1-42 中の人
お待たせしました。
「戻りましたー」
『おかえり。今行くよ』
トワを一旦外に待たせて、幽霊さんを作業場から店舗部分に来てもらいます。
『おや、肝心の人形はどうしたのかな?』
「持ち主を連れて来ました。トワ、入って」
扉を開けて招き入れます。そしていつものように人形を操作して入ってくるトワ。
さて、幽霊さんの反応は……?
『ははは……全く、今日はなんて日だ。こんなに驚かされ続けた日は初めてだよ』
「えー、ただ今ご紹介に預かりましたトワです……」
『喋った!喋れるのか君は!』
「はいうへぁ!」
人形に駆け寄り、抱き上げる幽霊さん。
すごい浮かれっぷりですね。とても嬉しそうで、頬ずりしそうな勢いです。
『はぁー、そうくるかー。色々想定以上だよほんと』
「あ、人形お返しします」
『へ?』
人形からトワの本体が抜け出して私の方へ。久々ですね本体見るの。
幽霊さんに抱かれている人形は力を失いぐったりと。
『あれ?ああそういうことか。そっかそっか、ご同輩か』
「どもっす」
『なるほどね。いやはや、自分の作った人形が動いて喋るだなんて夢のような光景だったからね。つい興奮してしまったよ』
「あの、なんかすいません」
『ん?なにがだい?』
「ぬか喜びみたいになっちゃって」
『いやいや、その手があったかと感心したよ。あー、なんで思いつかなかったかなぁ生前のわたし……』
人形を動かす研究とかもしていたんですかね、幽霊さんは。人形に関節つけたら、自在に動いてほしいと思うのも不思議ではないですか。
『よし、切り替え切り替え。このアイデアはあの世でじっくり考えるとして、今はこの子の修理だ』
「おお、よろしくたのんます」
『うむ、任せたまえ。バッチリ綺麗にしてあげよう』
「よっしゃー!これで出会い頭に悲鳴をあげられたり武器を構えられたりしなくなるぜー」
やっぱり知らない人はそういう反応になりますよね。しかし、人形が歩き回ってる段階で十分ホラーだと思うのは私だけでしょうか。自動人形のプレイヤーとは明らかに背格好も違いますし。
綺麗になる分多少はマシになるのでしょうが……。
おばあちゃんの家に飾ってある綺麗な日本人形とかもかなり圧を感じるというか……子供の頃とても苦手だったんですよねアレ。フィギュアやソフビにはない不気味さみたいなものがありますよね、こういう人形って。
『さて、わたしはこれから早速修理に取り掛からせてもらうが、君たちはどうする?』
幽霊さんから質問され、顔を見合わす私たち。といってもトワの顔がどこにあるのかわかりませんが。
「うーん、あたしはいったんログアウトかにゃー。晩飯前にナイフ受け取ろうかなって来ただけじゃし。」
「ああ、もうそんな時間か」
ここは私も一度ログアウトですかね。人形の修理風景も気にならないわけではないのですが。というかかなり後ろ髪を引かれる思いなのですが。
「では私たちは一旦出ますので、よろしくお願いします」
『うむ、了解だ。そうだな今から……だいたい6時間程か。そのぐらいしたら終わってるだろうから取りに来てくれ』
リアル時間で3時間、ご飯食べて寝る準備して少し余裕があるぐらいですね。ちょうどいいです。
「では、また後で」
「またね、おねーさん」
『ああ、またな』
二人で店を出ると、トワが話を切り出して来ました。
「んで、今度は何を起こしたのかにゃ?」
「人をトラブルメーカーみたく言うな」
「日頃の行いをよく思い返すのじゃ……」
「……百歩譲ってトントン」
「ぐうの音も出ないぜよ」
当然わたしが譲る方です。基本あっちがトラブルメーカー。
それはともかく、一連の事情をトワに説明します。
「ほほー、特殊シナリオクエストねぇ。達成報酬とかすごそう」
「私としてはここ借りられるだけでいいんだけど」
結構設備充実してましたし。
「はっはー、ミサっちは欲がすくないにゃー。もう少しぐらいがっついた方がいいと思うゾ」
「そうかな?」
「物件借りに来て特殊クエスト発生して物件借りられるようになりましたはい終わり、ってなんか味気なくない?」
「うーん」
そういうものじゃないでしょうか。安く上がる分の手間と思えば必要経費な気もしますし。
「ま、終わってみればわかる話か。と・こ・ろ・で・さー」
「なに?」
「あたしちょーっと疑問に思ったわけなんですけども」
「だからなによ」
「あの幽霊さん、NPCだと思う?」
「はい?」
急になにを言い出すのでしょう。頭上表記は【元住人の霊】で友好NPCだったのですが。
「いやね、果たしてNPCがあんなに自然な会話できるのかにゃーって、トワちゃんは気になった訳さ」
つまりーー
「誰かが中にいるってこと?」
「あたしの予想だとにー」
ふむ、言われてみればかなり自然に会話をしていました。AIが高性能なのだと言われればそうなのかもそれませんが、たしかに人が入っていると思ってもおかしくない、ですね。
「でも、なんで?やる意味というか」
「んー、あたしが考えるにだね、楽しいから……とかじゃないかって」
「楽しい?」
「だってさー、そもそもの話よ?このゲーム作った人達が一番このゲームを楽しみたくて作ってるわけじゃん?だから、そういうこともあり得るのかなーって」
「……なるほど」
分からない話ではないですし、ありえない話でもないですね確かに。そういう意味での特殊クエストという可能性もあると。しかしーー
「それ、中に人がいるってわかってもどうかする?」
「いんや、別に?ただ気になっただけー」
まあそうなりますよね。
発想としては面白い、あり得たら面白い、な都市伝説みたいなものでしょうか。もしかしたらあのNPCも実は……的な。
まあ、本当にそうだとしても、お互い楽しめればそれが一番ですよね。
難産でした。もっとすらすら展開や会話が出るようになりたいですね。




