2-9 風まかせ
展開で悩んで遅くなりました。
次はもっと早くあげねば(願望)
笑い転げるトワが落ち着くのを待ち、改めましていざ出発。
–境界橋(ヘルブラウ平原〜飄浪の地)のポータルが開放されました–
と、橋を渡りきったところでアナウンスが表示されました。
なるほど、今後はこの橋まで他のポータルから飛べるようになったわけですか。苔岩の洞穴に向かうのにも近いですし、助かりますねこれは。
「んん?てことはあたしらは今まで安全地帯で闘ってたってことかに?」
「でも安全地帯に敵対mobはいないって書いてあった気がするけど……」
「うーん、まぁ……確かに今はおらんなぁ」
「エリアボスを倒したら解放される安全地帯とか?」
「ぬー、そう考えるのが妥当かにゃあ」
新しいシステムですし、まだまだ謎は多そうですね。とりあえずここまで一瞬で来れるようになったのは助かるわけですし、困るようなことではないのですけど。
……でもセーブポイント代わりのものなら、ボス戦前に欲しかったなぁ、なんて。便利になると贅沢になりますね。
橋を渡って街道を行くこと少々、私達は赤茶けた大地へと足を踏み入れました。
どうやら橋のこちら側は、起伏の激しい荒地のようです。あと風が強い。
植生は、あまり背の高い木は見当たらないですね。背の低い木や地面に這いつくばるように広がる草がたまに目につく程度です。まあこの風の強さではさもありなんといったところでしょうか。
水と緑にあふれ、足に優しい平野が広がっていたあちら側とは大違いです。
また、ただでさえ風が足の進みを遅くさせるのに、時折強風が砂を巻き上げて視界が赤茶一色に染まり、それ以外何も見えなくなります。というかそうなると目を開けてもいられないのですが。
そしてついでとばかりに視界不良な分、マップの表示範囲も探知範囲も狭めてあるようです。余計な事を……。
途中まで我々を導いてくれていた街道も、しばらく歩を進めるうちに砂に埋もれてしまったのか、いつの間にやら錆色の大地に溶けるように消えてしまいました。
まあとりあえずはここまで来たまま、真っ直ぐに突き進んでみますかね。
「うあー、これ絶対髪やお肌に良くないヤツだわー」
「言わないでよ悲しくなるから」
現実だったら髪がギシギシになって指通りと精神が死にかねないですね。ゲーム内でよかったよかった。
悪天候好きの我が友人も、さすがに荒地の砂埃ではテンションも上がらないようで辟易気味です。
「しっかしまぁ、結構な時間歩いてるけどさー」
「ん?」
実際に歩いてるのは私ですけどね。
ここで揚げ足取ってもしょうがないですし、吐き出さずにいますが。
「なんもないし、何処にも着かんなー」
「確かに」
このエリアに入ってかれこれ30分ほど歩き通しなのですが、トワの言う通り、何も見つからないんですよね。
遭難ですか?そうなんです。なんて駄洒落がシャレじゃ済まなくなってきましたねこれは。
山あり谷ありの地形を強風の中無理矢理行軍しているせいか、空腹度の上昇速度も上がっている気がしますし、早いところなんらかの変化を願いたいのですが……。
「似たような風景が続くからどのぐらい進んだのかもわからんしにゃー」
「遠くは砂埃で隠れてるしね」
一寸先は闇とまでは言わないにしても、見通しは悪いですね。空間的にも、将来的にも。
あれからさらに10分ほど歩きましたが、状況は相変わらずの変化無しです。
「これはー、あれじゃな。多分なんか間違えてるんじゃにゃいかにゃー」
「間違えるも何も、途中で道も消えちゃったし、道標とかも見当たらないよ?」
視界不良なので絶対に見逃しがないとは言い切れないですが……。
「あー、そういうんじゃなくてー……、もっと根本的にっていうかなんていうか……この状況に真っ向から挑むのがおかしいんじゃないか?みたいな」
「んー?つまり、特殊な条件を満たせば風が止むとか?」
「『飄浪の地』ってエリア名からして風が止むとは考え難いんじゃが、風をテーマにしたフィールドのギミックかルール的なモノはあるかもしれんにー」
「なるほどつまり、私達が公式を無視してるから正解に辿り着けないと」
「そんな感じがするってだけだけどにー」
しかしいきなりこんな状況に放り込まれたわけで、ノーヒントでルールを把握しろというのも不親切が過ぎるような……。
とすると私達が気づいてないだけでヒントぐらいはすでに提示されている可能性も?ううーん……なにかそれらしいものありましたっけ……。風、風かぁ……。カァ?
