1-43 送る言葉
おまたせしました。
リアル時間で3時間を過ごし、再びのログインです。
ちなみに今日の晩ご飯はコロッケでした。目玉焼きほどじゃないですが、コロッケもなにをかけるかで人によって結構差がありますよね。我が家の場合、お父さんは醤油、私とお母さんは某お面のソース、一人暮らししているお姉ちゃんは某犬のソースです。全員揃ったときのコロッケは食卓がソース類でやや手狭になります。今度全員揃うのはいつでしょうか。盆かな、それともゴールデンウィークに一度帰ってくるでしょうかね。
「やあやあミサ坊」
「坊はどうなのよ」
謎の光る物体Xことトワとも合流し、幽霊さんのところへ移動します。やはりこの状態のトワは慣れませんね、人形の姿じゃないと落ち着かないです。
早く元に戻して……いや、今の状態が元か。ややこしいですね。
そういえば、この状態のトワって触れるのでしょうか。ちょっと試してみましょう。
「ひゃあ!いきなりなんじゃい」
「いや、触るとどんな感触なのか気になって」
「一声かけてくれよぅ。よし代わりにそのツノを堪能しちゃる」
「ハラスメント警告出ない程度にならどうぞ」
「よっしゃやるぜー」
そう言うとトワが仕返しとばかりに頭に絡みついて来ました。
トワ本体は触ると意外とひんやりとしています。霊体は温度が低いという話を物の本でいつだったか読んだ気がしますが、このゲームでもそうなんですね。
そのせいで今私の頭が程よく冷やされています。夏場にいいかもしれませね。というか地味に私の耐氷無視してませんかこれ。炎や氷属性とは違った温度変化扱いなんでしょうか。
感触は、なんですかね、説明し難いです。粘性のないスライムというか、抵抗は感じるけど指が沈んでいく感じで、掴みにくそうです。
ふざけあっていたら、我が家にしたい物件ランキング第1位(私調べ)の瑕疵物件に到着していました。
早速中へ。
「こんばんは」
「こんばー」
お店の中はまた真っ暗でした。雨戸は開けたのですが、夜時間ですしね。照明の魔道具に触れて店内を明るくします。
『お、来たね。出来てるから奥に来てくれ』
幽霊さんは奥の作業場にいるようです。よかった、完成と同時に未練がなくなって消えてたらどうしようかと。
『どうだい、見違えるようだろう?』
奥の部屋に入ると幽霊さんが自慢げに人形を抱えていました。
「うっひゃー、すげいですね。美人さんになっちゃってまあ」
「動かして壊したら勿体無いから飾っとこうか」
「ぐぬ、賛同はしかねるが気持ちはよくわかるぜよ……」
服は着替えさせられ、ゴスっぽいのは前と同じですが紫と黒を基調にしたものになり、少し大人っぽい印象に変わっています。可愛い。
割れていた眼球も綺麗に作り直され、まっすぐこちらを見つめています。
細かく大量にあった擦り傷もなくなり、まさしく白磁の肌といった感じですね。
うん、これで動き回ってまたボロにするのは忍びないですよね。
『うむうむ、わたしとしても納得のいく出来栄えだ。飾って眺めて数日は過ごせる自信がある』
流石にそれはちょっと。どれだけ人形好きなんですか。
『しかしながらまだ完成ではないのだよ』
「ほよ?」
「まだあるんですか?」
『まだあるもなにも、わたしがまだここにいるのだからね。これからが本題さ』
「遣り残したこと、ですか」
『そういうこと。まあ実際作りかけの部分もあったんだがね。そこはさっきまでの作業で完了している。つまるところここからは仕上げの部分だ。そしてそれは君たちにとっても大いに助けになるはずだ』
どういうことでしょう。幽霊さんの未練が私達の助け……?
『わたしがこの子に遣り残したことの最後、それはね。コレを埋め込むことだったんだ』
そう語る幽霊さんが掲げるのは不思議な青い宝石。
飛○石でしょうか。見た目は割と近いのですが。
「おねーさんそれって○行石?」
親友も同意見でした。海に捨てに行けばいいでしょうか。
『その石は知らないが……コレは【記憶の石】と言ってね。正確には石ではなく、術式と魔力の高密度集合体らしいのだが……埋め込んだ物体を保全、修復してくれるようになるアイテムなのさ』
「形状記憶ってやつ?」
『おおよそそういうことだな。傷がついてもしばらくすると自然と直るらしい。故に、好きなだけ動き回っても大丈夫というわけだ』
なるほど。作りかけだから壊れやすいと言っていたのは、壊れなくする方法を知っていたからなんですね。
今までは作りかけだったから石に記憶させるわけにもいかず、完成を急いだが間に合わなかった、と。
「おお、それはすばらしいですねおねーさん。いやおねーさま!」
『まあ、あくまで人形の素体部分だけだがね。服の替えはまだいくつかあるし、希望があればそこの彼女あたりに作ってもらってくれ』
「というわけだ。頼りにしているぞ、ミサ君」
「布と金ちょうだい」
「大事に使いますはい」
『ははは、仲がいいんだな君達は。ずっと見ていても飽きなさそうだ』
「ほんとですか?よっしゃミサちー、漫才コンビでも目指すか」
「なんでやねん」
『ふふ……ではわたしは特等席から見させてもらうとするよ』
そう言って幽霊さんは少し寂しそうな顔で笑うと、石を人形に押し当てていきます。
石は硬そうな見た目に反して人形の額に吸い込まれるように進み、そしてーー完全に無くなりました。
『ふぅ、長かった。長かったが、最後にこんなに楽しみと驚きに溢れた時間が過ごせた。十分お釣りがくるな。わたしの人形屋歴も黒字で幕を下ろせるというものだ』
「お別れ、ですか」
『ああ、お別れだ』
「そっか。じゃあね、おねーさん。お元気で、は違うか。うーん、ごめーふくをお祈り……お幸せに」
『ははは、今以上の幸せはどうだろうな。ちょっと想像つかないが……それはそれで楽しみだな』
幽霊さんの輪郭が少しずつぼやけていきます。
『では、さらばだ。君達の征く道筋に、どうか幸多からんことを』
「ええまた、どこかでお会いすることもあるでしょう」
「? ばいばい、おねーさん」
−特殊シナリオクエスト【元住人霊からのお願い】を完遂しました−
そろそろ一章が終わりそうです。章分けがやっと仕事しそうです。
更新時間、今後もこのぐらいにした方が良さそうです。すみません、ズルズルと遅くなって。




