1-40 目に物
大変お待たせしました。
さて、お探しものの正体と現所持者は判明したものの、ではすぐに取りにいけるかというとまた別の話なわけでして。
トワまだログインしてないんですよね。一種の進行不可バグじゃないですかこれ。まあ待っていればそのうち来るとわかっているだけマシでしょうか。
ナイフを渡す用事もありますし、夜に合わせてログインし直した方がいい気もします。
とりあえず今は、幽霊さんに事情を説明しておきましょう。自称カジュアルロールプレイ派の私としては、こういう時極力空気感を壊さずに説明したいので、少し言葉を考えます。
「確かに今の持ち主を知ってはいるのですが、持ち歩いていて、今ちょっと遠出しているんです。夜には戻って来ると思うのですが」
まあこんな感じでしょうか。嘘ではないですし。
『おお、そうなのか。なに、日付の感覚が怪しくなってしばらく経つ身だ。多少待つことぐらいどうということもないさ』
あと、悲しい事実も前もって伝えておいた方がいいですよね。いきなり対面させたら下手したらトワの命にも関わるというか、私も巻き込まれかねないというか……。
「あと、ですね」
『なんだ?』
「ボr……いえ、だいぶ汚れや劣化が目立つといいますか……」
『……結構ひどいのか?』
「はいまあ、子供が見たら泣くんじゃないかと思うぐらいに怖い見た目です」
『ははは、そうかそうか。教えてくれてありがとう』
おや、思ったより気にしていないご様子?
『わたしの気分を害するとでも思っていたかい?』
「そうなってもおかしくはないとは思っていました」
『まあ、全く悲しくない、辛くない、とまで言うと嘘になるがね。形あるものはいつか壊れるものさ。それなりにこなれてきたとはいえ未熟者の、それも作りかけのモノとあっては尚更ね。それに』
それに?
『壊れたなら直せばいいじゃないか。わたしの体は生憎そうもいかなかったがね。ははは』
笑い事じゃないのですが。
「なるほど。その設備もありますしね」
『そういうことだ。持ち歩ける程度には形を保っているのだろう?悪ければもしやどこかで塵に還っているのではと心配していたがその程度なら十分さ』
心の強い人でよかったです。とりあえずの懸案事項は消えましたかね。
修理の準備をするというので、作業場に移ります。
内部のことはからきしですが、とりあえず目立った破損箇所を教えておきましょうか。
「服はなんというか全体的にほつれや擦り切れが目立ちます。あと右袖は完全に無いです」
『ふむ、それはもう修理どうこうよりもとっかえた方がいいな。そこの箪笥の上から二段目を開けてくれ』
言われた通り箪笥の二段目を引き出すと、色取り取りの服が入っていました。これは……。
『着せ替えセットだ。人形、しかも女の子には必須だろう?』
幽霊さんの声がとても自慢げです。替えの服あったんですね。いつか作ってあげなきゃとは思っていましたが、こういう解決を見るとは……。ほっとする反面、少し悔しい気もします。
「あと、私が見える範囲で破損していたのは眼球です。左眼にそこそこ目立つヒビが」
『あー、ガラスで作ったからなぁ。あれのスペアはさすがに無いから作るしか無いか』
「何か手伝えますか?」
『おお、ありがとう。そうだね、材料は……大丈夫そうだ。じゃあ窯に火をつけてくれるかい?あ、でも薪がないか……』
うーん、グルドさんから分けてもらうことできるでしょうか。できなかったらとりなんさんのところで木材を買うしか無いですかね。
「ちょっと出てきますね。薪になりそうなもの探してきます」
『よろしく頼んだ』
試しにグルドさんに相談してみましょう。
「グルドさん、ちょっと相談なんですが」
「おぅ?どうした改まって」
「薪と炭、売ってもらえませんか?」
「なんだそんなことか。いいぞ。400Gでいつも使ってる半日分売ってやる」
「ありがとうございます」
「あんただから大丈夫だとは思うが、変なことに使うなよ?」
おお、友好度をあげて信頼してもらえるようになったということでしょうか。嬉しいですね。
早速購入し、幽霊さんのところへ戻ります。
「戻りましたー」
『おお、おかえりー。ははっ、おかえりだなんて……言ったの子供の時以来だよ。ははは』
いやだから笑いにくいですって。喧嘩して置いてきた両親のことが頭をよぎりますって。
「……じゃあ窯に火を入れればいいんですね」
『ああ、よろしく』
いつもの点火ブレスでほいっと。
『……これは驚いた。不思議なツノでもしやと予想はしていたが、龍の形質を強く持っているのか君は』
「はい。龍人です」
『ああ、言葉が足りなかったな。龍人と一言にくくってはいても、どの程度先祖に近いかはかなり個体差が出るものなんだ。わたしの知り合いにいるのはちょっと鱗が体表にある個体と羽根が生えて浮くことができる個体。ブレスを吐ける個体なんていうのは結構珍しいものと聞いていたが』
へぇ、そういうものなんですか。まあプレイヤーとして選ばれるのは各種族の中でもある程度優れた個体ということなんでしょうね。
『いやはや便利そうでいいね。わたしは魔法の素養はからきしでね。じゃあこれを窯に入れてくれ』
「はい」
渡された容器を窯に入れ、ガラスが溶けるのを待ちます。
ガラス製品は初めてなので、楽しみですね。
おかげさまで総PV50万が見えてきました。ありがとうございます。
明日はお休みします。