「あ」
「どしたー?なんか思いついたん?」
「思いついた、とまではいかないけど……」
メニューを操作して、私達の会話が文字化されて過去の発言を遡って確認できるページを開きます。
えーと、今から1時間前ぐらいだからこの辺のはず……あった。
「発言ログのここ、もしかしてこのエリアのヒントだったのかなって」
指差して見せるのは、エリアボスの天狗さんが置いていったこの一節。
–常に風の如くあれ。さすれば道は拓かれるだろう–
「どう?」
「あー確かにヒントっぽいにー。そーいやこんなこと言ってたっけか。うっかりしてたにゃーこれはー」
「まあ私はヒントっぽいなって思っただけで、どう読むのが正解なのかはわからないけど」
「んー、風の如くってことはー……、逆らわずに風に流されろってことじゃないかに?」
「なる。じゃあそれで行ってみようか」
「うーい、よろよろ」
他にあてもないですしね。えーと、風下は――
風下に向けて舵を切り、風に背中を押されながら歩くこと5分。
「はえー、でっかい岩だこと」
「これはこっちで正解だったってことでいいのかな?」
砂埃の壁の向こうから、大きな岩の棘のようなものが出てきました。赤茶けた景色に、白い岩肌がよく目立ちます。
地理の授業でちらっと出てきた、オベリスクでしたっけ、あれに似てますかね。
近づいてみると、思った以上の大きさでした。
幅も私が両手を広げて並んで二人分ほどあるでしょうか。高さは、近所の信号機よりははるかに高そうですね。10メートルぐらい?まあ比較するものがないのでかなりテキトーですが。
−石柱(飄浪の地南西)のポータルが解放されました−
「お、やったぜー」
「これで何かの拍子にうっかり死んでも、ここまですぐ戻ってこれるね」
「その通りだけど、そうなりたくはないにゃあ」
それも全くもってその通り。
おや、もう少ししたら晩御飯の時間ですね。ポータルも見つかりましたし、ここで一度解散ですかね。
「およ、なんか書いてあんね」
トワが何か見つけたようです。ログアウトを提案しようかと思ったのですが……まだ時間に余裕はありますし、これが終わってからでも大丈夫ですよね。
「ほれ、ここ」
「ん?ほんとだ」
トワの言う通り、ちょうど私達の目線ぐらいの高さに宝石が埋め込まれ、その下に文字が彫られていました。
−風となった戦友達の碑
大光歴478年砂月−
「記念碑?」
「風となった戦友達〜ってことは何かと戦ったっぽいにゃあ」
「戦死者を弔うための墓石がわりとか?」
「そんな感じかもにー」
問題は、何と戦ったのか、ですよね。ヒト同士の戦争か、はたまた強大なモンスターの討伐を目指して、なんてのも考えられますね。
暦らしきものも併記されていますが、この世界の暦なぞわからないですし。このエリアの街が見つかったら調べてみるのも面白そうです。まあ、そういうのが好きなプレイヤーがもうやっているかもしれませんが。
気が向いたら、ってことで。
「ねぇ、そろそろログアウトしない?」
「んお?あーもうそんな時間かー。んじゃあ22時にここ集合で――うおぉ!?」
「うわ、わわ」
地面が、大きく揺れました。
ブクマ、評価ありがとうございます。励みになります。
このサブタイトルで旅番組思い出した人はきっと私と同年代か年上。




