1-37 おかねのはなし
おまたせしました。
評価や感想等いつもありがとうございます
マトンさんの借りている土地にやってきました。前に来た時とはすっかり様変わりし、これぞ畑!という感じになっています。
私が渡した作物以外にもいくつか見慣れぬものが植わっていますね。
この世界の固有種もあるんでしょうか?少し気になります。私が手に入れたのは現実にあるやつばかりでしたし。
畑の端には【石ころ?】の区画もありました。果たしてこんにゃく事業は進展するのでしょうか。納品用が採取できるだけでも結構美味しいので、邪魔にはなっていないと思いたいです。
さて肝心のマトンさんは……お、マップによると併設された小屋内部に反応ありですね。おそらくマトンさんでしょう。空き巣の類いじゃないといいのですが。
「ごめんくださーい」
とりあえずノックしてみます。
「うお!? ん? ああ、ミサさんか。今出る」
中から聞こえるのはマトンさんの声。変声スキル持ちとかいたら話は別ですが。
それにしても不意打ち気味の声だけで判別つけるとは、すごいですね。二回ほど会話しただけなのですが。
客商売はこれぐらい出来ないといけないということなのでしょうか。
「よ、昨日ぶり」
「こんにちは」
「オレになんか用かい?」
「ええまあ、昨日のお礼に、と思いまして」
クワを取り出してプレゼント機能で渡します。
「よければ使ってください」
「お、クワか。意外と消耗早いから助かるぜーーは?なんだこれ」
クワですけど。
「何か不具合でもありました?」
「いやいやいやいや、不具合っつーか……いくつか質問いいか?」
「はい」
答えられる範囲なら。
「まずはー……まあ素材から訊いていくか。この不思議な色した鉄……だよな?これは?」
「はい、四色鉄です。闇鉄を弄ってたらこうなりました」
「闇鉄?」
「苔岩の洞穴で拾えるやつです。ボスのコウモリが落としました」
「あぁ、あの二日前ぐらいに発見報告のあったダンジョンかーーってボス倒したのか!?報告者は倒したって言ってたが、そのあと一部のトッププレイヤーを除いて誰も倒せてないって聞いてるが……」
「多分その発見報告したの、私のフレンドです。一緒にいたので」
「……倒し方をうかがっても?」
「……一応、秘密ってことで」
トワが言わなかったことを私が言うのもなんだかなぁ……。あえて情報出してないんでしょうし。『情報戦はすでに始まっているのだよ』、でしたっけ。今後どうするつもりなのかわかりませんし、私は困りませんし。
「属性付きの金属なんて発見報告皆無だし、説得力はある、か……。あ、そういやホラーな見た目した人形が魔剣持ってるんじゃないかみたいな報告はあったな」
「あ、それがそのフレンドです」
「やっぱりか。情報板でちょっとした噂になってるぞ」
見た目怖いですし、そりゃあ目立ちますよねアレは。
というか闇鉄すら見つかってないんですか?あれ、意外とレアドロップなんでしょうかアレは。
「じゃあ魔剣の噂も……」
この辺はある程度ぶっちゃけちゃいますか。クワ見せといて今更ですし。
「多分私が作ったヤツですね。なんか火が出るようになっちゃいましたが」
「何をどうやったらそうなるんだ……」
「それも一応秘密ということで。あ、そのクワは火が出たりはしないのでご安心を」
「あ、ああ。そもそもそういう発想まで行き着いてなかったわ」
凍ったり水が出たり黒いモヤが出たりもないですよ?
