表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が征くは職人(忍)道  作者: あらじる
私のペットは閑古鳥
58/70

2-10 山を穿つ者

おまたせしました。





揺れる。地面が揺れる。視界も揺れる。

とはいえ、我ら地震大国日本で暮らす者。最初こそ驚きましたが、ひらけた場所ということもあり、大人しく座って大地の動揺が収まるのを待っています。

隣にそびえる記念碑が倒れるとちょっと怖いですが、なにせここは安全地帯で、記念碑はポータルの目印。壊れるわけがなかろうというメタな打算もあったりします。


今声を出したら扇風機前の宇宙人みたいな声になるんだろうか、などと呑気なことを考えつつ、揺れる景色を眺めていると――



山が、動いていました。


最初は、視界が揺れているせいでそう見えているのかと錯覚を疑ったのですが、どうやら見間違いではなかったようです。

間違えていたのは、『山』という認識。


四つ脚の()が、起き上がっていきます。その背に乗っていた大量の砂を振り落としながら。

猛烈な砂煙が立ち、そのカーテンでも隠しきれないほどの巨体が伸びをするように大きく両手を広げます。



「うーわなにあれ。でっか」

「でかいね」


それ以外の感想が出てこない程度に大きいです。

大きすぎて距離感がうまく掴めないですが、立ち上がった高さはこの記念碑の倍はありそうですね。


「ちょっくら近くに行ってみようぜぃ」

「本気で言ってる?」


軽く撫でられただけでも強制自宅直帰コースになりそうなのですが。


「大丈夫だいじょーぶ。ちょこーっと観てみるだけだし。てかせめてアンニャロウの名前ぐらいは知りたい」


その『観てみる』って、軽く一当てして反応を()()()()、とかじゃないですよね?信じてますからね?


「……やばいと思ったら即逃げるから」

「うむ、よろしく頼むぜー」




万が一に備え、二人のリスポーン位置を現在の記念碑に設定し直し、なるべく目立たないようにして、何処へか移動を始めた巨大生物Aに接近を試みます。


件の巨大生物A自身はゆったりとした足の運びなのですが、いかんせん一歩の差が大きいので追いつくのも一苦労です。

加えて、アレが一歩進むたびに足元が揺れるので、こちらの足を揺れに取られないよう気をつけなければいけません。慎重に、かつ迅速に……。





−レイドボス【ヤマウガチ】を発見しました。

ヘルプに、レイドボスの項目が追加されました−


と、視界にシステムメッセージが。

この巨大生物の名前は、【ヤマウガチ】。山穿ち、でしょうか。その巨体にふさわしいお名前ですね。以後よろしく……は別にしたくないので我々のことはお気になさらずに。ええ、すぐいなくなりますので。


そしてレイドボス、ですか。

以前他のゲームをやっていたとき、他プレイヤーとの共闘イベントでレイドボスという単語を目にしましたが……。

その感じでいけば、このゲームの場合は複数のパーティが協力して挑む相手、ということなのでしょうか。

あとでヘルプを確認しておきましょう。


……というか、え、これ倒せるんですか?およそ人の手には余るというか、ジャンル分けが生命体ではなく大自然の脅威寄りというか……。

怪獣モノの映画でも生身では挑みはしないと思うのですが。普通に踏まれて終わりですし。


今後闘うかはともかく、今はもう少し観察して帰りますか。



【ヤマウガチ】は変わらずのっそりと二足歩行を続けています。


前脚には黒々とした鉤爪。手のサイズに対して不釣り合いに大きく、振り下ろされたときのことは考えたくもないですね。


背面にはびっしりと尖った鱗が覆っています。開いた松ぼっくりの様に少し反り上がっているのが特徴的。鱗の生えていない場所を探さないと、物理的な攻撃は通りにくそうです。


後ろに伸びるのは長い尻尾。身体本体とほぼ同じぐらいの長さがあるんじゃないでしょうか。ずるずると引き摺られて、足跡の間に轍を作っています。

戦闘時はこれで薙ぎ払いとかしてきそうですね。爪よりこちらの方が脅威かもしれません。


頭部は……位置が高くてここからではよく見えませんが、細長く尖った形状をしています。イメージとしてはアリクイが近いでしょうか。ただ、後頭部からは一対の角が生えています。




観察結果はこんなところでしょうか。

蹴られるのが怖いので前に出てはいないですが。


「でかいアルマジロ?」

「どちらかというとセンザンコウかな」


落ち着いてよくみるとセンザンコウですね、あいつ。名前の【山穿ち】も穿山甲(センザンコウ)からのもじりでしょうし。

そう考えると、感じる脅威度が急激に下がりますね。

いやまあ、実際の脅威度が変わるわけではないのですけれど。


「あー、いたねぇそんな生き物」

「アリクイとアルマジロに似てるけど、どっちとも別の生き物らしいよ。ちなみにエサは蟻。漢方になるとかならないとか」

「……なんでそんなセンザンコウに詳しいん?好きなの?」

「出典・ノノペディア」

「……なーるほど」


前に動物園行った時にノノから聴いたんですよね。少しテンション高めだったので、あの娘センザンコウ好きなんですかね。

【ヤマウガチ】見たときの反応が気になるところ。


まあ、それはそれとして。


「トワ。ちなみに、なんだけどさ」

「んー?なんじゃいミサさんや」

「あの巨体で、蟻食べると思う?」

「……クジラとかプランクトンで維持してるし」

「海中は口開ければ勝手に入ってくるからね」

「……なんか大地のパワー的な何かを吸い上げてるんじゃにゃいかなー」

「もう一つ気になるんだけど、なんであんなところに記念碑が建ってたんだろうね。集落に個人用の墓じゃダメだったのかね」


まるで埋葬する遺体が回収できなかったみたいですよね。しかも複数人数分。もしくは集落を棄てて移動せざるを得なくなったか。


まあ、同じく巨大化した蟻がこの近辺に巣食っている可能性もあるのですが、それはそれで嫌ですね。なかなかに気持ち悪そうです。


「うーむ……。ま、まあ観察もある程度済んだし?そろそろ帰ろっかにー」

「そうだね」


走って記念碑まで戻り、ヘルブラウナスへポータル移動して帰りました。

しばらくあの辺りの探索はいいかな……。

評価・ブクマありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