1-23 傀儡師
ブクマ、評価感想ありがとうございます。
励ましの感想とかほんと心が強められる思いです。なかったら折れてただろうなぁ……
ガッツンガッツンとツルハシで岩を叩きます。
あっちに鉱石、そっちに水晶、その向こうにまた鉱石。未知の素材を集め集めて何作ろう。どんな装備が出来るかな?
「ふへへ……」
私今、最高に生産職っぽいことしてます。こう、これです。こういうことしたかったんです。
十分ほど前まで空だった宝箱は、容量の半分ほどまで様々な採掘結果で埋まっています。
最初に採れた水晶以外にも、鉄鉱石や銅鉱石といった馴染みのあるものや、竜牙の化石、琥珀といった太古のロマンを感じるものまで雑多に詰め込まれています。さあ次は何が採れ……
「あっ」
岩に向かってツルハシを振り下ろすと、べきり、と柄が折れてしまいました。
私の初冒険からずっとお世話になってきたボロツルハシ君がとうとう寿命を迎えてしまったのです。
平原でお芋を掘り返したり、闇の中の激闘で石柱を砕いてコウモリを崩落に巻き込んだりした過去の思い出が蘇ります。短い間でしたが、かなり濃い活躍をしてくれたような気がします。
折れたのは柄ですが、刃の部分もボロボロですね。
やっと本来の仕事に従事させてあげられたと思ったらお別れだなんて……お疲れ様でした。
−【古びた鉄の残骸】×1を取得しました−
「ん?」
上の金属部分はアイテム化するんですね。これはもしや、溶かせばまた使える……?
これは粋な計らいをしてくれるじゃありませんか運営さん。可能ならツルハシ君を生まれ変わらせてあげましょう。何に転生させようかな。
これ以上ここにいても採掘は出来ないので撤収しましょう。インベントリにツルハシの残骸をしまい、鉱石の詰まった宝箱を抱えて、先ほどトワを置いていった場所に戻ります。
「お、戻ってきたかー。おかえりー」
「ただいま」
「どだったー?」
「まあぼちぼち。ツルハシ壊れちゃったから帰ろうかなって」
「ありゃ、そいつぁお疲れ様」
「ん。そっちは?」
「ナイフ補正スキル取って練習してたー。この子の手でも振るえるようになったんだぜ」
トワはアルバの操作練習をしていたようです。あの大狼に余裕で当てられるぐらいになってくれると嬉しいですね。しかしスキルですか……
「なんかごめん、押し付けたのに武器スキルまで取らせちゃって」
「はっはー、ちょうど良かったから気にしなさんなってぇ。この手だとでっかい武器は持てなかったからさー。そのうちこうしてただろうし」
「そっか」
そう言うならまぁ。気にしない事にしましょうか。
「そんなことより観ててよこれ。そいそいっと」
言うが早いか素早く宙にナイフを走らせるトワ。
軌跡が炎となり、文字を象ります。って誰がバカか。自己紹介かな?
「手持ち花火みたい」
「でしょでしょ!大声出さずに言いたいこと伝えられるんだぜぃ、画期的じゃろ?」
確かに画期的ですね。時代が時代なら。
「メッセージ機能でいいんじゃ」
「……確かに。じゃあ敵の身体に焦げ跡で嫌がらせするぐらいしか出来ないかー」
「『その身に刻め!』って言いながら『バカ』って書くの?」
「笑っちゃって直視できなくなるにゃー」
「私も」
敵に文字読める知識と感情があったら間違いなく怒るでしょうね。ヘイト管理にはいいかもしれませんが。でも笑っちゃったら同罪でしょうか。
「ダメだ想像しただけで笑いが」
「めっちゃ怒ってるモンスターのお腹にバカって……ぶくく」
「んっふふ、そりゃ怒るよね。誰だって」
「それで迫ってくるんだぜ」
「んふっやめ、んふふふふふ」
「あははははははっ」
二人でひとしきり笑った後、トワがナイフを仕舞って私に飛び乗って来ました。
「わっと」
「そんじゃ帰ろうかね」
「だね」
そのままトワを肩車しながら歩き始めます。
歩きながら、今の動きでふと気になったことをトワにぶつけます。
「なんか前より動けるようになってない?」
「お、そこに気づくとはお嬢さんオメガ高い」
とんでもなく高そうですね。というか跳んだり跳ねたりはこれまでほとんどしなかったのに、いきなり飛び乗って来たら嫌でもわかるでしょうに。
「何を隠そう、あたしもスキルが生えたのです!あとついでに称号も」
おお、それはめでたいですね。しかし、
「称号の方がついでなんだ……」
「実感としてスキルの方が劇的だったからにー」
私の【日陰者】も実感はあまり湧かないですし、称号ってそういうものなんですかね。
「それで、どんなやつなの?」
「えっとねー、スキルは【傀儡師】、人形に道具持たせて動かすのがトリガーらしいぜよ。人形の操作をサポートするスキルなんだそうな」
「へぇ、おめでとう」
「どもどもー。いやぁ、めっちゃ動きやすくなって大助かりだぜぃ」
トワにとっては待望の、と言ったところでしょうか。ナイフスキルと合わせて人形での近接戦闘も出来そうですね。
「称号は?」
「【アクター】、他種族として振る舞う時間が一定以上が条件なんじゃと。ただ……」
「ただ?」
「んー、もしかしたらなんじゃがプラスで、対応した種族として振る舞うためのスキルを持っていること、が条件なんじゃないかにゃーって」
「隠し条件ってこと?」
「多分にゃー。ってーのも【傀儡師】とった直後に来たからなんじゃが。あっしの場合、擬態種族がオートマタで、対応スキルが【傀儡師】って感じで、時間経過とスキルが関係するのかにゃーって」
「ほうほう」
「ま、たまたまかもしれんがにゃ」
なるほど、ありえそうな話ですね。私の場合、ステルス系のスキル保持が隠し条件だったりしたのでしょうか。
「それで、効果は?」
「んー、『より演技しやすくなる』、としか書いてないのよなー」
「なにそれ」
「さっぱりだよにゃあ」
まあ私も、『気配が薄くなる』としか書いてなかったですけどね。全体的にザックリとした説明しか載ってないんでしょうか。
「まあ、そのうち何かわかるでしょ」
「そうだといいんだがにー」
【日陰者】も、なんだかよくわかってないですしね。詳細が判明する日はくるのでしょうか。
「とりあえず、おめでとう」
「おめありー」
その後はとりとめもない会話をしているうちに山を降り、街に到着。そこで解散となり、ログアウトしました。
今日も濃い1日でした。明日はなにをしましょうかね。
ボロツルハシ君死す。だが君の死は君の終わりではない。(ブラック)
【アクター】…条件:一定時間、本来の種族とは別の種族として演技する
効果:より演技しやすくなる
−あなたはだぁれ?−




