 」
私の視界に入るやたらと背の高い一人の女性プレイヤー。
初期装備のというか、無装備を意味する初期インナーなのでおそらく始めたばかりのプレイヤーでしょう。
その頭上のプレイヤー名には
−ノノ−
という表示。
……まさかね。
【奇襲】……非発見状態での攻撃を行う場合、最初に与えるダメージに1.3倍の補正がかかる
【バックアタック】……対象の視野角外からの攻撃を行う場合、与えるダメージに1.2倍の補正がかかる




