1-20 今宵のナイフは血に飢えている
大変、お待たせしました。
平日は18時更新にします。
「んじゃ、来週の火曜日に雨天決行で。あとでメッセージにして二人に送るぜぃ」
「よろしく」
具体的な日取りも決まり、いくつかあった本日の予定はこれにて完了です。充実してるなぁ。ここの利用時間もそろそろ終わりますし、一旦ログアウトして晩ご飯にしましょう。
「さぁて、これからどうすっかねー」
「とりあえず大学生として過ごす間に考えたら?」
「そういう長いスパンの話じゃなくてな?」
「じゃあ晩ご飯かな」
「近づきすぎて通り過ぎてったにゃあ」
注文が多いですね。まあわざとですが。
「私はログインし直したら北に行ってみようかな」
「北かぁ」
「山があるらしいから、鉱石拾えるかなって」
「にゃるほど。んじゃまたそれについてくかー。ダンジョンとか見つかるかもわからんし」
そうそう見つかるとは思えないのですが。ただまあ確かに、坑道的なダンジョンとかありそうではあります。
と、冷めるのを待っていた鋳塊が完成しましたね。回収回収。
品質はC +、祝福は……これを素材にした製作物に炎属性もしくは耐炎属性付与、ですか。耐炎、鍛冶用に私も欲しいんですよね。自分用の装備を作ろうかな。
まあその辺はまた明日にしましょう。
「じゃあ20時半に」
「おっけー」
一応グルドさんにも挨拶してから出ますか。NPCとはいえ、やらないと気持ちの座りが悪いので。
「おじさん」
「おぅ」
「今日はありがとうございました。またそのうち来ます」
「おぅ、またのご利用お待ちしてるぜ」
「んじゃあたしも、お邪魔しやしたー」
「おぅ」
ニヤリと笑った顔が若干怖いですが、やっぱりいい人っぽいですね。ではまた。
店の外に出ると、夜空が広がっていました。
あ、切り替わり見逃した……
晩ご飯その他諸々を終わらせ、あとは寝るだけの態勢を整えてからログインしました。ちなみに今日の晩ご飯は鍋でした。母親曰く、食べ収めかしらね、とのこと。だんだんと暖かくなって来ましたからね、また冬にお会いしましょう。
「やほー」
「うい」
トワとも合流しましたし、早速山目指して北門へ向かいましょう。
「あ、ミサちーちょい待ち」
「ん?」
トワからストップがかかります。なんでしょうか。
「我々はサクジツのアヤマチを繰り返してはいけない、そうは思わないかね?ミサ君」
「まあ、そうだね?」
つまり?
「松明、買ってこうぜ」
「あー、ノースリーブになっちゃうもんね」
「ちょっと野趣溢れすぎだなぁ」
というわけで西門方向へ進路変更、以前にツルハシと軍手を買ったお店に向かいます。確かあそこで売ってたはず。
「まいどー」
お店を見つけるのに少し手間取りましたが、なんとか買えました。さすが露天商、位置が日によって微妙に変わるんですね。
では今度こそーー
「あ、そういやミサっちー」
まだ何か?
「このナイフ、銘入れないん?」
メイ?あぁ、銘ですか。そういえばそんな欄があった気がします。
「あった方がいい?」
「だってさー、記念すべき第1号じゃろぅ?せっかく名前つけられるのに空欄ってのもにゃー」
「ふむ……」
とはいえ、いい名前思いつかないんですよね。ペットじゃあるまいし。物に名前つけたことないですし。
「んー、ダークフレイムとかでいい?」
「よっしゃこのナイフで一躍有名になって銘と作者を広めてやる」
「やめてください」
真面目に考えますか。ダークフレイムは安直すぎますが、名付けの方向性としてはアリだと思うのです。あとは連想ゲームと言語変換をして……メニューからネット上の辞書に飛べる機能なんてなんてあるんですね、便利。変なところでプレイヤーに優しいですねこのゲーム。
「ナイフ貸して」
「お、決まった?」
「ん」
銘の欄をタップして名前を入力、一度決定すると変更できませんの注意文が表示されたので入力間違えてないか確認してから決定を押します。
−【闇鉄のナイフ】の銘を【アルバ】に決定しました−
「ほい」
ナイフを返却。
「アルバかー。どういう意味なのかにゃ?」
「自分で調べて」
まあ特にもったいぶるようなことでもないんですけどね。ここで、『これはこの言語でね、こういう意味でね』って解説するのがアホらしいというか。『そのギャグ何が面白いの?』への回答みたいな虚しさがありますよね。
せっかく気どった名前つけたんだからそっとしておいて欲しいなぁ。ちなみにヒント出すならイタリア語。教えないですけどね。
意味調べられて広められても恥ずかしいのは変わらないですけどね。ダークフレイムよりは幾分かマシでしょう。
「まーわかんなかったらノノっちに聞いてみるかー」
「そうして」
では改めて、山へ向かいましょうか。
昨日と同じようにトワを抱えてひたすら前方へダッシュ。今日は目標の山が視界に入っているのでゴールがわかりやすくていいですね。
おっと、探知で前方に敵発見。近づいてみると狼型のモンスターのようですね。離れているのにこのサイズということは、結構大きいようです。
「ミサっち、そのままダッシュで近づいてくりー。試し切りすっぺ」
「ほいほい」
トワの要請通り走って近づきます。目の前まであと少し、敵側もこちらに気づいたかな、というところでーー
「そい!」
トワがアルバを操って振り抜きました。
ナイフの軌跡に炎のエフェクトが走り、その一瞬後に黒いモヤのようなエフェクトが同じ航跡をなぞります。
大きな狼型のモンスターは悲鳴と思われる鳴き声をあげて倒れ、HPは全損。淡い光に包まれて消えて行きました。明らかに沢のスライムより強そうだったんですが……。
「ええ、怖……」
「誰よこんなヤバいの作ったやつ……」
ほんと誰でしょうね。
イッピキオオカミ…始まりの街北部にそびえる山脈麓に生息する、大型の狼。狼ではあるが群れることを嫌い、その分単独での戦闘能力に長けている。素早く、大きな体軀から繰り出される爪は重く鋭い。




