2-3 サクラサクラ
お久しぶりです。以前ほどのペース、とはいかないと思いますが、少しずつ書いていければと思います。
とりなんさんとやりとりしているうちに雨も降り止み、晴れ間が広がり始めました。この世界の景色を雨と合わせて楽しみたかったのですが、それはまた今度、ですね。
「ほんじゃあまあ、へい店長!オススメ一つ!」
「お、オススメ行っちゃうっすかー?そっすねー、
今あるのだと山菜の塩茹でと、猪肉の串焼きがいい出来っすよ」
「両方1個ずつ!」
「まいどありっすー。セットのお買い上げで2000Gでございー」
「うーい。釣りはいらんぜよ」
「ぴったりっすからねー」
というか、この二人の方がよっぽど類友らしいと思うのですが。双方ノリで生きてる感がすごいです。まあどちらも生きてるか、は怪しいのですが。
「ミサさんもなんか買っていくっすかー?」
「あ、はい。どんな料理があるか見せてもらってもいいですか?」
「ほい、こちら一覧っすー」
「あ、店長さーん。あっしにもメニュー表ぷりーず!」
「ほいほい、ご覧あれー」
それぞれに表示された一覧をざっと眺めつつ、目当てのブツを探します。
えーと……うん?見つかりませんね……。あ、ストレートな名前はやめた方がいいかもって私が言ったからでしょうか。となるとそれっぽい名前はーー
「とりなんさん」
「ほい、なんでしょか」
私はとあるメニュー表示を指差しながら小声で問いかけます。
「この『森ガニの塩茹で』って、もしかして……」
「あぁ、お察しの通りっすよー」
両手首を合わせて指をわしゃわしゃと動かしながら回答をいただきました。実に気持ち悪い動きです。
骨なので表情はわかりませんが、声色からしてとても良い笑顔をされていることでしょう。
「美味しいんですか?」
「あははー、美味しくなきゃ並べねぇっすよー?」
「それは失礼しました」
まあ、それはそうですよね。せっかく実装されたばかりの味覚をマイナス方向で実感させたりしないですよね。蜘蛛という印象が私のイメージを引っ張っているだけで。
「お構いなくー。ついでにどうっすか?ここは騙されたと思って一皿ぐいっと、ぐぐいーっと」
「うーん……、ではあいつと私の分で二つ」
表示された代金をお支払い。二つで3000G也。今後もこのぐらいの出費が続くのだとすれば、収入上げないといけませんね……。
「毎度ありっすー。よっ友達想い!」
「え、なになに?なんか奢ってくれんの?ミサちー太っ腹ぁふっふぅー!」
メニュー表を注視していたトワが耳ざとく反応してきました。しかし私はフードコートやファミレスのドリンクバーで冒険一歩手前ぐらいを目指す女マヒル。つまるところーー
「いえ、ただの道連れです」
「えぇ……何食べさせようとしてん?」
「よっ、この人でなし!」
「店長さんのせいで余計に不安がましたぜちくしょーめ!このひとでなしー!」
「最初から『人』が一人もいないのですが」
「あっはー、確かにそりゃそーだ」
そういえば以前、トワからは鬼呼ばわりもされましたっけ。霊と骨が私に冷たい。そりゃ死んでるからなって?うるさいですよ。
「あ、そーだ。お二人にちょいっとお願いしたいことがあるんすけども」
閃いたとばかりにポンと手を叩くとりなんさん。
まあポンという音はしないのですが。骨ですし。
「ほ?」
「お願い、ですか?」
何でしょうね。私個人になら調理道具の作製とか考えられなくもないのですが、二人にとなると……うーん?
「今買ったのとは別にご飯用意するんで、そこのベンチで食べて欲しいんす 」
出店スペースのすぐ近くにあるベンチを指差すとりなんさん。
「なぜかウチのことを、皆さん『モンスター素材屋』だと勘違いしてるみたいでですね?せっかく今日のために沢山食事アイテム作って待ち構えてたのに、どーにもお客さんの入りがイマイチなんすよねー 」
「『なぜか』も何もないのでは?ある意味今日までの実績と信頼の結果というか……」
相場の勉強も兼ねて他のプレイヤーさん方のお店もいくつか覗いたのですが、ここのお店が一番モンスター素材の品揃えいいんですよねぇ。値段は普通ですが。
「その評価は有難いんすけどー、あくまでウチは飯屋メインでやっていきたいんす。そ・こ・で 」
「あたし達に、『ここでご飯売ってるぞ』アピールをして欲しいってことかに?」
「そゆことっすー 」
なるほど、それは詰まる所いわゆる漢字で偽客と書くらしいあのーー
「サクラですか」
「ぶっちゃけるとそーなるっすね。適度に『おいしーねー』とか言ってくれるとなおよしっす」
「おしゃー、まかせれー」
「お、やってくれるっすかー。さっすがー」
おい何勝手に決めてくれてますかこいつは。あと何が流石なんですかとりなんさん。
……まあ、別に予定が決まってるわけでもないですし、いいんですけどね。
「はぁ、そういうのやった事ないので、あまり期待しないでくださいよ?」
「いえいえ、可愛らしいオジョーサン方にやっていただけるのであれば、それだけで場が華やぐってモノっすー」
サクラだけに?
「うぇっへへー可愛らしいだってー」
「ホラー人形卒業しててよかったね」
「それ。ホ ン ト それ 」
腕を組んでコクコクと。頷きが切実さを物語っています。『プリティーボディー』なんて言ってはいましたが、見た目気にしてなかったわけじゃないんですね。
「んじゃあ、これをお渡しするんで。よろしくっすー」
「りょーかーい」
「はい」
とりなんさんからサンドウィッチを受け取り、二人でベンチへ。
それでは早速ーー
「「いただきます」」
具材はレタスっぽい葉物野菜と何かの肉のシンプルなもの。サンドしているパン以外構成食材が全くわかりませんが……このゲーム世界で初めてのご飯。いざ!
「あ、美味しい」
「うーまー」
普通に美味しいですね。
肉は豚が一番近いでしょうか。風味や食感が多少違いますが。少し臭い、かな?
葉物は思ったよりパリッとしてました。あと少し辛味がありますね。マスタードがわりも務めるとはなかなか優秀な葉物。その分ソースは少し甘めのものを使っているみたいです。
うーん、さっきまでとは別の感情で成分表示が気になる……。
「お口に合ったっすか?」
「はい、とても。今度買いに来たときはこれにしようかなと思っています」
「あ、それならあたしの分も買っといてくれー」
「覚えてたらね」
というか森に行くトワの方がここ通る回数多いでしょうに……。
「はっはー、お気に召したようで何よりっす。ただまあ、他の料理も同じぐらい美味しいはずなんで、色々と試して貰えると、より嬉しいっすねー」
「たしかに!いろいろ試してみたいにゃー。ここはいっちょメニュー表制覇めざしちゃうかー」
「お、これはお得意様ゲットっすかね。噂の笑人形さん御用達となれば箔がつくってもんっす」
「よせやい照れるぜー」
やはりこの二人の方が類友ですよね。一瞬で仲良くなってますし、似た波長なんでしょう。
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末様っすー」
美味しいものとは美味しいほど黙々と食べがちなモノなわけで。軽食サイズのサンドウィッチということもあり、早々に食べ終わってしまいました。
あ、サクラらしいアピール全然出来てない気がする。
「いやぁ、お二人に美味しく召し上がっていただけたので、自信が持てたっす。ここ通るプレイヤーの目にもバッチリ入ってたでしょうし、ここらで秘密兵器投入っすかね」
「秘密兵器……?」
「なになに?ビーム?ミサイル?」
「ふっふっふー、飛び道具には違いないんすけどねー」
言いつつ、寸胴鍋を取り出し火にかけるとりなんさん。次第に鍋の中のスープの匂いが……。
「ぐはぁ、これは空腹度が上がる凶悪な兵器っ」
「なるほど、たしかに飛び道具ですね……」
嗅覚の有効利用といったところでしょうか。鰻屋さんとかがよくやるやつですね。これがあるなら私たち要らなかったのでは?
もしかして毒味役だったんでしょうか。結果お得意様ゲット……。まあ美味しかったからいいか。




