2-6 古典的な展開
令和一発目。今後ともよろしくお願いします。
だいぶ感覚が戻ってきた、かな?
私の装備についてひとしきり所感を入れるととりあえず満足したのか、その後は、トワ自身について語ってくれました。
私が引きこもっていた間もトワは野山を元気に駆け回っていたらしく、レベルも30が見えてきたそうです。
私まだ16なんですけど……倍近い差が開いてるじゃないですか。
あとは以前少し触れていた情報屋について。
『苔岩の洞穴』ボスモンスターについての情報と宝箱の話はそこそこいいお値段で売れたらしく、分け前とナイフの修理代のとして70万ほどお金をいただきました。ごち。
収入どうしたものか考えあぐねていましたが、これは思わぬ副収入です。気分は小金持ち。
まあ消えるときはあっさり消えるのもお金の常なので、無駄遣いしないようにはしますが。倉庫代ご飯代と土地代で勝手に減るしなぁ……。寿命が延びた程度に考えておきましょう。
と、駄弁っている間に沢が近づいてきました。所要時間は10分ほど、でしょうか。
前に全力疾走した時は2分程だったと記憶しているのですが……私の走力どうなってるんですかね。仮に2kmほどの道のりだったと仮定して、2分だと……分速1kmの時速60km……ダチョウかな?
まあスタミナ減りますし、お腹も減りますし、1時間も全力疾走する機会なんてそうそうないとは思いますが……。
「ありゃ、だいぶ景色変わったぬ」
「ほんとだ」
トワの声に従って先に目を向けると、確かに私の記憶とは違う景色が。
以前は沢なので川に沿うように木々が生い茂っていたのですが、街道と交わるところだけぽっかりと拓けていました。そしてその先には予想通り石橋が。
まあ街道引っ張っておいて、川は苔に足取られながら渡れ、なんて不親切過ぎますしね。石橋を叩いて渡る、なんて慣用句もありますが、叩く石橋ぐらいは用意してくれないと困りもの。
「橋かー」
「渡るよ?」
「そりゃー渡るけどさ、ファンタジーな世界で冒険、そして新天地を求める先に橋とくらぁ、嫌な予感もするってぇもんじゃろ?」
え、まあ確かに多少RPGに触れた事がある人なら半数以上が知ってるであろうネタではありますが……。
「まさか」
「まぁ、まさかだけども、ねぇ」
顎を触りながら思案顔のトワ。
「でも滝の裏っかわに洞窟仕込んだり、瑕疵物件に本当に幽霊出してきたりするようなベタ好きな製作陣ぞ?橋渡ったら急に敵が強くなってるぐらいは……無いとは言えんじゃろ」
「たしかに」
否定はできないんですよねぇ。というかやりそうですね。沢という存在で仕切りとしては丁度いいですし、仕切りの向こうに渡って別の生態系があるというのも、不自然では無いですし。
まあ、頑張れば橋がなくても渡れる程度の浅い川なのですけど。
「でも渡らないわけにもいかないでしょ?」
「そこなんじゃよにゃー。ま、心して渡ろうぜーって感じで」
「了解」
ここで立ち止まっていてもしょうがないですしね。渡った先が、今の私達には手に余るモンスターばかりだったとしても、逃げかえればいいですし。
最悪死んでも自宅に強制送還されるだけですし。
用心はしても気負いすぎない程度に。
このはしわたるべからずの逸話に習ってど真ん中を堂々と渡らせてーー
「ん?」
「どしたんミサっち、急に立ち止まって」
「足が止まった」
「そりゃ見りゃわかるぜよ」
「いやそうじゃなくて」
足が動かないんです。いつも通り歩こうとしているのに。
「フハハハハー!暫し待たれよ、そこな童供」
そこに上から降ってくる声。なるほど、イベント発生による強制足留めでしたか。不安になるから余りやらないでほしいなぁ……というか、上?
「天狗じゃ!天狗の仕業じゃ!」
トワが叫んだ通り、そこにいたのは天狗でした。
烏のような黒い翼に山伏のような装束、顔にはご丁寧に鼻高々にしかめっ面の朱い天狗面。これ以上ないぐらいの天狗ぶりですね。
天狗さんはふわりと降りてきて、橋の欄干にカランといい音を立てました。一本歯の高下駄なのに器用ですね。DEXいくつぐらいあるんでしょうか。
「それで、天狗さんが何の御用ですか?」
「うむ、儂はこの橋を渡ろうとする者に試練を与えるよう仰せつかっておる、烏天狗のカマルじゃ」
つまり、ここを通りたければ俺を倒してからにしろ的な面倒な人ですか。いやまあ仰せつかってるって言ってたし、この人も好きでやってるわけではないのかもしれませんが。
「なる、エリアボスかー」
「倒せば先に進める、と」
「フハハ、この儂を倒すとは威勢の良い事じゃの。なに、この先の地の魑魅魍魎どもと渡り合えるか、ほんの少し力を観るだけよ。遊んでやるからかかって参れ童供」
やっぱり橋渡ると敵強くなるっぽいですね。そして天狗さんは適正な戦闘力を持ってるかテストに来たと。
「おっしゃーやってやろうぜミサちー!」
腕の中の人形も気合十分ですね。ここ十数分ぐらい私に抱き上げられっぱなしで動いてなかったですし、暴れたい気分なのでしょう。引き返すという選択肢は無いようです。
まあちょっと死んでも街に戻されるだけなのは先刻考えた通り。デスペナルティも私はまだそんなに痛くないですし。トワは知りませんが。
あ、いや、所持金が多いからそこが割合で減るのはそこは結構痛いな……。
「ただし!」
「ただし?」
「儂が未だここを通るに足らんと判断した場合、殺しはせぬが童供の武器を奪わせて貰う。過ぎたる力は慢心を産むからの。心せよ」
「げぇっ、ペナルティが結構キッツ」
心底嫌そうな声をトワが上げますが、全く同感ですね。私としてもデスペナルティがないのは助かりますが、習作とはいえ作ったばかりの刀を取り上げられるのも御免被ります。ただまあーー
「なぁに、次来る時までちゃあんと保管しておくからの。儂に認めさせた暁には返してやろうぞ。それに何より」
「負けなきゃいいんじゃろ?」
結局のところ、そこに帰結しますよね。
「フハッ、そういうことじゃの。では、小難しい話はこれで終いじゃ。先手は譲ってやるから、いつでも仕掛けてくるがよい」
「おしゃー、その伸びきった鼻へし折ってやらぁ!行くぜミサちー!」
「替えの武器ぐらいすぐ作れるしね」
「緊張感が抜けるからそういうことは言わないでほしいぜミサちー……」
「武器代は別途徴収するから」
「緊張感出てきた!」
じゃれ合いもそこそこに。どこまでいけるか腕試しといきましょうか。拍子抜けするほど弱いとかは無しですよ?
しかしあれですね。橋で武器を奪いにくるのが大男ではなく天狗の方とはこれいかに。
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