「えーと、じゃあ次の質問だ。祝福とかいう謎項目についても秘密なんだろうし……なんでこんな貴重そうな代物をオレに?」
「昨日のお礼です。あとは……横の繋がり強化用でしょうか」
「あー昨日オレがした話か。うーん、気軽に渡されるにはかなり価値がぶっ飛んでるっつーか……」
「そう、そこです。」
「そこ?」
そこです。
「私、相場が全くわからないんですよ」
「はぁ?」
「自分の作った物がどのぐらいの価値でどんな値段なら適正なのか全く見当がつかないんです。そのあたりご教授いただけると嬉しいのですが」
「あー、そうか。生産新人だもんなぁ。」
「そういうことです」
お察しいただけたようで何よりです。
「しかし、教えてやりたくはあるんだが……オレも結構その場のノリで決めるからなぁ。あとは他の同業がどんぐらいで売ってるかによる」
「ちなみにですけど、そのクワ、売りに出すとしたら幾らぐらいになりそうですか?」
「さてなぁ……」
少し考え込むマトンさん。色々と計算してくれているのでしょう。
「まず、基準になるのはNPCの売値だ。このアイテムの売却値じゃないぞ?普通のクワをNPCがいくらで売ってるかって話だ」
マトンさんの授業が始まりました。ありがたく拝聴させていただきましょう。
「ちなみにボロクワが1000、普通のは2500だ」
ツルハシと一緒なんですね。
「しかしこのクワの場合、まず素材から違う。追加効果は後で考えるにしても、基準となる本体価格からズレるわけだな」
「属性がついてるから高くなるってことですか?」
「多少あってるがそうじゃない。問題になるのは素材が報告に上がってないようなレア素材だってことだ。ていうかなんでわざわざクワなんて作ったんだ……それこそ魔剣とかに使うのがいいだろうに」
「それしかなかったのと、属性3つまでは再現できるので、そこまでレアとは思わなかったです」
鋳塊のアイテム欄にも意外と簡単に作れるって書いてありましたし。
「……まあいいか。未発見の場合当然値段は跳ね上がる。基本的には最初に見つけたやつが好きに値段をつける。現状、属性が付いた金属自体無いところにいきなり四属性だ。鋳塊があるなら10Mは軽くいくだろうな。オークションならどこまで行くやら」
1Mが1ミリオンで100万、でしたっけ……ということはーー
「1000万!?」
「攻略目的のトッププレイヤー達がこぞって欲しがるだろうな。購入権を巡って決闘とかもありえるな」
えぇ……そんなにおおごとにしなくても、闇鉄さえ持って来てくれれば……ってボスコウモリ自体討伐方法探ってる状態なんでしたっけ。倒したところで闇鉄が出るかも不明、と。
「それでまあそんな素材で作られたクワがこれだ。値段つけろって言われてもオレも困るのが正直なところだな」
「なんかすいません」
「鉄鉱石が一個650が平均だったかな。そっからNPCのクワが2500として、約4倍だ。四色鉄が最終的に幾らに落ち着くかわからんが、現状仮に10Mとしても、4倍して40Mか。4000万?クワに誰がそんな値段払うんだよ。オレは払うけどな。オレが買わなきゃ誰が買うってヤツだ」
払うんですか。さすがですね。
「ミサさん、悪いことは言わないから、攻略周りの情報も仕入れた方がいいぞ。金銭的な損得もそうだが、変な客に集られやすくなる」
「はぁ」
「例えばー……そうだな、オレがこのあと、いろんなプレイヤーに『こういう物をタダで貰った。くれたのはアイツだ』って言いふらしたらどうなると思う?」
「それは……困りますね」
タダで俺にも作れってなるということですよね。
「だろ?もちろんオレはそんなことはしない。けどそういうことを平気でする奴もいる。だから情報の……あー、そういう意味でオレに相談に来たのか」
「すみません。お手数かけます」
「いや、よく来てくれた。授業料も貰ったし、オレが教えられることはしっかり教えるから任せてくれ。正直4000万分の価値ある情報かって言われると不足が過ぎるけどな」
知らぬは一生の恥とも申しますし、4000万で一生の恥を回避できるなら安いものです。というか私的にはせいぜい鋳塊一個5000としても2万ほどしかいかないのですが。世間とのズレは直さないとまずいですよね。
「はい。よろしくお願いします」
しっかり学びましょう。
モノの価値って難しいですよね。お金で買えない価値がある。そういう話ではないですが。




